聞こえる声に笑い飛ばしたあの時。


 君は何を言ったのかすら聞こえない。


 目の前にあるのは鏡張り。


 さぁ言え!笑え!そうすれば、きっと、楽だから。


 お互いに、な。



【鏡張りの世界にひとりきり】



 暗い暗い闇の中。一つの光が見えた。その光に手を伸ばせば光が自分に襲ってくる様な感覚が襲った。

 そう思った時だ。目の前が光一色で、眩しすぎて目を一旦閉じた。次に映った風景はさっきよりも強くない光。

 起き上がれば肩や腰が痛む。フッと横に視線を移せば何十年も使っている愛用の皮のソファー(捨てられていたのを拾ったの)が見えた。そこから数秒使って『ソファーの上で眠っていた』と気付いた。

 基本ソファーの上で寝る時は絶対にバッカニア大尉とかバッカニア大尉とかバッカニア大尉とかがぶっ倒れている俺を運んでくれたと言う事だ。イコール今回もバッカニア大尉が連れてきてくれたと言う事だろう。

 後でバッカニア大尉にお礼を言うか。そう思いながらソファーから立ち上がり作業場に入ろうとした時だった。


「先生!」


 俺は扉の方を向く。がたいの良い男性が居て、その男性の腕の中にもまたがたいの良い男性が居た。俗に言うお姫様抱っこだ。やられている本人はかなり恥かしいのか顔が真っ赤だ。


「先生は!」

「さぁ」


 俺は肩を竦め一応医者であるアイツの部屋を除き込む。だがいない。


「居ないみたいだな」

「そんな!どこにいるか分かりませんか!」

「んー・・・何で?」


 まぁ抱きしめられている男性が風邪を引いたとかだろうと思うけど・・・。


「ハボック少尉が汗を拭かずに居た為足が凍傷になりかけているのです!」

「お前・・・」

「きゃははっ!馬鹿だな!」


 爆笑!爆笑!このブリッグズ山を舐めているからだ!そう思い笑った。勿論笑われている方は良い気がしないだろう。


「もう良いです!」

「あー待て待て。今日は出血サービスで無償に居るであろう場所を教えてやるよ」


 そう言うと俺は自分の作業場に入り、メモに居る確率の高い順に、しかもかなり親切に地図まで作って書いてやった。それを渡せば相手は一礼をして出て行った。

 それに自然に笑みを生まれたが、フッと思った。


「なぁーに教えてるんだろう?」


 教えるきりなどないのに・・・相手は間違いなく昨日から共同訓練をしている東方軍だ。教えたところで何の利益もない。なのに何で教えたのだろうか?

