“なぁハボック”


 二人きりの部屋。


 こんな事は許される訳がない。


 そう思いながらも心の片隅で思っていた。アンタの事を。


 でも、アンタはそんな俺を知っていて・・・あんな事を言ったんだ。



 “愛している”



 男を愛したのはアンタが初めてだ。その前は『超』が付く程嫌いだったのに。


 なのに、俺は気付けばアンタを追いかけそれを求めていた。


 だから俺も何時か言いたい。


「愛してます」って。



 御手をどうぞ



 今日はある国家錬金術師がパーティーを開いた。そして有無も言わずに焔の錬金術であるロイ・マスタング大佐も招かれた。

 勿論大佐一人で行かす訳も行かない。護衛として俺、ジャン・ハボックも行く事になった。

 国家錬金術師が開いたパーティーだから国家錬金術師だけ来てるかと思いきや、そうでもないらしい。

 まぁ一般人ではない訳だが、地位が高い軍の人間やら資産家やら・・・。

 俺は(車だから酒が飲めないから)紅茶を手に持ちながら周りをジーッと見回していた。

 本当に別世界だ。ただの立食パーティーだと思っていた。否、実際に立食パーティーな訳だが・・・。

 その食事場所は端に置かれており、メインの真ん中では何組かの人が音楽に合わせて踊っていた。

 しかも音楽は生演奏だ。いやー金持ちは本当にすげぇーと思う。


「ハボック、何ボーッとしている?」

「・・・いやー何か別世界だな、と思いまして」


 俺が隣に居る(俺よりも背の低い)大佐に向かって言えば大佐は溜息を吐いた。


「まぁ確かに少々大げさなパーティーだな。でもたまにこんなパーティーが開かれる。最初は驚いたがもう慣れだ」

「さいですか」


 てかそんなにパーティーに招かれているんスか・・・。

 そんな事思いながら紅茶を一口飲んだ。口の中でアップルの香が広がった。こう言う香ってどうやって付けているのだろうか?紅茶の葉っぱの近くにアップルを置いてるのだろうか?いやー本当に金持ちは凄いな。うんうん。

 そんな事を思ったとき、ふわっと甘い香りがした女性が俺の前を通った。女性の方を向くと大佐の目の前で止まっていた。

 その女性は大佐にウェディングドレスの様に床に付く程長い白ベースのスカートを少し上げお辞儀をしている。

 かなりの美人だ。目はパッチリしているし唇もあつい。鼻筋だってスッとなっているし・・・とにかく美人だ。でも年齢が若いのだろうか?少し幼さを感じる。


「ロイ・マスタングさん、一緒に踊ってくださいませんか?」


 女性はこの世の野郎が鼻血で出血大量死続出しそうな程美しい笑顔を大佐に向けながら誘って来た。

 こんな誘い断る男など居ないだろう。ましてや社交的な大佐が断る訳がない。

 大佐は綺麗な笑みを作り、右手を胸に当て少し頭を下げ「喜んで」と言った。


 『羨ましい』そんな感情が出たのか心がムカムカする。


「大佐、あんまり目立たないでくださいね」

「分かって居る」


 そう言うと大佐は女性に向かって手を差し伸ばした。


「御手をどうぞ」


 大佐は笑顔のままそう言った。女性の笑顔が少し崩れた。崩れたと言っても嫌な意味ではない。とこか緊張が解けた、そんな笑顔になったのだ。

 女性が大佐の掌に手をソッと乗せて来た。

 そして二人はそのまま流れる様に中央へ行き、何の違和感もなく踊り始めた。

 とても優雅で息ピッタリだ。まるで元からペアの人間の様だった。それを紅茶を啜り飲みながらジッと見つめていた。



 このまま二人は付き合うのかな?



 そう思った時ハッと我に返った。


「二人が付き合うって・・・?」


 じゃぁ俺は?


 今付き合っている俺は?


 今俺は『ロイ・マスタングの恋人』としている。勿論それは一般的じゃないし、世間的にも許されない関係だ。

 だから今踊っている二人がくっついて俺が捨てられても世間は俺を保護はしない。否、俺は保護など求めていない。

 俺は――

 ズグッズグッと俺の心が痛み、それにムカムカと胸焼けをした様に不快になる。さっきと同じだ。

 もしかして俺はさっき『羨ましい』と思っている訳ではなく別の何かで感じていたのだろうか?

 そう気付けばこのムカムカ感が一気に体に広がり、体が熱くなるのを感じた。それを必死に押さえようとするが変な方に行って逆効果だ。

 自分で自分が抑えられなくなる。


 もしこのまま女性と大佐がくっついたらどうしよう?


 かなり女々しい。でも男である大佐は何時だって女に行ける。俺だって行ける。でも今は大佐と何故か一緒に居たいし、久々の上手く行っている恋だ。

 それを離したくない。


 離したくない。


 俺は机にまだ半分残っている紅茶のカップを置き、歩き出した。



 何処に行くんだ?馬鹿。


 うるせぇ、馬鹿。


 この一線を越えるのか?馬鹿。


 うるせぇ、馬鹿。


 もう戻れなくなるぜ?この馬鹿が。




 カッ


「大佐」


 大佐の手首を握れば、二人は止まる。二人の周りの数組みも止まった。

 女性は不安気に俺を見ていたが、見たくなくて大佐を直視した。


 何か言ってくださいよ。彼女とは付き合わない、と。お前だけだ、と。


 そう願う様に知らずの間に握る手が強まる。この時間が異様に長く感じた。本当は短いのだろうけど・・・。

 大佐は俺の方を振り向いてくれた。それに一瞬顔が明るくなったが、すぐに俺はその顔を引っ込めた。



 大佐の顔が、笑っていない。


 とても 冷たい目 だ。


「何かね?少尉」


 少尉?


