周りが風邪を引いて。



 次々に倒れて。




 巻き毛が逃げて。





 探して、見つけて、椅子に縛って。






 それから徹夜で。







 それから・・・それから・・・・








「何で此処に居るんだ?」


 気付けば、見覚えのある白い部屋。腕には点滴の針が刺さっており、頭の上には氷の入った袋がある。

関節があっちこっち痛い。鼻で息が出来ず、口で息をしている。時折、咳をして、吐き気が襲う。頭の中から痛みを感じる。 この病状は知っている。風邪、だ。



【Those Who Visit It】



 改めて、此処は病室。リーバーは風邪で倒れ、ベットの上。ポタポタと精神が狂いそうな点滴の音が聞こえた。

隣には、婦長が居て、リーバーの口の中に入れている体温計がなるまで待っている、のと同時に苦情をクチクチと言う。


「たくっ!貴方は毎回毎回倒れるまで無理して!どれだけ迷惑してるか分かってるの?」

「はぁ・・・本当にスイマセン・・・。」


 婦長の怒る声を聞いてるだけで、胃が痛くなる錯覚を覚える。黒の教団に来てからずっと婦長にお世話になり、怒らせている。その度胃の痛みを感じる。どれくらい時が流れても、怒られるのに慣れる事はない。


 ピピピッ


 その時、体温計がなった。婦長はリーバーから体温計を取り、見ると眉間に皺を寄せた。


「37.6・・・・・」

「よし、仕事に・・・・・」

「あら?私が行かすと思ってるのかしら?」

「!!思ってません!なので、その鬼のお面を抜いてください!!」


 リーバーがそう言うと、婦長は、ハァ、と溜息を吐く。


「安静するのよ。」

「はい。どうせ、逃げても、近くに居る人に見つかって連れ戻されるのがオチですし。それが分らないほど馬鹿じゃぁありません。」

「・・・絶対に安静よ。」


 そう言うと、婦長は病室から去る。扉が閉められ、すぐにリーバーは点滴の針を抜く。


「誰が此処で大人しく居るか。」

「あんら?さっそくこうなるのかしら?」

「?!」


 簡単にリーバーの行動を予測した婦長はリーバーを押し倒し、腕に手錠をした。勿論鍵は婦長が持っている。


「逃げようとしたり、仕事を密輸したら、、、、分かってるわね?」

「分かってますから!その鬼の面を閉じてくださいっ!!」


 婦長はドス黒いオーラーを出しながら、バタンッ、と病室を後にした。リーバーは出て行った事を確認すると、手錠と繋がってる手を動かす。金属と金属が擦れる音が聞こえるだけで、外れる気配など毛頭にない。

 リーバーは寒さから、咳をした。体は酷くだるく、何かの拍子で咳が止まらなくなる。リーバーは布団を被った。そして布団の中で丸まる。それでも抵抗を忘れず、手を動かすが、やはり外れる様子無く、手が赤くなるだけだった。

 仕事中毒のリーバーにとって、安静、と言う言葉を受け入れなくなっている。仮眠に入る直前も、いつも考えるのは仕事の事だ。部下が行っている研究について。次やる書類の計算の方式は何を使うかについて。今誰が倒れそうだから休ませるかについて。

 そんなリーバーに仕事を、休め、と言う方が無理なのだ。


 カチャッ


「はんちょー大丈夫で―――」

「よしっ!マービン、今すぐ俺の書類を持ってきてくれ、ゲホゲホッ」

「うおっ?!来て早々その言葉スか!」


 病室に入ってきたのはキャラメル色の髪を持つ男性、マービン・ハスキンだった。休憩で来たのだ。

 マービンは溜息を吐く。仕事の鬼に、仕事に溺れる可哀想な年下の上司に見舞いに来たのに、仕事の話・・・そんな呆れの溜息だ。

 リーバーは布団に全体を覆い被せ、顔だけを布団から出していた。そんなマヌケなリーバーにマービンはつい噴出し笑いをしてしまった。そんなマービンにリーバーは不快に眉間に皺を寄せた。マービンは咳払いし、改めてリーバーを見る。