 それに首を傾げたが、やめた。考えても答えなど出ない。出ない答えを探しても時間の無駄だ。

 俺は作業場に入り、作りかけの機械鎧(オートメール)に手をかけた。





 フッと気付けば手元が暗いことに気付いた。機械鎧から目線をずらせばかなり暗い事に気付いた。

 俺は部屋の電気を付ける。そうすれば酷く眩しくて目を細めた。きっと軽く五時間は経っているだろう。

 そう思った時に喉の渇きが気になった。俺自身も気付いていたが俺はかなり鈍感らしい。一つ一つ気付くのが遅い。そう思いながら作業場から出るとアイツが居る。


「あら、ようやく我に返ったのね」

「俺は最初から俺だ」


 そう言いながらコーヒーを薄汚れたカップに移す。


「そー言えばアンタ珍しく金を取らずにモノゴトを教えたんですって?しかも男に」

「・・・だから?」


 「珍しいわね」とアイツは言うと持っていたコーヒーを啜る。俺も啜り飲む。


「あの人、凍傷は免れたわ」

「ふーん」

「良かったじゃない?第2のアンタにならないで」


 アイツはそう言うと俺の左足を指差す。それに眉を顰めた。


「俺は凍傷で失ったんじゃなくで大人の争い事で失ったんだ」

「でも指は凍傷でしょ?」

「まぁな。だったら左足じゃなくで右足に指を指すのが普通だろ?」

「別にどっちでも良いじゃない」


 「まぁな」そう言うと作業場に戻ろうとした。だがそれをアイツはまた遮る。


「そうだ。凍傷になりかけた人、アンタにお礼言いたいって」

「言葉だけなら要らないよ。言葉なんで何の得にもならない」

「少しなら貰えるんじゃない?」

「ネジ1本も買えない金だろうけどな」


「でも行く価値はあるんじゃない?」


「・・・」





 結局あの後その言葉がどこかで引っ掛かり、行く事にした。

 俺は病室の扉前で少し口端を上げたり下ろしたりして口元の筋肉を緩めてから入った。

 口元はクイとあげ、ニコニコ顔で入る。世渡りをするのはこの顔が一番だ。だけどすぐに平坦に戻す。中には何人かの兵隊がいた。

 なんだ、一人だけじゃなかったのか。そう思いながら見回せば一番奥に居た。ヤマブキ色の髪。白い肌。紺碧の瞳。

 どれも嫌いな程に明るい色だ。俺とは全然違う。唯一同じだと言うなら白い肌くらいだろうな。

 相手は気付き、加えていたタバコを口から外し、タバコを持つ手を左右に振った。


「今日は有難うな」


 初対面でタメ語だ。抱えていた軍人(星がこの人よりも少なかったから多分部下)によればコイツは少尉だ。位はそこそこ高いくらいだ。

 まぁ軍人でもなんでもない俺がこの人よりも上かと言えば『あり得ない』と言うしかない。結局俺は軍の中で機械鎧装置者にしか必要されない機械鎧整備技師でしかないのだから。

