「はぁ・・・」
何度目になるか、ロイは溜息を吐いた。それを聞き、中尉が眉間にしわを寄せ、ロイを見る。ロイはその視線に気付き、書類に目を落とすが、また溜息が吐いてしまう。
中尉はそんなロイに近づいた。
「どうしたんですか?さっきから溜息漏らしてますよ。」
「・・・中尉・・・聞いてくれるか?」
「内容によります。」
中尉はツンと言うが、ロイにとって聞いてくれる人が居るだけで幸せだ。ロイは一旦視線を下に向けた。
片手を心臓らへんの軍服を握った。
「私は・・・ハボック少尉に・・・恋している。」
ロイはそう言うと中尉へ視線をあげる。中尉は―――鬼の面を被ってるかの様に、恐く驚いていた。その顔を見てロイはピクつく。
中尉は鬼の面を崩し、目線をずらす。その顔には、困惑があった。
「恋してると言われましても・・・少尉は男に全然興味が無いと思います。それ以前に大佐って、意外にマイナーを取らないんですね。」
「一言、多い気がするが?」
ハボックと言えば此処、東方軍のアイドル的存在だ。勿論本人は気付いていないが・・・。そんなハボックを抱きたい!と思う輩は少なくない。本人はそんな視線をただの喧嘩ごしだと思い込んでいるが。
中尉は改めてロイを見つめる。その目は何処か怪しげに光っていた。
「・・・このままだと仕事になりません。なので、出来るだけ私も協力します!」
「お、おお。頼む。中尉。」
これが始まりだった。
【世界が壊れようと、私は君を愛す】
作戦1.【取り合えずロイなりに頑張ってみよう!編】
此処は大部屋。そこには苦手な書類仕事と悪戦苦闘しているハボックの姿があった。そんなハボックに近づく者が一人。ハボックの上司である、ロイ・マスタングであった。
ハボックはロイの存在に気付き、見上げた。ロイの口には笑みがあった。
「どうかね?仕事の調子は?」
「はぁ、それなりに頑張ってます。」
ハボックは曖昧にそう言うと書類仕事に視線を移す。ロイはそんなハボックも可愛く思いながら、ハボックの座る椅子の背もたれの上に腕を付け、寄りかかった。
「いやー書類仕事をしてる君の姿は実に美しい。」
「は?」
ハボックは眉間にしわを寄せ、ロイを見る。ハボック自身、美しい、と言う言葉に不快を感じたのだ。ハボックは見た目からして男であり、美しい、と言う単語がお世辞にも当てはまらないからだ。
当てはまるとしたら、その綺麗についた無駄の無い筋肉だろうが、さっきの言いあいから、それは無い。
ハボックのマヌケな返しにロイはハボックに顔を近づけた。そして風の囁きの様に呟いた。
「お前の苦悩に歪ませる顔が美しい。」
その一言にハボックは身振りが震えた。それにロイは、堕ちた、と思うのと同時に腹に痛みを感じた。それはハボックが肘テツをしたからだ。
「気持ち悪いッス!!」
そう言うとハボックは席を外し、大部屋から去っていた。ロイはハボックが出て行った扉に手を伸ばすが、届く訳が無かった。
そんな哀れなロイに中尉が近づく。
「どうやらハボック少尉は、美しい、と言う単語が嫌いらしいですね。まぁ、ハボック少尉は男であり、大佐のルックスは一切通用しない訳ですから、当たり前と言えば当たり前かもしれませんが。」
そんな中尉の辛口の言葉がロイの心にズシズシと刺さってしまう。ロイは無意識の内に心臓らへんの胸を押さえた。
「次は、男性を意識して、接してみてください。」
「・・・そうだな。ハボックは男だからな。」
ロイはそう言うと、扉から出て行き、ハボックが逃げた場所へと走り去った。
作戦2.【男性を意識して、接してみましょう!編】
休憩室でタバコを蒸かすハボック。そんな休憩室に息を切らしながらロイがやってきた。ハボックは露骨に嫌な顔をしたが、ロイはそれを無視し、ハボックと距離を置き、座った。
沈黙が走った。ハボックがチラとロイを見れば、ロイは薄汚れた床を見つめていたままだった。そんなロイを見てハボックはさっきの殴ったことに罪悪感を感じてしまった。
ハボックはタバコの火を、既に数多くのタバコが入った灰皿の中で消した。そして改めて、ロイの方を向く。
「あ、あの・・・大佐・・・」
ハボックはロイを呼ぶ。その後何を言えば良いか探す。もとはと言えば、ロイが悪いのだが・・・それでも、何か理由があって、あぁ接したのかもしれない。そう思えば、その好意を裏切った自分を悪いだろう。
