雨が降る。ザーッと。


 目の前には男がいる。黒髪に黒い瞳の美形の男が。


 銃口を男性に向ける。額に向けて。


 はい。3,2,1・・・・


 パンッ!!



【知らなくていいの】



 慈悲の心など、ない。そんなの知っていた。



 紛争を小さい頃に経験した。食料もない。医療品もない。そんな中、自分だけ助かる悲しさ。

 悪いのは急に襲い掛かった、今まで遊んでいた隣の親友。


 慈悲など何の意味がある?悪い人間を生かせば、今度はやられるのは己だ。

 そう思うのに、未だに慣れないでいた。

 胸が痛む。手が震える。頭から撃った相手の最後の顔が離れない。見えない筈の己の狂った顔が思い浮かぶ。


 違う違う、と否定しても否定しきれない。結局自分の事を知らないのは自分自身なのだから。





「そんなにへこむなら撃つな」


 雨が降る。ザーと。

 空を見上げれば、薄い灰色がムラなく広がっていた。

大粒の雨がハボックの頬や髪に落ちてくる。髪はいつもの跳ねがなくべったりと皮膚に張り付いていた。晴天を思わす制服が雨を吸い込んで酷く重い。

ハボックは壁に寄りかかりながら空を見上げていたが、黒髪に黒い瞳の男、ロイ・マスタングの方に視線を向けた。


―――今自分はどんな顔をしているのだろうか?


 それすらも分らない。それは一部の不公平すら感じていた。だがそれは皆一緒の事だ。

 たまに、自分が誰でもないと思う時がある。俺と言う意思は本当は何かで、俺の目に映る全てが誰かが撮った映像じゃないかって。でもそれは馬鹿らしい想像でしかありえないのを知っている。

 ロイはハボックに近づく。


「怒っているんスか?」


 あの時、下手をすれば当たっていたのはロイの頭だった。

 ハボックの目の前にロイが居た。ロイの前にテロ組織のリーダーがいた。ハボックはリーダーに向かって撃ったのだ。

 寸分狂わずに弾は男性の額を撃ち抜いた。その時の高揚感は忘れられない。頬がカッと熱くなり、鼓動が高鳴ったのだ。


――――いつの間にか俺は人を殺して喜ぶ人間になっていた。


 そんな人間になりたくない。作らない為に軍に入った筈なのに、いつの間にかハボックはそんな人間になっていた。

 ハボックはロイから濡れた石畳に視線をずらした。正四角形のタイルがずっと続いている。その上で大粒の雨が落ちる度に丸く水紋が現れる。その数が多くでぶつかり合う。

 ハボックは必死にその水紋を追った。その時、視界が暗くなった。

 それはロイがハボックの頭にタオルを置いたからだった。


「私はお前を信じているからな」


 ロイはそう言うとハボックの頭の上に置いたタオルの上からワシワシッと撫でた。


「お前は焔を使えない私の代わりに撃つ、そう確信していた」

「・・・」

「そして確信通りになった」


 ハボックはロイに視線を向けなおした。その左頬には白いカーゼがついていた。カーゼの真ん中らへんに赤い染みが見えた。


 ギリギリだった。後少し右に寄っていたらロイに当たっていた。


 ロイはハボックの視線に気付き左頬のカーゼに触れた。そして苦笑いを浮かべた。


「知らなくていい」


 ロイは一言そう言った。ハボックは意味が分らずつい眉を顰めた。ロイは口元に笑みを浮かべ言葉を続けた。



「お前は自分の成果だけを知れば良い。後の被害は気にするな」


 被害。

 きっとそれはロイの左頬でもあり、撃ち殺した相手の事でもあるだろう。ハボックはもう一度石畳を見た。


「俺は撃ち殺した時にどんな顔をしていたんスか?」

「知らなくていい」

「酷く楽しげスか?」

「知らなくていい」

「そうなんスね?」

「さぁ」


 ロイは肩を大げさに竦めた。それにハボックはムッとしてロイを睨み付けた。ロイは笑っていた。


「お前は複雑な顔をしていた」

「え?」

「嬉しいって顔もしていたが、苦しいという顔もしていた」

「・・・」


 ロイはハボックにより近づいた。そして濡れたロイの額がハボックの、同じく濡れた額がくっついた。


「お前はまだ人間だ。哀れみも苦しみも感じる、まだ人間だ」


 ロイはそう言うと離れた。


「だから知らなくていい。後で嫌でも分る時が来る」


 ロイはそう言うと踵を返し歩き出した。


「まぁ頑張りたまえ。若き准尉殿―」


 ロイはそう言うと脇道から大通りへと出た。ハボックはそれを見送ってから改めて空を見上げた。

 大粒の雨が天から降り注いでいた。その雨がボツボツッとハボックの顔を濡らす。

 ハボックは頭の上にあったタオルで己の顔を覆った。


「知らなくていいって・・・・何スか?」


 ハボックはそう言うと壁からずり落ちる様に座り込んだ。そしてロイと触れた額を膝に当てる。


「てかアンタは俺とそんなに歳変わらないんじゃないんスか?」


 ハボックは己の耳が頬が熱いのを分かっていた。でもどうしようもなくて・・・。


――――どんな顔をしていたか知らない。


 さっき、ロイが額をくっつけた時どんな顔をしたのだろうか?


 今見たく顔を真っ赤にしたのか?それとも楽しげに笑っていたのだろうか?


 結局ハボックは分らないままだが、分らないままでも良いと思った。

 今も雨はザーっと降っている。そして大粒の雨は紅く染めるハボックの頬に落ち続ける。

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@言い訳@知らなくていいの⇒知らなくていい  に変更したました。

 何だろう、この初々しいハボックさんは!(ド殴)アナダハ ホントウニ ハッボクサン デスカ?(ド殴)無駄に暗い話なのに、乙女って!本当にスイマセン・・・。正直言い訳は書いてすぐに書いているので今は『上手く行った!』と思ってますが、読み返したら微妙なんだろうなー(遠い目)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成22年5月17日