 大佐、いつもの様に呼んでくださいよ。『ハボック』って。『ジャン』って。


「もうダンスは終りにしましょう」

「何故かね?」


 何故?

 確かに止める理由も止めさせる理由も俺にはない。ただの自分勝手だ。それに気付いても、もう遅い。

 周りは異変に気付き俺達の行方を見つめどよめく。女性もオロオロし始めた。

 熱かった体が、頭が、一気に冷たくなるのを感じた。

 オロオロしたいのは俺の方だ。

 どうする?何を言う?止めさす方法は何かあるか?否、止めさす方法じゃなくでも良い。とにかくこのパーティー会場から出れる方法はないか?

 どんなに考えを巡らせても慌てる自分の声しか聞こえない。


 どうする?どうする?何を言う?何を言えば良い?




「軍から連絡が来たのか?」



 大佐が突拍子もなくそう言う。俺は一瞬固まったが大佐の冷たい視線に耐え切れず頷く。

 大佐は俺から目線をずらし、女性から手を離した。大佐は再び笑みを浮かべ頭を少し下げた。


「急用が出来ました。これで失礼致します」


 そう言うと大佐は俺の裾を握りパーティー会場を出た。





 車を止めた場所。まだパーティーをやっている事もあり人は居ない。そこでようやく大佐は振り向いた。

 笑みなどない。ただ冷たい目が俺を貫くだけだ。


「スイマセン!」


 俺はつい頭をふかふかと下げた。恐らく90度以上はあるだろう。


「何故謝る?」

「それは・・・」


 俺は口が篭る。俺の身勝手で大変なことになった。謝っても謝りきれない。償おうとしても償えないだろう。

 俺は下唇を噛み締めた。その時頭上から溜息が漏れた。


「もう良い。頭を上げろ」

「嫌です!」


 大佐は呆れた様に「はぁ?」と言った。頭を上げたら全てが終る気がした。だから上げたくなかった。


「私は別に怒ってなどいないぞ?」

「でもさっき笑ってなかったじゃないスか!」

「あれは!部下にヘラヘラ笑ってる上司がいるか!特に男の部下だぞ?」


 確かにそんな上司が居たら鳥肌が立つ。


「もう良い。取り合えず顔を上げろ」


 俺は渋々顔を上げた。そしたら眉を顰める大佐の姿があった。


「何で止めた?」

「それは・・・」

「安心しろ、処分はせん」

「・・・」


 俺は一瞬躊躇ったが目線を外しながらおずおずと答える事にした。


「俺、大佐が女性と踊っている所を見て居たらイライラしたんです」

「イライラね」

「はい。俺・・・・捨てられると思ったんです」


 俺が一番の思いを言えば大佐は「ぷっはははっ」と噴出し笑いをした。それに俺は衝撃を受けた。


「笑わんといてください!!」

「あはははっ、だ、だってな〜」


 その謝りはかなり笑いが入っていた。俺はムッとしながらも視線を地にずらした。

 そうしたら大佐が俺の頭に手をやり撫でた。


「悪かったな。ハボック」


 俺が視線を上げ大佐を見れば、いつもの大佐の笑みがあった。


「私は嬉しいよ。ハボックが私の事を思ってくれて」

「・・・それ、どう言う意味スか?」


 俺は大佐の事を思っていましたよ。告白をされる前から。


「だってハボックは私に『好きだ』とか『愛している』とか自分から言わないから」

「ッ!・・・もしあのまま躍らせていたらどうなってたんスか?」

「過ぎ去ったもしもの話は考えない主義でな」


 俺はついムッとなった。色々悩んで、俺、馬鹿みたいじゃないか。


「ハボックお前は気付いてないだろうが、私は今・・・凄く嬉しいぞ」

「そースか」

「そうだ」


 そう言うと大佐は俺を抱きしめた。俺は少し目を見開いた。もし誰かに見られたら、そう思い反論を言おうとしたが、その前に大佐が遮る。


「ハボック、私の事を愛してるか?」


 何度も何度も訊かれる言葉。それに顔が一気に熱くなるのを感じた。


「・・・愛して・・・います」


 毎回の様にその質問に曖昧な感じな言い方の答えを返していた。今回も同じ様に。

 でもそれじゃぁ怖いと思った。何時でも大佐は俺を捨てられる。俺は-――無理だ。



「愛しています」



 もう一度そう呟いた。そうしたら大佐の抱きしめる手が強まった。


「ハボック」


 俺は愛している。大佐の事が。


「私もだ」


 俺もですよ。


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@言い訳@
 ラブラブですかね?途中シリアス?とも思ったですが曖昧すぎてキャグぽいですよねorz本当にスイマセン・・・。ハボさん乙女化orz乙女にしない様にしない様にと思っていたら「あれ?コレ、嫉妬しないんじゃない?」と思って無理やり直したら・・・今度は行き過ぎて乙女に・・・もう笑って許してください!
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年12月6日