「・・・大佐、そんな俺が殴ったりなんだりするのは今更じゃないスか!ほら、俺、口論とかよりも先に手を出してしまうタイプでしょ?だから、その・・・本当にスイマセンでした!」
ハボックは最終的に何が言いたいか良く分からなくなってしまい、立ち上がり、ロイに頭を下げた。だが、一向にロイは頭を上げようとしない。
そんなロイにハボックは異様な油汗が流れる。体が熱いのに、頭の中が冷たく感じる。
「大佐――「もう、良い」――!!」
大佐の一言にハボックは顔をあげ、ロイをを見つめる。もうハボックの顔にはいつもの元気さは無い。顔は青白くなっていた。
ロイはハボックから目線をずらし、両手で自分自身を抱いた。
「・・・大佐?」
ハボックは震える声でそう言うとロイは薄目を開け、深緑のソファーを見つめる。このソファーも長いのか、薄汚れていた。
「私は・・・」
一旦言葉を切り、ロイはハボックを見つめる。その目には酷く揺れていた。
「・・・お前の愛情が・・・怖いのだ。」
「へ?」
その言葉にハボックは大きく目を見開いた。何言ってるんだ?と。
ロイは自分を抱きしめていた片手を、膝の上に置く。もう片手は口元を隠す。少し頬を染め、また深緑色のソファーに目をずらす。
「私だけがお前の愛情を一人締めにして良いのだろうか?と。」
ロイはそう言うと体をクネクネと動かす。
「お前にはまだ人生がある。なのに、私みたいな三十路前の男に・・・良いのだろうか?と。ハボック、私は――――あれ?」
ロイが顔をあげた時、もう既にハボックは居なかった。ロイは足を組み、タバコを吸っている素振りをした。
「本当に、男と言うのは・・・」
パシッ!!
「誰が大佐自身女性になれ、と言ったんですか!!」
中尉は何処から出したか、ハリセンでロイの頭を勢い良く叩いた。ロイはジンジンと痛む頭を押さえる。
「え、違うの?」
「大佐がやってるのはオカマから訴えがくるほどの最低な事です!そんなやり方でハボック少尉が堕ちると思ったんですか?!」
中尉の正論にロイは黙り込んだ。確かに、あんな半端なオカマを、誰も好まないだろう。それに、ハボックは純粋なる男だ。男性、と言うところでアウトだろ。
「・・・じゃぁ何をすれば・・・。」
「・・・逆に、叱ってみてはどうですか?飴とムチ、と言う言葉もありますからね。」
その中尉の提案にロイは目を見開く。ロイはいつもハボックに甘い。だからハボックもロイが変な事をすれば暴力を振るようになった。まぁ、それは正しいと言えば正しい訳だが・・・。
ロイは中尉と握手をいようとしたが、中尉に腹を蹴られた。
作戦3.【厳しくしてみましょう!編】
此処は大部屋。ハボックは同級のブレタの隣で書類仕事をしていた。そこへロイが近づいてきた。ハボックはロイが近づき、露骨に嫌な顔をした。
だが、ハボックはすぐに気付いた。さっきまでのふざけた様なロイではない。ロイは先ほどハボックが終らした書類を取り、読み始めた。そしてすぐに閉じ、机に叩きつけた。
「なんだ?この書類は。全然繋がってないではないか!」
「・・・スイマセン。」
ハボックはそう言うと頭を下げたが、ロイはそれでも収まらないのか、ハボックの胸倉を掴み、顔を無理矢理ロイに向けさせた。
ロイの漆黒の目に一切光が遮断されているようだった。その目を見続けると、溺れそうだ。
完璧に怒らせてしまっただろうか?暴力に無視をしたから。ハボックがそう思ったとき、ロイは口を開く。
「べ、別に好きだから厳しくしてる訳じゃないからな!そう言う訳じゃないからな!」
「・・・は?」
ロイの言葉にハボックは目を点にした。ロイはそっぽを向き、口を尖がらせていた。その頬は紅く染まっていた。
「別に私はお前が好きじゃないし。それ以前に嫌いだし。はっ!誰がお前のことが好きなんだ。」
「は、はぁ・・・。」
ハボックは何を言えば良いか、口を濁した。その時、ハボックの顔は青ざめた。
ロイの真後ろに、殺意をバラまく中尉の姿があったからだ。中尉はロイの頭を殴り、ロイを気絶させた。否、実際気絶してるのか怪しい。ロイの口から魂が抜けているからだ。
「ごめんなさいね。ハボック少尉。」
「いえ、大丈夫です。」
ハボックと中尉はお互いに敬礼を交わした。そして、中尉はロイを抱えて去っていた。
