此処は科学班フロア。そこには連日に渡って徹夜続きの科学班の山となっていた。

 完璧に書類仕事はストップしており、机に突っ伏していたり、床に倒れていたりしていた。

 新入りのタップとジョニーも例外ではない。


「眠い〜。」

「死にて〜。」


 よく言う。ただ死ぬよりも、ナイフをチラかせながら、殺すぞ、と呟いたりそのナイフで少しずつ刺して出血死にした方が苦しい、と。

 今の科学班班員は睡眠時間、食事時間を削っている。その為、体が悲鳴を鳴らしているのだ。


「ホラ、そこ!寝るな!!」


 そんな声がどよんだ科学班フロアに鋭く響き渡る。だが、誰一人その声の主を確かめようと顔を上げなかった。見なくでも分るし、その気力すら無かった。

 声の主はジョニーとタップに近づき、二人の頬を抓る。二人は、いはい!いはい!、と痛がり叫ぶ。


「仕事をしろ。」

「今、眠れるなら、後悔しません!」

「皆同じだ、アホ。今やってる書類だけ終らせろ。」


 地を這う様に低い声で言う。


『仕事の鬼。鬼の教育係。』


 そう呼ばれる人間。リーバー・ウェンハムは頬を抓る手を離し、書類を人差し指でコッコッと叩いた。


「次来てやってなかったら、腹を殴るからな。」

「「スイマセン!!」」


 そのあだ名通り、鬼の様に恐ろしい人間だ。



【Fiend】



「仕事の鬼。鬼の教育係、ね♪」


 食堂内でゲラゲラと笑いながら言うのは、キャラメル色の髪を持つ男性、マービン・ハスキンだった。そしてその目の前に居るのは当の本人、リーバーだった。

 リーバーはそんなマービンに溜息を吐きながら最近ハマり始めた焼きうどんを食べる。それでも、マービンのからかいは続く。


「凄い眉間の間に皺が残ってるぞ♪どんだけ怒ってるんだよ。」

「教育係ですからね。怒るのは当たり前でしょ?」

「まぁ、そうだな。しっかし、アイツ等も不運なのか、幸運なのか・・・間違い無く不運だな。」

「嫌味なら正々堂々言ってください。」


 リーバーは眉間に皺を寄せながらそう言う。その皺を見てマービンは腹を抱え、笑った。そんなマービンに周りは視線を送る。

リーバーとそれなりに仲が良いのはリーバーの教育係であったマービンだけだ。だから、良く付き合ってるなーと言う視線の方が大きい。リーバーも先輩に怒る事なく、かと言って頼る事もない。

マービンはとうにか笑いを抑えようとし、笑い涙を拭うが、未だに体はピクピクと震える。少しのジョークだけでもまた笑い出したそうだ。


「お前は押し過ぎなんだよ。たまには引け。じゃなきゃ後輩が自立しないぞ。」


 笑い混じりに言われるアドバイスは適切だが、なんせ笑い混じりだ。真剣みが無い。


「それに、お前も疲れてきただろ?俺はお前しかやってなかったが、それなりに疲れるからな。」

「・・・ただ食事に誘っていた事が?」

「あれは、誰と食事に行かせる方が良いかなーとか、な。」


 マービンは高い天井を見つめながら遠い記憶を引っ張る様に呟いた。マービンが実際にリーバーにやった事は食事の誘いと休めと言う事くらいだ。だが、それでも確かに居ないよりは心強かったのも真実だ。

 それにリーバーが倒れた時マービンはちゃんと叱った。それくらいで良いんだろう。何もかも怒る、そんなの良くある厳しい家庭の母親と一緒だ。

 リーバーは眉を下げ、溜息を吐く。


「本当に、教育係は疲れますね。」


 一言、そう言う。マービンはククッと笑いながら自分の皿にのかっている肉を一つリーバーの皿にのせた。


「まぁ、頑張りすぎるな。お前の場合全てに対して真面目すぎるんだからな。」

「貴方は不真面目すぎた気もしますけどね。」


 リーバーの言葉に、マービンはまた笑った。リーバーもつられる様に笑ってしまった。




 リーバーは食堂から科学フロアに入った時には、笑みは無かった。完璧に、仕事の顔、になったのだ。余計な事や情を表に出さず、仕事をし続ける『仕事の鬼。鬼の教育係』になったのだ。