 下手をすれば俺は首になる。まぁ此処で機械鎧を使っているのは2桁に満たない軍人だから別に金には困らないだろうな。町に行っても北ならそれ系の仕事ありそうだし。

 金が足りなかったら裏の仕事を大量にすれば良い。


「いえ。俺は平気です」


 俺は改めて口端をクイとあげた。そんな俺に少尉殿は手を伸ばしてきた。


「俺はジャン・ハボック。今日はかっこ悪い所を見せてごめんな」


 俺は一瞬止まる。この時はどうすれば良いんだろうか?少尉殿が戸惑う俺を見て首を傾げた。

 それに俺は慌てて両手でその片手を覆い隠した。これは明らかに間違っているだろう。でもそこが問題じゃない。


「俺は――――」


 何で言えば良いんだろう?そう思って言葉につまる。



 俺には名前がない。



 モノ心ついた時から俺は何故か戦場に立たされていた。そこで左足をなくした。それでも頑張ったんだ。なくした左足を無理に動かして、這いずりながら敵を倒した。


 なのに、俺は捨てられた。町の脇道に。


 雪の中。残った右足が動かなくなって、手の感覚も失いかけた。視界が真っ白で人が歪んで見えた。

 泣けば肌が余計に冷たくなる。足の指が黒くなっていく。胸が押しつぶされる感覚に耐え切れなくなって、手を伸ばした。でも誰もその手を握り返してくれなかった。

 何度も何度も世界を恨んだ。無い左足を恨んだ。

 死に掛けた俺を昔の北方軍事の機械鎧技師が拾ってくれた。それでも名前がない。いや、なくで良いと思う。

 名前があったら余計に虚しさが生まれる。それに『名前の無い機械鎧技師』とかかっこいいしな。

 でもこの時には非常に困る。俺も名前を言えば良いのだが、無い。無いと言えばその理由を言わないといけない。変な同情が生まれる以前に話す時間が勿体無い。

 でもどう言えば良いか分らない。


「どうしたんだ?」

「え、あ、否・・・別に・・・」


 俺は視線を少尉殿から背けると。まぁ名前言わなくでも良いか。そう思うと少尉に視線を戻すのと同時に手を離した。


「それより凍傷にならなかったそうだな。良かったな」

「あぁ。全てアンタのお陰だよ」

「いえいえ」


 さて、此処からどう金を巻き上げようかな・・・。


「なんて、凍傷して足を失ったアンタの前で言うのは失礼だと思うけどな」

「え?」


 俺は目を見開いた。そしてすぐに居ないのは分かりながらもアイツの居るであろう方向を睨みつける。

 その方向に居た不運な軍人がビクついた。勿論それを俺は気にしない。


「俺を見た先生が言っていたんだ」

「へ、へぇー」


 分ッテマシタヨ  メチャクチャ 分ッテイマシタヨ

 そう心の中で毒吐きながら少尉殿に目線を戻す。ヘラヘラとした笑顔。それに眉間に皺が自然に生まれてしまう。


「紛争って嫌だよなー。俺も紛争で兄を失ってな」

「・・・だったら何で軍人になったんですか?」


 無理矢理口元だけ笑みを浮かべさせながら言った。自分でも分る。これは自然の笑みじゃないと。でもあえて無視をした。

 ハボックは持っていた灰が今にも落ちそうなタバコを一つも入っていない灰皿に押し付けた。


「最初は紛争を無くそうと思って」


 「そして」そう続けながら少尉殿は視線を真っ直ぐ俺に向ける。



「今は一番上になると言っている馬鹿上司に身を任せて鍛えているだけ」



 それに俺は目を見開いた。そしてカッと頭が熱くなるのを感じた。


「紛争撲滅は諦めたのですか?」

「否、上司が自然になくしてくれるだろ」

「その上司がならなかったら?」


 俺の言葉に少尉殿は笑みを深めた。



「あの人は一番上まで上り詰める人なんだ。どんな事をしてもな。だから俺はあの人の為に鍛えているんだ」



 人を信じる?

 まるで彼の瞳が居ない筈の神を信じる信者の様に静かにきらめいていた。

 居る筈もありえることもないのに・・・。


「これ、少しだけど」


 そう言って少尉殿は小銭を渡してくれた。安いネジなら数本かは買えるくらいだ。


「アンタも俺も恵まれているよ。本当に、中尉が居てくれてよかった」

「・・・そうですね」


 きっと彼には約束を果たしてくれる、頼れる上司が居る。きっと中尉って言う人がそうだろう。(←誤解)

 俺は貰った金に目を移した。





「俺って結構寂しい人間ですかねー」


 そう呟けば「急になんだ?」と整備中のバッカニア大尉が訊いた。


「だって俺、名前ないじゃないですかー」

「だったら自分で名前を付ければ良い。世間ではお前は既に死んでいる事になっている以前に居たかどうかすら分かっていないんだからな」

「・・・バッカニア大尉ってたまに酷いですよね」

「直球に言わないとお前は分らないからな」


 俺はムッとしながら何も言わずに神経を繋げた。でも悔しい程に痛みを感じるそぶりをしなかった。ただ少し眉を顰めただけだった。

 それに余計にムッとした。バッカニア大尉はそれを気にせずに神経が繋がった手を握り締めては開いた。


「うむ」

「あーあ。俺って世界でひとりきり」

「そう思うなら思っておけ」


 そう冷たく言うと、バッカニア大尉は立ち上がり軍服を着た。その上にもう一枚北方専用のコートを羽織った。


「鏡張りの世界にひとりきりだと思っているからそう思うんだ」

「・・・鏡張りの世界にひとりきり?」


 俺は首を傾げた。だがバッカニア大尉はその答えを出さずに出て行ってしまった。

 それから機械鎧を修理しながらバッカニア大尉の言葉の意味を必死に探した。だが見つからないままだった。

 鏡張りの世界にひとりきり?分らない。何なんだ?まず鏡張りって何だ?

 フッと横に置いた貰った金を見た。


 何であの時、無償で助けたんだろう?

 きっと面白かったからだろう。それ以外思いつかない。それしかない。それ以外あったらピックリだ。


 じゃぁ何でこんなにも―――この金を見る度胸が痛む?


 俺は当然な事をしたんだ。なのに、何で?俺はその金を持って棚を一つ開けた。そこにはネジが数多くあった。その中に手を突っ込みネジではない封筒を取り出した。そしてその封筒の中に貰った金を入れた。

