【Flies】
さぁ、飛ぼうか。
手を広げて。
前へ倒れて。
笑って。
【Flies】
最近の科学班は異様なる忙しさが包む。あるものは倒れ、あるものはドクターストップ。次々と倒れていた。
そんな中リーバー・ウェンハムが仲間の分まで書類仕事をしていた。
『この手を止めてはならない』
脳裏にそんな命令が聞こえてくる様だった。否、聞こえてるのかもしれない。それとも幻覚なのだろうか?それすらも今のリーバーには分らなかった。
ただ手を動かし続けていた。もう、周りから見てリーバーは、壊れている、としか思えないほどだった。だがリーバーは20も満たぬ若者。若さゆえに周りからは良い様に思われてなかった。
その為、止める事も無いし、裏では影口を言われていた。
「好い気になりやがって」
「俺らよりも頭が良いからって」
聞こえてるって。リーバーは心の底でそんな言葉を吐き捨てた。それでも動かす手は止めない。頭の中は今解いてる計算式の方式や系列、数字が飛び交っている。
それがまるで、使命、主命、運命かの様に―――
その時、リーバーの視界が暗くなった。目の周りは生暖かい。
「だーれだ!」
いきなりの目隠しにリーバー体はピクついた。そのピクつきに驚く事も無く、目隠しをしている手は離されなかった。答えるまで離さないだろう。
誰だか分った。この声は分る。特徴が無さ過ぎる声、なのに何処か安心する声だ。仮に声で分らなくでも、リーバーにこんな事をするのは一人しか居ない。
「マービン先輩?」
「ピーンポン!正解!」
マービンはテンション高くそう言うと、手をパッと離した。リーバーは眉間にしわを寄せ、マービンをの方へ振り向いた。マービンはいつもの様に無邪気な笑顔を浮かべていた。
自分よりも年上なのに・・・そう思いながらもちゃんと受け入れる。それはリーバーの寛大さもあるかもしれないが、大半はマービンの人付き合いの上手さ、だろう。
マービンは笑いながらリーバーの肩を揉む。
「もぉ、休めよー好い加減」
「これが終ったら休みます。後、肩揉まないでください」
リーバーの言葉に手を離し、今度は大げさに肩をすくめさせた。本当にバリエーション豊かな人だ。そう思いながらマービンに気付かれずに小さな溜息を吐いた。
教育係になったから、接してるんだろうな。
本来なら生真面目なリーバーではなく、仲が良い人と生き抜きをしたいだろう。否、そうしたいに違いない。
でもリーバーはあえて口にしなかった。リーバーの優秀さなら後少しで教育係を外してもらえる。そうすれば、自由になれるだろう。
なんで、今の状態でもかなり自由なのだが・・・他の教育係を見れば毎日1回以上は怒っている。マービンに怒られたことなど無い。せいぜいさっきみたく交わるくらいだ。
本当に何が楽しいのか―――それとも、交わらないとイケナイ、と言う事かもしれない。どっちしろマービンに教育された記憶はなかった。
マービンはリーバーの肩をバシバシッと叩く。
「無理するなよ!大丈夫!俺らが付いてるからな!」
本当は俺の事、どーでも良い、と思ってるんだろ?