 ガッチャン


 リーバーが科学フロアに入った時すぐに硝子が割れる音が響いた。リーバーは音がする方を向けば、慌てて硝子を拾うジョニーとタップの姿があった。

 その体は微かに震えながらリーバーの顔をチラチラと見る。運悪くリーバーが入って直後に割ってしまったからだろう。後数分リーバーが来るのが遅ければ・・・そんな事を思っても遅い。

 リーバーは眉間にしわを寄せ、兎の様に怯える二人の所へ向かおうとした。

 だが、その時にある言葉を思い出す。



『お前は押し過ぎなんだよ。たまには引け。じゃなきゃ後輩が自立しないぞ。』



 リーバーは溜息を吐き、改めて二人に近づいた。そしてジョニーとタップを見下ろす。二人はガタガタと身を震わせながら割れた硝子を見つめる。

リーバーの痛い視線に拾っている手が止まってしまう程の恐怖がそこにあった。

 リーバーはそんな二人を見て眉を下げ、溜息を吐く。そしてしゃがみ込む。二人は深く目を瞑った。だが、二人が覚悟をしていた罵声は聞こえてこず、その代わりに予想外の言葉が聞こえてきた。



「ほら、何をやっている。さっさと硝子を片付けろ。」



 リーバーはそう言うと二人は目を点にしながらリーバーの顔を見る。そんな視線にリーバーは眉間に深くしわを寄せる。それにピクついてしまった。


「お前等が割ったんだろ?さっさと拾え。」

「「は、はいっ!!」」


 ジョニーとタップはリーバーのドスが聞いた声に怯えながら硝子を拾う。拾い終われば、二人はリーバーに視線を送った。


「あの・・・ちょ、調子が悪いんですか?」


 ジョニーが震える声で恐る恐るリーバーに言う。リーバーはつい目を見開いてしまった。そしてすぐに苦虫を噛み締めた様な顔をする。


「怒ってばっかしでも反抗的になるだけだし、自立しないのも困るからな。」


 リーバーはそう言うと自分が集め硝子をジョニーに渡す。そしてはらいながら立ち上がった。

ジョニーとタップは口を開いたままのマヌケな顔をしたままリーバーを見上げた。

 リーバーはそんな二人に綺麗な笑みを浮かべた。




「5分内に硝子を片付け、仕事に戻れ。戻れなかったら、どうなるか分かってるな?」




「「ひっ!!はい!!」」


 ジョニーとタップはリーバーの恐ろしい脅しにスクッと立ち上がり走っていく。戻れなかったら、頬を一発叩かれ、説教が続く。説教は時間的に短いが、精神にかなりキツイのだ。

 リーバーは慌てて走る二人の後ろ姿をジーと見つめる。

 いつか、こうやってあの二人は教育係から離れて、後輩を持つ事になるだろう。

 リーバーはジョニーとタップに背を向け、自分席に向かう。


「押して駄目なら引いてみろ。」


 まだ後輩の時、不真面目な先輩から言われた一言。いつしか、自分が先輩になっており、その後輩がまた後輩を持つ。その流れはこの仕事を止めない限り続く。


 背を向けてる二人は、どんな先輩になるか・・・リーバーは自然に笑みが浮んでしまう。

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@良い訳@リクエスト内容⇒『班長先輩時代の話。』

 スイマセン><先輩の話のような・・・後輩の話のような・・・マービンさん先輩説書いてる時点からスイマセンですよね!(ド殴:他にあるだろ!)さり気無く食堂の話しが多い気が・・・本当にスイマセン><
 改めてリクエスト有難うございますw
 お気に召し上がりませんでしたら申しててください。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成20年11月24日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様