気付いたら、目で追っていた。
漆黒の髪。
闇色の濡れる瞳。
白い、肌。
俺は気付けばアンタを目で追っていた。
そして、笑っていた。
【密やかに秘めた想い】
此処は大部屋。ジャン・ハボック少尉の上司であるロイ・マスタング大佐が書類を溜まらしており、書類仕事に追われていた。
「あーくそ!あの駄目上司が!」
「おーい、普通に聞こえているぞ」
口々に文句を言う部下。それはハボックも例外ではなかった。ハボックはわざとロイに聞こえる様に大きな声で文句を言う。それも長くは続かず、数分すれば皆書類仕事に集中していた。
少し経ち、ハボックの隣の席に居る同期のブレタが書類仕事を終らした。そしてハボックの書類を手伝い始めた。ハボックはブレタに感謝すれば、後で奢れよ、と苦笑交じりに言った。ハボックは笑顔で了承し、仕事を続けた。
書類仕事がほどんと片付け終わり、残りがこく僅かになる。
「じゃぁ、お先に帰りますね」
「お疲れ様」
次々と自分たちのノルマを達成した者は帰り、残るはハボックとロイだけになっていた。時間帯はもうとっくに定時を過ぎていた。早く終りにしたい気持ちがあるが、此処で焦っても間違えるだけだ。ハボックは急ぐ心を沈ませ、書類仕事をする。
どれくらい時間が経っただろうか?ハボックは書類を完成させた。無意識に背筋を伸ばす。
「大佐終りましたけど、大佐は?」
「まだだ。後少しなのだなな。本当に、書類仕事は厄介だ」
ロイは苦笑交じりに答えるがその手は動き続ける。一瞬哀れに思ったが、よくよく考えたら、これ全てロイがもたらした結果だ。自業自得だし、自分等を巻き添えにしたのだから良い罰だと思った。否、罰には足りぬ。
それでも、良い気分にはならない。ハボックは溜息を吐く。
「あー喉渇いたなー。大佐、コーヒーでも飲みます?」
「どうせならおいしい紅茶が良い。お前もそんなオシャレな飲み物を飲め」
「此処に紅茶と言う洒落たモノがあると思いますか?しかも、おいしい、なんでありませんよ」
此処にあるのは、クソ不味いコーヒーだけだ。ハボックは立ち上がり給湯室へと向かった。案の定、コーヒーは容器に残っておらず、作る事になった。ハボックはめんどくさいと思いながらも、機械をセットした。
次第にセットした機械からコーヒーの良い匂いが香る。
「なぁ、ハボック」
「何スか?」
「お前は何故帰らない?」
ロイの言葉に後ろを振り向くが、此処からではロイの席は見えない。ハボックは再びコーヒー器具を見つめた。
「さぁ。気付けば、此処に残ってるんですよねー何故か」
「そうか」
ロイはそれを聞くとククッと笑った。ハボックはロイの方を向かずに眉間にしわを寄せた。何か馬鹿な発言をしてしまったか?
「お前はいつもそうだな。なんやかんや言って、私の側にギリギリまで居る。まるで、離れたくない、と言う様に」
ドクン ハボックは鼓動が弾んだのを感じた。
いつもハボックはロイが仕事をしてる時などギリギリまで残る事が多い。リザ・ホークアイ中尉よりも長くロイと居る事もある。仕事上仕方ないこともあるが、大半はハボックの意思だ。
何故か、家に帰る、よりも、大佐と一緒に居る、方が落ち着くのだ。
「変なことを言わないでくださいよ」
コーヒーの機械音が消え、場が静まり返った。聞こえるのは書類に文字を書き込む音だけだ。まさか、こんなタイミングで・・・。
「どうかな?本当は一緒にいたいと思っているのではないか?」
そのトーンの低い、独特な低い声にハボックは身を震わした。あの日、銃の演習場で会った。『合格をして私の部下になれ』その言葉がハボックの脳裏を支配する。
家はある。家族だって、居る。でも、兄が殺された損失感がハボックを襲っていた。人を失って出来た隙間は人で埋めるしかない。
「仮にそうだとしたら、アンタは俺をどう思うんですか?」
気色悪く感じるか・・・逆に何でそう思う?ハボックは自問してしまった。この質問は可笑しい。一緒に居たい、と思うのは純粋なる憧れの場合がある。
なのに先ほどハボックが口にした言葉はまるで―――ロイに恋をする乙女の様だった。
ハボックは片手で目元を覆い隠した。
「ハボック、私にもあるのだよ?」
ロイのブレのない言葉にハボックは眉間にしわを寄せた。何があるのだろうか?
「何がスか?」
ハボックは素顔に聞き返せば、ククッ、とまたロイの笑いが聞こえてきた。
「密やかに秘めた想い、が」
ハボックは目を見開いた。密やかに秘めた想い?
「お前もそうだろ?それとも、自分でも気づいてないのかな?」
ハボックの鼓動がより一層激しく鳴り響いてると気付く。何だ?この鼓動?吐き気がするほどに聞こえる鼓動に耳を塞ぎたくなるが、体内で鳴り響いてる音だから耳を塞げばより一層聞こえるだろう。
顔が酷く熱い。それは給湯室だからだ、と言い訳をして、何を言えば良いか必死に考える。
「その秘めた想いって―――」
「私の口から言わすつもりか?」
苦笑交じりにロイは言う。だが、何故だろうか?その声の質からか、笑ってる、と思えなかった。可笑しい話だ。声は笑っているのに、それを理解する脳が、笑ってない、と判定する。
どっちが当たってるか分らなかった。どっちの判定もハボックにとって良い流れではない。
「まぁ、どちらかが言わないと時間の無駄だろう。もしかしたら私だけが想っている事かも知れないからな」
ロイはそう言うとハボックに近づく。ハボックの耳に足音が近づいているのが分った。足音が近づく度に鼓動が激しくなる。
コッ・・・ 足音が止まったのはハボックとかなり近い距離だと思った。
「ハボック 否、ジャン」
自分の名を呼ばれ、顔が、体が酷く熱を持つのを感じた。いつもは名字しか言わない大佐が名を呼んだのだ。
―――やばい、本当に俺は―――
「――――」
その言葉に、隠し続けていた想いが身を切って表に出る感覚がした。まるで何かに餓えた獣の様に。
ロイはゆっくりとハボックの体を後ろから抱きしめ、ハボックの紅くそまった顔をロイの方へ向かせ、その半開きな口にキスを落とした。
コーヒーが次第に冷めてくるのに、ハボックとロイの想いは熱くなっていった。
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@言い訳@
最初に言いましょう。何の話ですか?(ド殴:知るか!)久々にカップの話、書けたと思います!正直な話、ロイハボはカップの話になると言う・・・てか、毎回スイマセン。変態ロイさんの話じゃなくで(ド殴:そこじゃないだろ!)
では色々とスイマセン。失礼します。平成21年2月10日