「はい。有難うございます」
リーバーは笑みを浮かべながら言った。マービンは始終笑顔のままだった。
だが、長い前髪が邪魔で本当に笑ってるかは分からなかった。
徹夜4日目。
周りは次々と倒れた。忙しい、は人の精神を酷く擦り削る。それを身を持って思い知ったが、今はどうしようもない。この手を動かし続けるしか道は無いのだ。
「新人なのに凄いね」
「本当に天才は羨ましいよ」
リーバーの中には毎回AKUMAの憎悪と科学者の心が交じり合っている。その二つがリーバーに知識を与え、追い詰めている。
後少し・・・その書類はね・・・次の書類は確か言語学・・・いつまで続けるの・・・まだ眠くないし眠くなるまで・・・なんで続けるの・・・これは世界のためだよ・・・君は潰れるのに・・・世界は未来がある・・・ねぇ気付いて・・・眠くないんだ・・・そんなのさ・・・手が脳が動くんだ・・・
「悲しすぎるね〜。元気爆発ぅ〜な若者が此処まで追い詰められると」
リーバーはその言葉に後ろを振り向いた。後ろに居たのはキャラメル色の髪、マービン・ハスキンだった。マービンはリーバーの座る椅子の背もたれに腕を付け、リーバーを近くで見ていた。
やはりその口は笑みが浮ばれていた。
ゾクッ、背筋が凍る様な感覚がリーバーを襲った。
心から笑ってない、それが分ったからだ。
マービンはリーバーの手首を握り締めた。
「班長に話を付けたから」
勝手に話を決めて・・・。
「まだ、出来ます」
「教育係の俺の言葉、聞けないのか?」
今まで教育しなかったのに。
俺は仕事以外に貢献出来ないんですよ。
「俺は―――」
「まぁ、休まなくて良いや。俺について来て」
マービンはそう言うとリーバーの腕を高く上げ、立たせる。渋るリーバーを無視し、腕を引っ張りながら科学班フロアを出る。
マービンが最初に向かったのは仮眠室だった。やっぱし寝かすつもりなのか、と思ったが、違った。マービンは何故か空いてるベットから毛布や枕を幾つか取り、仮眠室を出て行く。
次に来たのは食堂が見える廊下。二階から見える食堂は深夜だからなのか誰も居なかった。
「そこで待ってろ」
「・・・はい」
マービンはリーバーを置いて小走りに去っていた。マービンは一体何がやりたいのか・・・リーバーには全然検討も付かなかった。
マービンは自由人で、何を考えてるか分からない。でもリーバーから見てそのほどんとは冗談などだ。そんなマービンの周りは笑顔も笑いも絶えない。
リーバーは手すりに腕を付け、頬杖を付いた。
―――仕事をしたい。
支部から大量の仕事をしてきたリーバーは若くして仕事中毒だった。眠る直前までずっと仕事の事を考えていた。
『この手を止めてはならない』
止めたら、何の為に生きている?
その時、リーバーの視界にマービンが入ってきた。マービンは枕を毛布で包み、何度もポフッと倒れ込み、微調整をする。リーバーは頬杖をしながらその光景を見つめる。
納得が行く所まで言ったのだろう。マービンは額の汗を腕で拭う。
「フー、出来た」
「先輩、俺置いてきぼりなんですが」
リーバーがそう言うとマービンはリーバーを見上げ、笑みを浮かべた。
「あぁ、これはクッションだ」
そう言うとマービンは枕に毛布を包めた物体を指差す。リーバーは眉間にしわを寄せる。
いや、そうじゃなくで・・・;リーバーは溜息を吐く。やはり理解が出来ない。
マービンはクッションの少し前、リーバーの方を向き、手を広げた。それを見てリーバーは異様なる汗が流れる。
まさか―――
「さぁ、俺の胸の中へ飛び込め!」
「はぁ?!」
リーバーは片手で立つ髪を乱暴に掻き混ぜる。可笑しい・・・この人絶対に思考回路が可笑しい。最初から可笑しいとは思っていたが、やはり可笑しい。
マービンはいつもの笑顔のままだ。笑ってれば、全てが成立か?
「大丈夫。この高さなら頭から落ちなければ死なない」
「いやいや、そう言う問題じゃないでしょ?!」
リーバーは手を左右に振る。確かにこの高さ的に死ぬのは難しいだろう。運良くで足を痛める。悪くて骨を折る。リーバーはそれなりに運動には自信がある。それを考えれば足を痛めるくらいだろう。
っと、そう言う問題じゃない。何故こんな話になっているか、だ!
