カーテンを開けてみた。


 眩しい光が、今の俺に眩し過ぎてつい目を細めた。


 世界はこんなに眩しいのだと、当たり前な事なのにそう思った。


 当たり前なのに、何故か感動をした。



あの夜の惨劇



 いつもの様に此処、黒の教団科学班フロアは忙しかった。机の上には永遠に終らない程の書類の山が置かれていた。

 その書類に手をつけていた仲間達が眠気と疲労でまた一人、また一人と倒れていく。それを聞きながら見ながら、科学班班長、リーバー・ウェンハムはペンを動かし続ける。

 人が倒れるのは日常茶飯事・・・って言っちゃ駄目なのは分かってる。分かってるが、倒れる人間を仮眠室に連れて行く程自分に余裕はない。

 だからいつも65号が運んでくれるのだが、数が足りず全員連れて行く前に熱を持ってしまうのだ。だから運ぶのは11人辺りが限界だ。その後65号を休ませる必要がある。

 悲しき科学班・・・どうにかならないものか、そう思う。


「そんな優しい優しい、でも仕事の鬼のリーバー班長に僕は画期的な発明を――――うぶっ?!」


 何時の間にか後ろに立って居た室長、コムイ・リーにリーバーは容赦なく腹を殴った。リーバー自身は軽く、でも黙らすのに充分な力で殴ったつもりだったが、どうやら強かったらしい。コムイは腹を押さえながらしゃがみ込んだ。


「ふふっ・・・リーバー君、強くなったね」

「きっと火事場の馬鹿力って奴ス」

「僕は火事かい?」

「ははっ、アンタは火事よりもタチが悪いっしょ」


 仕事しないとか、この世に作り出してはイケナイものを作ったりとか・・・どっちも被害はリーバーにかかり、仕事が終らない何割かの原因はコムイにある。

 別に殺意は普段ない。寧ろ尊敬はしている。けど、いざ事が起きた時の殺意は尊敬を飲み込む。

 きっとこれが『愛している故の憎悪』という夫婦や恋人の心理だろう。どんだけ愛していても、相手の憎悪が生まれる。

 まぁ、そんな綺麗な事ではないのだけども・・・。

 リーバーはキリのいい所でペンを置き、改めてコムイの方を振り向いた。コムイは腹を押さえながらも、口元には笑みを浮かべていた。振り向いたのが嬉しいのか、興味を持ったのが嬉しいのか・・・。


「実はとても素晴らしい薬を作ったんだよ!」

「分りました。その薬を処分すればいいんスね」

「違うよ!!」


 いや、寧ろそうしたいんです。それはあえて言わずにリーバーは『より早くより安全に終わりにしたい』と思っていた。

 コムイの発明品はロクな事がない。

 否定しているにも関わらずコムイはくぐもった笑いを上げる。


「照れ屋だねリーバー君は。大丈夫、そんな僕の発明品を一人占めにした所で恨まれないから!」

「照れ屋で恨みを買う事を恐れているって可笑しいスよ。それと、別に照れてませんから」


「そんな可愛い可愛いリーバー君にこの発明品を!」


 ジャジャーンと自分で効果音を言いながら、コムイは液体を取り出した。どうあっても取り出したいらしい・・・リーバーは溜息を吐きながらその液体を見る。

 紫色の液体がエルレンマイヤーフラスコ(三角フラスコ)の中で泡を立てて入っている。

 明らかに怪しい・・・それ以前に何に使うのだ?明らかに不審なっているリーバーの顔を見てコムイは頬を膨らませる。


「リーバー君疑ってるな!」

「疑ってるも何も、そもそもそれは何の為に作られた液体なんスか?」

「ふふっ・・・よくぞ訊いてくれました・・・これを飲めば、眠りながら仮眠室へと向かう事が出来るんだよ!」


 コムイの言葉にリーバーは大きく目を見開いた。眠りながら仮眠室へと向かう液体って・・・すぐに見開かれた目は半開きへとなる。

 うっさん臭い・・・スイッチやロボなら分る。けど、液体はなー。液体がスライム状になって運ぶならまだ分るが、液体を飲んで効果があるのか?

 動く、という点は別にどうでもなるが、仮眠室まで行ける、が怪しい・・・そう思っているのはリーバーだけじゃないだろうが、徹夜続きで疲れきっている科学班班員はコムイの薬に歓声をあげていた。