「それより、今は仕事よりも安静していた方が良いんじゃないんスか?婦長にもそう言われてるんでしょ?」

「俺は、病室とか、嫌いなんだゲホッ。それに、俺はゲホッ平気だし―――ゲホゲホッ」

「ほら、無理しちゃ駄目ですよ。あ、これ、差し入れです。」


 綺麗な笑みを浮かべながらマービンは泡と書かれたカップを渡す。その中には、勢い良く泡が出るレモンソーダーがあった。リーバーは不快一色になる。


「お前はゲホコホッ今の俺にゲホッ飲めると思ってるのか?」

「別に今飲めと言ってません。治ってきたら飲めば良いじゃないですか。」

「炭酸水は抜けたらもはや炭酸じゃね――――ゲホゲホッ・・・んだよ。」

「そうスね。・・・・真面目に顔色悪いですね。真剣に休んでくださいよ。」


 マービンはそう言うと欠伸をする。欠伸をし終わるとマービンは立ち上がる。もう、眠さの限界なのだろう。


「それじゃぁ、絶対に安静ですよ。」

「はいはい。・・・ごめんな。」

「別に謝んないでくださいよ。寂しくなったら、いつでも抱擁(ほうよう)してあげますからねvV」

「いらねぇよ!!ゲホゲホッ」

「ははっ。それじゃぁ、おやすみなさい。」


 そう言うとマービンは病室から出る。リーバーは自分だけになった病室で、何故か寂さを感じた。だが、さっきのマービンの冗談を思い出し、首を左右に振った。

 マービンが持ってきた炭酸水を吐き出さない様に少しずつ飲んだ。炭酸水の泡で体が痺れる様な独特な感覚がリーバーを襲った。とても良い感覚だ。炭酸水はやっぱし良い。心も体も癒してくれる。そう思ったとき、ある重大な事を思い出す。

 結局、マービンに書類の事を頼む事を忘れたのだ。さっき出て行った様子だと、間違い無く持ってこないだろう。リーバーは布団の中、ベットを何度も叩いた。


 カチャッ


「やぁ、リーバー君vV」

「取り合えず、死ね。」

「え、ええっ?!最初の一言がそれなの?!」


 来て早々リーバーに死ねと言われたのは、漆黒の髪に瞳を持つ男性、コムイ・リーだった。コムイはリーバーの言葉に泣く振りをするが、リーバーはコムイに背を向け、布団に包まり、体を縮めていた。


「ちょっとー見舞いに来たのに、その態度酷くない?」

「見舞い、じゃなく、でゲホゲホッ、サボリ、に来たんでしょゲホッゴホッ。アンタは。ゲホゲホッ」

「もう、疑心暗鬼なんだからー。それより、咳してるけど大丈夫?」

「アンタが、ゲホッ、逃げさえしなければ、ゲホゴホッ俺は風邪を引かなかったんスけどね。ゲホゲホッ」


 コムイが逃げなければ、冷え込む廊下を走りまわなくて良かったのだ。なんで、結局は言い訳にしかならない。

 コムイは椅子に座り、リーバーの背に位置する布団の上に手を置く。


「ごめんね。」

「謝らなゲホゲホッ・・・くださいよゲホゴホッ謝るなら、仕事をし、ゲホゲホッ」

「本当に、仕事の鬼―。」


 コムイは口を尖がらせながら、咳き込む背を布団越しに優しく撫でる。だが、リーバーの咳はなかなか収まらない。


「布団被ってるから息が苦しいんじゃない?」


 コムイがそう言うと布団を捲り、リーバーの顔を出させる。出されたリーバーの顔を見て、コムイは固まる。

 熱で頬や耳が紅い。汗でいつもツンツン立ってる髪が額にくっ付いている。眼球は濡れており、瞳が酷く揺れていた。鼻が詰まっており、息が出来ない為、口で荒く息をしている。


