日々快楽。


 愛するのは、お・ま・え・だ・け。



【泣いている声が聞こえる】



 昔々、ノアの一族がいました。ノアは人々の悪事を知り天使に頼み洪水を起こしてもらう。そのさい『ヤハウェに従う無垢な人』であったノアの家族と全ての動物のづがいを方舟に乗せた。



 そんなストーリーが頭の中で響き渡る。


 群青色の空にポッカリと月が光っている。今日は薄い雲などない。

 ティキは静まり返った町の上を悠々と歩く。


 黒いシルクハット。黒い燕尾服。糊のきいたYシャツ。どれをとっても『白い』ティキには無縁なる服装だ。


――――黒い俺は悪であり、素晴らしいジェントルマンだ。


 ティキは鼻歌をしたいのを押さえ歩き続けた。




 町を抜け森と崖が現れる。更に奥に進めば、バベルの塔を思わす建物が現れた。

 ティキはヒューと口笛を鳴らし、建物を真っ直ぐに見つめた。


「待っていろよ、我が姫」


 笑い混じりに言い、まだ歩き出した。




 黒の教団内に入ると夜と言う事もあってか静まり返っていた。勿論、静まり返っていると言っても一部フロアは今も騒がしいだろう。それでも此処は異様に静かだ。

 ティキは静かな廊下を迷いなく歩く。ツヤのある皮靴の音が廊下中響き渡る。

 廊下の左側は窓が並び、右側には扉が並んでいた。此処は個人部屋の一フロアらしい。此処で眠っている人間がいる。それでもティキは静かに歩こうとはしなかった。


―――これも一つの快楽。


 そう思い目的地へと向かう。



 一つの部屋、ティキはその部屋の前に着く。ティキは中に入ろうと手を扉に近づけた時だった。

 部屋の中からむせび泣く声が聞こえた。

 ティキの目がカッと見開いた。そして扉の板に向けていた手を急いでドアノブを握る。

 乱暴に扉を開けると埃の臭いが鼻を突く。部屋は相変わらず紙やら本やらガラスやらで狭かった。丁度入口から目の前、窓の前にある小さいベットの上で窓の方を向いている男性が居た。

 男性は乱暴に開かれた扉にピックリして振り向いた。その男性の顔は逆行で良く見えなかったが、否、逆光だからこそ目尻にある涙が月光に光って見えた。

 男性はティキに何か言おうと口を開くがすぐに閉じる。何を言って良いか分らない様だった。だからティキが先に口を開いた。


「泣いている声が聞こえる」


 男性はそれを聞くと目を見開く。そして目を擦った。それが酷くティキを不快させた。

 ティキは男性に近づき、その腕を目元から離した。そして腕が目元に行かない様に両手で男性の頬を包み込んだ。


「泣いている声が聞こえる」


 もう一度言った。男性は視線をティキから外した。


――――本当にコイツは・・・。


「何故泣いていたんだ?リーバー」


 ティキがそう言うと男性、リーバーはティキの右腕に手を置いた。


「別に関係ないだろ」


 その言葉にティキはカチーン☆となり頬を優しく包み込んでいた手で今度は頬を掴み、引っ張った。さすがのリーバーも「いはい!いはい!」と別の涙を浮かし訴えた。

 ティキは呆気なく手を離し、改めてリーバーを見た。いつもやつれている顔はいつも以上にやつれていた。


「俺は心配なんだ」


 初めて会った時のリーバーの顔・・・いや全てが恐怖だった。リーバーの体という体の部位は痩せており、瞳すら焦点が合ってなかった。

 そんなリーバーは必死に骨ばった手を動かし仕事をし続けていた。それが出来るのが不思議で仕方なかった。

 それなのに周りの視線は冷たく、リーバーに罵声を浴びさせたり暴力を振ったりしていた。勿論リーバーは人形の様に受け止めるだけだった。

 本当に生きているのか?それすらも思った。


 だが、生きている。


 それを知ったのは『この部屋』だった。あの日は科学班フロアに行きたくなくて個人部屋のフロアをブラブラしていた時だった。

 今日みたくむせび泣く声が聞こえた。そして開ければ、今日の様にリーバーが泣いていたのだ。

 その時の目が一番現実味がなかったのを覚えている。


 人を傷つけたくない。そんな思いがリーバーを縛っている。


 お人良し、臆病、自傷行為・・・とにかくリーバーは一人抱え込み、壊れかけていた。



 ティキはそんな人間を多く見てきた。ティキは孤児で施設に入る前は町をフラフラしていた。その時嫌でも戦争で手足をなくしたり両親をなくしたりした子供が目に入った。

彼らはリーバーの様に虚ろな目で歩く人々を見つめていた。



 そんな映像がこびり付いていたから、ティキはリーバーをほっとけなかったのだ。



 ティキはリーバーを優しく抱きしめた。

 リーバーの体温は酷く温かい。きっとティキよりも。

 どれ位の人間がリーバーの温かさを知っているだろうか?最近じゃぁ『知らなくでも良い』と思うが、やっぱしリーバーが泣いていると悲しいから知って欲しいとも思う。


「・・・ティキ」

「俺は離れない」


 ねぇ千年公。


「ずっとお前の側にいる」


 リーバーは無垢な人間ですよ?


「だから」



――――だからリーバーも連れてってくださいよ。



「泣かないてくれ」


 淡い希望だと知ってもティキはそう思うしかなかった。


 同時に叶えられない約束に胸を痛んだ。


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@言い訳@
 明るめで行こうとしたら、急に暗い話に!!スイマセン!その後リーバーさんが「何誤解してるんだよ!俺はただ最近室長が仕事をしなくで辛くて泣いただけだ!」「え?マジで?」とかなってティキさんが(恥かしい!!)となれば良いと思います。でもリーバーさんは酷く喜べば良いです!!
 では色々とスイマセン。失礼します。平成22年4月27日