本部襲撃事件後、黒の教団は引越しをした。そして科学班も三班に分かれ、エクソシスト・探索隊と一緒に出る事になった。

 科学班も大きく変わったのである。その、変わり、が科学班班長、リーバー・ウェンハムと室長、コムイ・リーの間も変えようとしてしまった。

 原因は中央庁科学室から来た科学班第二班班長、レゴリー・ペックと科学班第三班班長、マーク・バロウズだ。



 気付けば、俺は貴方を縛り付けていたのかもしれませんね。


 俺はただ、貴方を苦しませたくなかったんです。


 幸せに。    幸せに。


 神など信じないけど、貴方が幸せになるなら、貴方が信じるなら祈ろうと思いました。


 貴方が苦しんでるなら、俺は悪魔に心臓を渡してても、苦しみの糸を切ります。


 俺自身が貴方を苦しめてるなら―――居なくなります。


 そんなの、現実では無理。分かってるからこそ、もどかしい。



【Existence Not Needed】



 此処は第一班科学班フロア。第一科学班班長リーバー・ウェンハムはガリガリッと計算を解いていた。そこに現れたのは、腕組みをする男性。ヤマブキ色の髪に、エメラルトグリーンの様に美しい瞳を持つ男性、科学班第ニ班班長レゴリー・ペック班長はリーバーの所に近づく。

 周りの科学班班員はペック班長を見て、まだ来た・・・、と思いながら仕事の手を止めない。リーバーはペック班長に気付き、手を止める。そしてペック班長の方に振り向く。


「どうなさりましたか?」

「この研究の報告書だけど、不自然な点が幾つもあるんだよね。」


 そう言うとリーバーに資料を見せる。それはリーバーの第一班の班員が行っていた研究資料。丁寧に、赤ベンで何が可笑しいか直している。確かに可笑しいが・・・。


「これは悪まで途中経過の報告書です。そこまで細かく書く必要は無いと思いますが・・・。」

「駄目だよ。それじゃ。本部の経費は科学班にある訳じゃないんだから。それに、より効率的な実験をさせないと駄目じゃない?無駄だと思ったらすぐに廃止するべきだ。」


 確かにペック班長の言ってる事は正しい。よりこの聖戦で勝つ為には有無言わず、より可能性のある実験だろう。


「本当に、本部の科学班班長は駄目だね。こんな事も管理出来ない何でね。」

「・・・スイマセン。」

「それじゃ、それだけだから。」


 そう言うとペック班長は科学班フロアから去る。科学班を三班に分けてからこんな事が多い。それでも最初からリーバーは若くして科学班班長になった。だから周りから嫌で見られ、ある程度の回避方法は知っている。

 でも、その言葉に否定に傷つくわけが無い。


「班長・・・。」


 心配になったのか、ジョニーが点滴をカラカラと引き摺りながらリーバーに近寄る。リーバーはそんなジョニーに苦笑を浮かべた。


「ごめん。ありがとう。心配は要らないから。」

「で、でも・・・さっきのは班長ではなく、俺らの不注意ですし・・・。」

「いや、お前等の管理が出来なかったのは俺の責任だしな・・・んな顔をするなって。お前等はいつも通り仕事をしてれば良いんだから。」


 リーバーは笑い混じりに言う。どう足掻こうと、元に戻るわけではない。それに、三班にする事で効率は確かに良くなった。新しく入った班長等は確かにリーバーの精神を傷つけるかもしれない。

でもあの二人も仕事をしてない訳ではなく、部下の面倒を見て、仕事もしている。変わる、を望むのではなく、早く慣れる、を望むリーバー。

そんな純粋な心はすぐに折れ去ってしまう。



「なぜ室長は彼を科学班班長にしたんだろうね?」


 リーバーが給湯室にレモンソーターを補給しようとトアノブに手を掛けた時、給湯室から聞こえた声。それはペック班長だった。入っても問題は無いかもしれない。科学班班長はペック班長とリーバーとバロウズ班長がいる。

それでも、ペック班長がバロウズ班長の悪口を言うのだろうか?そう思ったとき、低い声がした。


「リーバー班長は我々よりも頭が良いのは真実だからな。」


 完璧にリーバーについて言っている。しかもこの声は、科学班第三班班長、マーク・バロウズ班長のだ。リーバーは息を飲みながら話を聞く。班長は勿論扉越しのリーバーに気付く訳が無い。話を続ける。


「確かに部下の信頼も厚いらしいからね・・・まぁ、何処までが本当か分からないけどね。」


 以外にもリーバーを褒めるペック班長とバロウズ班長にリーバーはつい頬を紅く染める。たが、次のペック班長の一言で一転する。


「でもさぁ、どんなに頭が良いって言ってもさぁ、自分の地位を揺るがせるまでして置いておく必要は無いよね?」


 その一言でリーバーは目を見開く。揺るがせるまでして・・・?