 コムイは勿論嬉しそうに歓声に片手をあげていた。好い気になっている・・・。


「これで本当に仮眠室まで行けるんスか?」

「勿論だよ!見ていて!」


 声を弾ませながらコムイがそう言うと、睡魔に溺れてしまった科学班班員に近づく。半開きになっている口かた紫の液体を流し込む。

 その様子をリーバーはコムイのすぐ後ろで見る。やっぱし科学者・・・周りの科学班班員もリーバーの後ろから見ていた。

 あぁ、悲しきマッドサイエンティスト・・・。

 哀れな被験者がその薬を口に入れられてすぐに苦しそうに呻き暴れ出した。苦しそうに喉に手をかけ、もう片方の手を天井に向けてあげた。だがその手がバタッと倒れた。

 沈黙が流れる・・・いや、黙るしかない・・・だが長く黙り続けてはいられない。


「ちょ、大丈夫か?!」


 リーバーは哀れな被験者の肩に手を置き揺さぶった。だが起きる気配がない。


「室長!どうするんスか!」

「きっと大丈夫!あれは死ぬ奴じゃない・・・もし死ネタだったら、小説の説明の所に『死ネタです』って書いているから!」


「何の話ですか!」


 読者への情報の話しなんでどうでもいい!リーバーが心の中で突っ込んだ時だった。

 ムクッと被験者が上半身を起き上がらせたのだ。被験者はそのままゾンビの様に手を前に出し、立ち上がった。

 それをリーバーは見上げる。被験者は目を開けていなかった。代わりに口を開き、その口端から唾液が流れていた。

 コムイはその被験者を見て手を挙げて喜んだ。周りの科学班も「おおー」小さな歓声をあげた。


「本当に成功したのか?」


 そう呟くとリーバーは唖然と被験者を見つめる。

 だが被験者は立ち上がったまではいいが、なかなか歩こうとはせず、停止したままであった。


「あの室長・・・止まってるんスけど・・・」

「可笑しいなー」


 コムイはそう言うと遠慮なく被験者の額を何度も人差し指で押す。

 いや、押しても無理だろ・・・ロボットならともかく・・・そう思った時、被験者が動いた。

 目をカッと開き、リーバーの方を向くのだ。

 リーバーは被験者を見てゾッとした。瞳の色が紅いのだ。勿論この被験者は元は紅くなどない。

 被験者はそのままフラフラと体が揺れ、カッとコムイの方に顔を戻した。コムイもその瞳の色に驚いた様子だが、被験者は全く感じてないようだった。

 被験者は大きく口を開いた。



「室長のバーカ」



「「へ?」」


 ついマヌケな声を出してしまった。いっきに周りが静かになるのを感じた。

 だがそんな空気を気にしない様で、更に言葉を続ける。


「仕事をしないから俺等の仕事が増えて、こんな事になるんスよ、大体捕まるって分かっているのに逃げ出す意味が分りません、本当に迷惑で――――」


・・・なんか愚痴り出した?!

リーバーは咄嗟にコムイの方を見た。コムイは言われた事にショックを受けているのだろう、顔を青ざめている。


「えーっと・・・室長?これは一体・・・」

「・・・多分、愚痴る事が気持ち良い事なんだろうね」

「・・・はぁ?!気持ち良い事?!」


 気持ち良い事ってなんだ?

 つい顔を紅くしてしまったリーバーを見て、コムイは溜息を吐き説明をした。

 どうやらこの薬は『今やりたい欲求を叶える薬』らしい。ギリギリまで働いて倒れる様に眠った人の最後に考えた欲求は『ふかふかのベッドで眠りたい』だろう。

 つまりこの欲求をこの薬が受け取り、ふかふかのベッドがあるであろう仮眠室か自室へと戻る、という事らしい。

 だが、予想外に彼の欲求は『仕事をしない室長への愚痴』らしかった。


「これは改良の余地があるねー」


 コムイは溜息を吐きながら例の薬を取り出し、覗き込み見た。

 その時、愚痴を言っていた被験者が急に「聞いてるんれすか?!」と呂律が回らない口調でコムイに突進してきた。 コムイはギリギリ避けたが、持っていた薬が吹き飛ばされた。

まさか・・・・リーバーは顔を青ざめる。その薬は今までコムイの実験を野次馬していた科学班班員の上に零れたのだ。 科学班班員は次々と苦しみ出し、倒れていった。


「お、お前等大丈夫か?!」


 リーバーが近づいた時、次々と立ち上がってくる。その目はどれも紅く染まっていた。


「リーバーはんちょ・・・」


 彼等はボソッと呟き一気にリーバーに突進してきた。

 まさかこいつ等は俺に不満があるのか?!とつい構えた時だった。


「コムイ室長が全然仕事しないッスよー」

「何でもっとコムイ室長を止めないんスかー」

「まだ変な薬を作ってー」


 次々と何故かコムイの愚痴が上がる。それを聞いてリーバーはつい落胆した。それに対してコムイは「酷い!酷いよー皆!」と怒っていた。

 だが皆の愚痴は中々納まらない。


「大体班長はコムイ室長を甘やかしすぎですー」

「室長が仕事してくれませーん」

「お、お前ら落ち着け――――うわっ!」


 数が多すぎてリーバーは科学班班員に押され倒れた。

 だが科学班班員は止まらない。慌てて原因になったコムイの方を向くが、コムイは「酷いやいやい!」とか自業自得なのに泣きながら出て行く所だった。


「逃げるな!しつちょー!!!」




 あれからリーバーは永遠と部下の愚痴を聞き、全員が満足して寝た頃には日が昇っていた。

 リーバーはその朝日を見つめながら一つ頷いた。


「絶対に忘れませんよ」


 リーバーはゆっくりと右へと倒れた。堅い床にぶつかり痛みを感じたが、それよりも怒りの方が強かった。


「あの夜の惨劇・・・」


 そう呟き、リーバーは力尽きた様に眠りに落ちた。


 その後コムイがリーバーに怒られ、書類の塔を大量に作られたのは言うまでもない。

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@言い訳@
 多分このお題はこんなキャグを書く為に作られた訳じゃないと思いますけど・・・スイマセン(殴)シリアスだと死ネタしか思いつかず・・・だからキャグにしたのですが、途中で時間が空きすぎてオチ忘れて結果がこれです(おい!)
 書いた話はすぐに書かないとね☆でも、『なんやかんや言ってリーバーさんもマッドサイエンティストだと思う』が書けて良かったです。リーバーさんはまともとか言いながら、絶対に何か変なの作ってると思うに一票!(殴:おい!)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成24年3月12日