 これは俺のへそくりだ。見ればかなり増えた。


「そー言えば昔は純粋だったよなー俺は」


 一生戻らないと思っていた左足。それが戻った時凄い嬉しかった。その金を返す為に俺はその人の助手になった。今から思えば俺はかなりの荷物だったと思う。

 初めて機械鎧が出来上がり、それをつけて貰って『良い』と行ってくれた時は凄い喜んだ。

 金じゃない。つけてもらって嬉しいと思っただけだ。

 それから俺はより喜んでもらう為に機械鎧を作り続けた。でも気付きゃ金のために働いている感じには・・・なってないな。

 それでも昔とは何かが違うと思った。


「あの時は・・・一人じゃなかった」


 今は?あの人も死んだ。それで心がポッカリと穴が空いた。あれから俺は一人で立ち、歩いたんだ。

 機械鎧なんでほどんと使わないから金の無駄使いだなんだ言われている。その言葉を無視して作り続けている。


 俺の周りは敵だからけだ。


 だから一人で頑張ってきたんだ。


 誰かに俺を認めて欲しくて。


 誰かに俺の存在を認められたくて。



 そう思った時ゆっくりと目を見開いた。


「あぁ、そうか」


 だから昔の俺と違うんだ。

 昔の俺は人が近くに居て、俺の存在を認めてくれた。でも今はそれが見えていなかった。

 誰も俺を認めてくれないから必死だったんだ。俺一人で此処まで来たんだって思ったんだ。

 誰にも迷惑をかけていないと思って。


「皆がいるじゃないか」


 2桁にも満たない人たちだけど、俺に機械鎧を頼んでくれる。俺に頼まなくでも機械鎧技師はいるのに・・・俺に頼んでいる。

 それは町に行くのが面倒だからかもしれない。否、絶対そうだと思う。でも確実にその人たちが俺に頼むからこそ俺は此処まで技術を得たんだ。

 俺の体を心配する人が居るんだ。機械鎧が作れる場所があるんだ。


「自分しか映らない鏡しか見つめていなかったんだ」


 見渡せば自分しか居ない訳じゃない。色んな人がいる。鏡の中の俺だけじゃないんだ。


「だからあんな事を言ったんだ」


 そう思うと俺はつい苦笑を浮かべてしまう。


「バッカニア大尉も洒落た事を言うなー」


 そう思い俺は作業場から出て今度は自らソファーの寝転がる。

 今日は自然に目が閉じれた。今日は何故か闇が美しく見えた。


「鏡張りの世界に居る訳じゃない。俺の周りにはいろんな人がいる」


 それらが良い人って訳じゃないけど、心が満たされる。その人達が居る限り俺は一人じゃない。


「おやすみ」


 誰に言う訳でもなくそう言った。





 「おやすみなさい」


 ワインレッドの髪を撫でながら飛び立つ軍人がそう言った。

 今度来る時は世間話の一つもしような、そう呟き部屋から出て行った。


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@言い訳@
 何の話!?(ド殴)とにかく・・・ファンブックですよ・・・ファンブックに彼が!!名前は載っていなかったけど、1ページの半分使われていましたよ!バンダナの男ですよ!バンダナの男!ご馳走様です!でも、その本夏休み中に買ったんですが・・・何処かに行く事件orz先生、有難うございます!!
 そして、何故このお題をバンダナの男☆にしたか・・・っと言うよりも、このお題が深くで理解出来なかったんです(←アホ)書いていて『あーこう言う感じか?』と思った訳です。でも多分、これも違いますね。っと言うよりもどう『鏡張りの部屋に行かすか』を考えていた訳ですよ!『イかす』じゃなく『行かす』です!パロしかない!と思ったんですがD,Gしか思いつかずorzでも行かす方法が思いづかず・・・。でもハボックさんにはこのお題は絶対に合わないな、と思いまして・・・そして『彼しか居ない!』と思ったのがつい3ヶ月くらい前(ド殴)
 そして彼の話を書きました。うん。別にカップの話じゃないのですがバッカニア大尉がかなりやさしい事に・・・やっぱし無謀でしたよ。バッカニア大尉×バンダナの男は(殴:早く気づけ!)でもハボック×バンダナの男はありですよね?ただこのサイトはハボック受けで来てる人がほどんとなんで無理でしょうね。でもD,G目的の方は行けそうな気が・・・でもそれだと結局D,Gと同じ系統になるからやっぱし+ですかね。うん。結構ハボック+バンダナの男とか行けそうな気がします。『スモーカーは駄目!』『えーなんでだよー』とか。『お前の過去って酷いな(泣き)』『そーかー?って泣き過ぎだろ?!』『とにかく飲み明かそう!!』とか。(なんか別ジャンルのあるカップの現代パロみたいな感じが・・・orz)
 ってどんだけ書いてるんだ!自分!(ド殴)本当にスイマセン!長すぎますよね!最近鋼のアニメ見ても居ないし録画もしていないと言う(ド殴)取り合えず北の時チラッと見て・・・(殴)
 それでは長々と(更新状況も含め)本当にすみません。では失礼します。平成21年10月29日