「本当は中央庁から俺ら合わせて三人来る予定だったんでしょ?それを無理矢理に班長の座を作ってさ。」

「その為に、室長の座も危ない・・・か。」


 リーバーはただただ目を見開く事しか出来なかった。それはつまり、室長がリーバーを班長の座に座らすため、室長の座を危険な状態にさせた事だろうか?

 何で俺なんかの為に?リーバーは脳裏にそう浮かべた。

大事な人だから?

恋人だから?


「何か弱みを握ってるのかな?あの班長。」

「さぁな。私には興味は無い。」

「おーい、んな事言わないでよ。」


 興味深深なペック班長。リーバーは心臓が直接抉り取られそうな痛みを感じ、その場から出てしまった。


 違う。


   違う。


 苦しめたい訳じゃないんだ。苦しめたい訳じゃなくで、少しでも幸せにさせたかったんだ。



 そして戻ったのは科学班第一班フロア。リーバーが入るなり、周りはリーバーの顔色が悪いことに心配をする。


「・・・班長?顔色が悪いッスよ。」

「・・・大丈夫だ。すぐに直る。」

「休んでくださいよ。」


 引越しをしてから、一気に忙しくなった。それ+引越しの片付けだ。疲れが溜まってない訳が無い。それにさっきの真実がリーバーの精神をより傷つけてしまったのだ。


「リーバー班長、休んでくださいよ。」

「いや、まだ休憩じゃ;」

「今休まず、倒れじゃこっちが困ります。」

「うっ;」


 リーバーは長身で、運ぶのも大変だ。そう考えれば科学班班員の言う事は正しい。それに、必死に休まそうとしているのが分った。リーバーはその言葉に甘える事にした。


 自分の大切な人を傷つけてるのが自分。そんな事が分ったら、どうする?


 戯言など聞けない。結局は―――重りなのだと。



 自室に戻ったリーバー。自室に入るのは、2,3度目だ。まだ荷物がダンボールの中に入っており、殺風景な部屋。リーバーは引越しする際に大きいベットを買った。そのベットの上に寝ッ転がる。前と違い、足が広々と広げられるが、今は体育館座りの様に身を縮ませた。そして近くにあった毛布を被る。

前居た黒の教団と違い、晴れる日が多く、月光がリーバーを照らしていた。

 リーバーは目をゆっくりと瞑る。そうすれば、あの方の声が脳裏に響き渡る。



『ねぇ、リーバー君、もうそろそろ休んだら?』


『リーバー君、この子が僕の可愛い可愛い妹の、リナリーだよぉvV可愛いでしょvV』


『リーバー君笑うと可愛いよ。ちょっ、僕褒めたのに殴る必要ないよね?!』


『リーバー君・・・班長に進級おめでとう。』


『みてみて、リーバー班長!僕が作ったコムリン!あれれ?えへ☆暴走したみたいだね☆』


『リーバー班長が背負うことは無いんだよ。』



『リーバー君、好きだよ。否、愛しているよ。』



 リーバーはベットシーツを握り締める。声を殺しながら泣いた。


 苦しめたい訳じゃないんだ。悲しませたい訳じゃないんだ。

 どんなに思っても、意味を持たない。


 ―――結局、自分は貴方を苦しめてるだけだ。



 ギィィ・・・・・


「リーバー君?」


 古びた扉の開く音と一緒にリーバーが今一番に会いたくない人の声がした。室長であるコムイ・リーだ。リーバーは返事をしなかった。したら、涙声が出るだろう。それが嫌で返事をしなかった。

 コムイはリーバーに近づく。


「ねぇリーバー君。」


 近づくな。お願いだから、近づくな。


「リーバー君。」


 呼ぶな呼ぶな。お願いだから、俺の名を呼ばないでくれ。


「リーバー。」


 また、貴方に甘えそうだ―――。


 コムイはリーバーの寝ッ転がるベットのサイトに座る。そして背を優しく撫でる。


「返事をしなくでも、君の存在は消えないよ。」


 記憶、記録、存在、は数年、数十年、数百年と経てば消えるかもしれない。それでも、完璧に消え去る訳ではない。その人の居た証が。その人の居た存在が。


「な、んで、此処に居る、んですか・・・。」


 リーバーは問うが、その声は震えていた。コムイはリーバーには見えないとは分かっていても、笑みを浮かべた。


「居ちゃ、駄目?」

「いえ。違うんで、す。」


 こんな時に雨が降っていたら、少しは誤魔化せるのに。こんな時に足音や話声が響いていたら、少しは誤魔化せるのに。異様に静か過ぎて、微かに動く音だけでも耳にはっきりと聞こえる。