「ゲホゲホッ・・・・・コムイさん?ゲホッ」

「もう、リーバー君ヤバイよ。その顔。」

「はっ?」


 リーバーは無自覚らしい。実際にこの病室には鏡が取り付いてる訳ではない。それでも、少しでも今の姿を考えてもらいたい、そうコムイは思った。

 それなりに餓えた野郎なら平気で押し倒すだろう。コムイ自信も、襲う衝動を抑えるのに精一杯だ。

 コムイはとっさに身を引く。このまま近くに居れば、襲いかねない。だが、それが逆効果だった。


「・・・コムイさん?」


 急に身を引いた為、リーバーは不安そうな表情を向けたのだ。風邪を引いて、酷く精神が弱っているのだ。


「そんな顔をしないでよ〜。」

「どんな顔スか。ゲホゴホッ」


 リーバーは体をくの字にして、咳き込む。リーバーは37.6℃で、高熱なのだ。咳一つ一つが辛く、体力を多く使う。

 珍しく弱る仕事の鬼を見て、コムイはまだ近づく。


「大丈夫?すごい、顔色悪いよ?」

「ゲホッ、んな事よりゲホゴホッ、仕事ゴホゴホッ」


「んな事じゃないでしょ!待ってで!今婦長を呼んでくる―――」


 カッ



 コムイの細い腕を掴むのは、インクが染み付いた骨ばった手だった。



「リーバー君?」


「スイマセン。こ、ゲホゴホゴホゴホッ」



 言葉を途中に咳き込むリーバー。リーバーは咳き込んでも尚コムイの手を力強く握る。コムイはリーバーの手の上に手を置いた。


「こ・・・何?」


 分かっていたが、あえて聞いた。リーバーはバツの悪い顔をする。


「意地悪スねゲホッ」

「そうかな〜vVvV」

「萎えますゲホゴホッ」


 コムイは笑みを浮び、ベットの近くにある椅子に座った。コムイの腕を掴むリーバーの手を優しく解き、片手で握る。もう片手でリーバーの汗で濡れて柔らかくなった髪を撫でる。

指に水気がつく。今はそれも愛しい。


「ゲホゴホッゴホッ、本当はゲホッ仕事行って欲しぃゲホッゴホゴホッ」

「もう、リーバー君は仕事の鬼なんだから。でも、僕は君の寝顔を見るまで此処に居るよ。丁度休憩だからね。」

「だったら、仮眠・・・」

「もう!自分の状態考えてよね〜。」


 コムイはそう言うとリーバーの鼻の先を掴む。リーバーは、いはい、と言う。コムイは、あははっ、と笑いながら掴む指を離し、まだ髪を撫で始めた。その額は酷く熱く、それほど冷たくないコムイの手の温度が浮き彫りになる。


「側に居て欲しいんでしょ?寂しいから。」

「〜っ。さぁ。」

「ふふっ、強がりだね。」


 コムイはそう言うとリーバーの広い額にキスをした。リーバーの顔がより一層紅く染まった。


「風邪の時くらい仕事から頭離したら?折角風邪を引いたんだから。」

「・・・学校嫌いの、ゲホッ子供の理屈です、ね。」

「あははっ、でも、それが一番しっくり来ない?僕も、君をテロテロに甘やかしたい。」


 子供の様に。大人になると、無駄についてしまったプライドが、その純粋なる、甘えたい、と言う感情を抑えてしまう。だから、風邪を理由に甘えても良いと思う。

 無邪気で、甘える事が普通だったあの日の幼い刹那の様に。

 リーバーは撫でる手に気持ち良さそうに目を細めた。


「ん・・・休憩時間の間だけ・・・。」

「普段から甘えて欲しいんだけどねw」

「仕事・・・ゲホッ」


 それから、リーバーはコムイの温かさに眠りへ堕ちた。




「仕事の密輸をしていた時の事を考え、注射を持ってきたけど・・・フフッ、その必要は無かったみたいね。」


 帰ってきた婦長はベットを見て、苦笑を零す。ベットの上、すやすやと眠るリーバー。ベットに突っ伏して眠るコムイ。二人の手はしっかりと握られている。

 婦長は、リーバーの腕に掛かっている手錠を外しその腕を布団の中に入れた。


「おやすみなさい。」


 まだ、病室は静かな空間に包まれた。


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@言い訳@リクエスト内容⇒『風邪引き班長』

 ギャグにしたかったんですがorz(ド殴)本当にスイマセン><フフッ、風邪ネタが好きなわりには、上手く書けずorzリーバーさんの色っぽい表情が書けただけで自分的に満足と言う(ド殴:おい!)
 改めてリクエスト有難うございますw
 お気に召し上がりませんでしたら申しててください。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成20年12月9日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様