「何故、上手く行かない・・・。」
「大佐は作戦内容を誤解しているんです。誰がツンデレをしろ、と言いましたか?」
中尉はロイをキッと睨み、そう言った。少女や女性がツンデレならまた良いかも知れない。しかし、ロイは男だ。しかも、ツンデレになりきっていなかった。
中尉はコーヒーを音を立てずに飲む。
「・・・やっぱし、通じないのだろうか?私の思い・・・。」
そんな諦めのロイに中尉は黙り込む。ロイとハボックは男同士だ。それでも、可能性は無くない。ハボックは上司が嫌いで、尚且つ錬金術師が嫌いだ。その二つに重なるロイだが、ハボックはロイを殺したいほど憎んでる訳ではない。
その逆だ。確かに躊躇する時はあるが、それでも何処か楽しそうだった。
「・・・一回、自分で自分自身の思いを伝えて見たらどうですか?」
一回目も自分自身だったが、あんな回りくどいやり方ではなく、直接、分るように、と。
それでもロイは悩んでいた。ハボックが錬金術師が嫌いなのを知っている。理由もまた。だからこそ、本当に自分が告白して良いのだろうか?と思ってしまうのだ。
中尉は珍しく、優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。ハボック少尉は受け止めてくれます。」
その言葉にロイは勇気付けられ、ウム、と言葉を漏らした。そしてすぐに持っていたコーヒーを一気に飲み干した。熱くて苦いコーヒーが流れるのを感じた。
作戦最終.【真剣に告白をしてみましょう!編】
大部屋には珍しくハボック一人だけだった。ハボックはペンを走らせると、淹れ立てのコーヒーの匂いがしてきた。その匂いにハボックは匂いがする方へ顔をあげた。
そこには両手にコーヒーが入ったカップを持つロイの姿があった。
「大佐・・・」
「これ、差し入れだ。」
そう言うとロイは机の上にカップを置いた。ハボックは、有難うございます、と頭を軽く下げ、カップに手に取り、啜り飲む。淹れたてで、舌が火傷するように熱かった。
その為ハボックは一生懸命にコーヒーを吹き冷ましていた。そんな可愛らしいハボックにロイは自然に笑みが浮んだ。
「なぁ、ハボック・・・」
「はい?」
ハボックは顔をあげた。愛らしいタレ目がロイを見つめていた。ロイは一瞬告白するのに、躊躇したが、今告白をしないと一生後悔する。
「わ、私は・・・ハボックが好きだ。世界が壊れようと、私は君を愛す。」
ロイはそう言うとカップごとハボックの手を包み握った。窓から射す茜色の光が、二人を照らす。ロイの顔や耳は茜色に負けないくらいに真っ赤に染まっていた。
ハボックはその急の告白に、ニコッと笑みを浮かべた。
「んな冗談を言ってる暇があったら、仕事をしろや、ボケvVアンタが仕事をしないと、定時に帰れないんじゃvV」
綺麗な笑みでそう言われたロイ。ロイは雷に打たれた様な衝撃を感じた。
「酷い!私を弄(もてあそ)んだのね?!」
「寒いこと言わんといてください。ほら、仕事に戻って戻って。」
ロイはハボックに言われ、仕事場に向かった。そんなロイの後姿はリストラされたサラリーマンの様だった。
「ハボック少尉も鬼ね。」
「そうスか?」
見ていた中尉が言うと、ハボックはコーヒーを啜り飲む。
「本当は、両思いでしょ?」
「ははっ、どうでしょうね。・・・でも、大佐の必死な姿が、面白くて。」
そう言うとハボックはコーヒーを飲み干した。そして改めて書類に視線を移す。
「さぁって、定時に終らす為に仕事をしますか。」
そう言って、ハボックは書類にペンを走らせた。
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@言い訳@リクエスト内容⇒『大佐・中尉・少尉の出る話』
キャグにしたかったんですorz(ド殴)しかも無駄に長いですよね!本当にスイマセン><密かにブレタさんが出て居たのは、内緒の話ですw(ド殴)ちなみに、両思いです。
では改めてリクエスト有難うございますw
お気に召し上がりませんでしたら、申しててください。
では色々とスイマセン。失礼します。平成20年11月25日
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