 自分の嗚咽すらも耳に残る。


 聞かないでくれ。


 自分は―――自分は―――


 貴方を縛り続けている。そんな自分は、貴方にとって―――。


「ねぇ、コムイさん・・・。」

「ん?何?」


 コムイは首を傾げながらそう問い返す。リーバーはすぐに言わなかった。否、言えなかった。沈黙が走った。それでも、コムイは笑顔のまま待つ。

 リーバーは重い口を開く。



「アンタにとって俺は、必要な存在ですか?」



 リーバーの問いにコムイは目を見開く。若くしてから支部の科学班に居て・・・その頭の良さを買われ異例の若さで本部の科学班に入った。そんなリーバーを良い様に思う者など居ない。

 だからずっと、支部に入ったときも本部に居た時も、ずっとずっと一人ぼっちだった。だから、心開けなかった。それでも、コムイが側に居てくれた。


『リーバー君。リーバー君。』


 自分の存在理由。


それは貴方の幸せそうに笑う笑顔。


それは幸せな世界。


「リーバー君・・・。」


 コムイは小さくそう呟くと少し間を置き、口端をあげる。そして勢い良くリーバーの背を叩く。


「なーに言ってるのさ。必要じゃない人なんで居ないよ。」


 コムイはとても明るい声でそう言う。リーバーはつい拍子抜けをしてしまった。引かれると思ったからだ。あるいは、怒り。

 コムイは背を叩くのを止め、毛布を掴み、リーバーの顔部分を退かせる。髪が少しクシャリとなり、耳や頬がほんのりと紅い。そしてシーツや頬は酷く濡れていた。

 コムイは溜息を吐きながら頭を撫でる。


「誰に何を吹き込まれたか知らないけど、君は僕にとって必要な人だよ。」

「でも、アンタは此処に居られなくなるかもしれないんでしょ?」

「何で?」

「俺を、科学班班長にさせたから。」


 コムイはそれを聞くとリーバーを自分の方に押し、無理矢理、リーバーをコムイに向かせる。リーバーは自分の涙に濡れた汚い顔を隠すように腕で隠す。たが、コムイはその腕も奪い取る。

 そして涙で濡れた顔をジーと見たと思ったら、その涙を舐め取る。


「コ、コムイさん?!」

「必要だよ。」


 コムイはある程度舐め取れば、コムイ自ら横になり、リーバーを抱きしめる。リーバーの額はコムイの胸につける。ドックン、ドックンと鼓動が鳴るのが感じた。


「君が傷つく姿を見たいから、科学班班長にした訳じゃない。今の本部の科学班班員にはリーバー君が必要なんだよ。」


 室長、としての答えだろう。でも、室長は聖戦をより有利にさせる事を優先する。前までの室長ならそんな聖戦にそんなに影響の無い人を見捨てていた。

 どんなに人形の様に扱われても、逆らうと異端尋問、にかけられる。権力横暴だ。室長はそんな人から見たら異端で、要らない存在なのかもしれない。

 リーバーを班長にした事でギリギリの状態なのかもしれない。


「コムイさん、俺、俺は―――」

「僕は君にしか愛せなくなってるんだ。君がリナリー以外で愛しいと思ったんだ。」


 唯一の肉親、リナリー。この教団内の全員を大切にしているとはいえ、室長として一線を引かなければならない。リーバーはその一線を越えた人。


「僕の我侭に付き合って。」


 コムイはそう言うとリーバーを抱きしめる手を強める。リーバーはまだ涙が流れる。


でも、今度はまた違う涙。


リーバーはコムイの背に手を回した。


「ずいません。ずいません。」



 気付けば、自分は、貴方を縛っていた。


 貴方は笑みを浮かべながら自分を許してくれた。


 だから、俺は貴方の役に立ちたい。


「俺は―――」


 神様。神様。今だけ、今だけ許して。今だけ、温もりを感じさせて。


 今だけ―――


 弱い自分を曝け出させてください。


「俺は―――貴方の必要な存在で良いんですよね?」


 必要な人と信じ、俺は、世界を歩く。貴方と一緒に。


 貴方が必要じゃないと思う、その時まで。


 だから、今だけ―――その手を、温もりを、離さないでください。


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@言い訳@リクエスト内容⇒『新しい班長ズとコムリバ』

 遅れてスイマセン><そして、暗い話に!スイマセン!しかも、新しい班長出てませんね(ド殴)しかも、捏造ばっかし!フフッ・・・やっぱし病テレが好きな私でした☆(ド殴)
 気に入らなかったら申しててください。
 色々とスイマセン。失礼します。平成20年10月7日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様