「落ち着いて話合いましょうか」
「大丈夫。俺はお前を受け止める。俺に負担が掛からない様に、後ろにクッションがある」
「いやいや、そう言う問題じゃないです!少しは俺の話を聞いてください!」
確かにあのクッションは計算高く作られていると思われる。だが、リーバーにとって問題はそこじゃなかった。
「こんな事をして何になるんですか?怪我をするリスクを乗り越えて、何を得るのですか?」
リーバーはそう言い切る、が、マービンの口元は変わる事なく笑みを向けているだけだ。リーバーは眉間にしわを寄せた。
何で、笑ってるんですか・・・?卑怯すぎる、マービンは目を隠している。よく言われる事で、目はその人の心理を思い浮かべるという。例え口が笑っても目が笑ってなかったら、それは笑顔として成立しない。
「仲間、を信じないのか?」
マービンは一言、そう聞いた。リーバーに。
言ってる意味が分らなかった。
「ははっ、何言ってるんですか?」
仲間ですよ。
「仲間と此処を飛び降りろ、の関係性が感じられません。」
少なくとも俺はそう思っている。
「先輩こそ、俺を仲間だと思ってるのですか?」
信じてないのは何時だって、貴方方じゃないですか。
「思ってない」
マービンは変わらぬ表情のまま、首を傾げながらそう言う。その時、前髪の隙間から片目が見えた。悲しみに歪む事も何も無い。だからと言って、笑ってもいない。そんな碧の瞳がチラついた。
リーバーはゆっくりと目を見開く。
「思ってないんですか?」
「だってそうだろ?仲間って両者が仲が良い事を言うんだろ?」
仲の良い間柄。そんなの分かってますよ。リーバーは心の中で吐き捨てる。
俺ばっかし思ってるだけ何で、意味を持たぬ。それでも―――
―――信じていたのに
「お前は確かに優秀だ」
仕事も完璧で、人との対応も出来る。周りから何を言われても、耐えられる。精神的にも強い。
「でも、大切なモノが無い」
人間的、完璧、は決してない。その人にとって、完璧、はあるかもしれない。だが、違う人からの、完璧、など無い。
「人への、コミュニケーションですか?」
「いんや、自分への気遣い」
リーバーは再び目を見開く。
徹夜も長く出来、仕事も早く間違いが少ない。だが、仕事を終らす時はいつも限界を超えて倒れる時だ。
食事だって仮眠だって仕事の次だ。此処にいる人は皆そうだ。しかし、リーバーは異常過ぎた。
「自分を大事にしない奴に、誰も付いて来ない。端(はた)から見えればお前はただの、壊れた人間、だ。そんな奴を、仲間、だと思う奴は居ない」
リーバーは倒れそうなのを、手すりに捕まる事で堪えた。これは、リーバーの全てを否定する事だ。まだその言葉を、真剣な顔で、言えば傷は浅かったのに、笑みを浮かべながら、言われたのだ。
可笑しい・・・。
「だから、飛び降りよう」
「自殺の呼びかけですか?」
「まっさかー。俺が処分食らう」
「じゃぁ、何ですか?」
「だから、俺の胸に飛び込め、って」
「だから、何で飛び込まないとイケナイんですか!」
声を荒げるリーバーにマービンは溜息を吐く。
「だから、お前は自分を大切にしなすぎるんだ」
「それはさっき聞きました」
「だから周りもお前の事を、壊れてる、と思ってるからお前は仲間が出来ないんだ」
「それも聞きました」
「だから、俺の胸に飛び込め」
「そこが分らないんですって!」
何でその二つから、胸に飛び込め!、と言う熱血が生まれるのだろうか?
「お前の場合、自分を信じてないんだ。そして、自分を信じられない奴は相手も信じない。今此処で飛び降りるって事は、自分と俺の二者を信じる、と言う事だ。」
「しかし、もしも先輩が―――」
「覚悟が無かったら、お前に教育係は必要ない、と言って離れてるよ。」
マービンは笑い混じりにそう言った。
リーバーは目を細めた。
誰もリーバーを認めなかった。ずっと、嫌味を裏で言われていた。
もしかしたら、信じてなかったのかもしれない。
リーバーは手すりの上に足をかけ、片手で柱に手を付けた。もう片方の足で地面を蹴り、その反動で手すりの上に立つ。
さっきよりも目線が高く、恐怖心が襲った。鼓動が激しい。冷や汗が噴き出る。
リーバーは目をゆっくりと瞑る。両手を鳥の様にゆっくりと開く。
「信じろ」
リーバーはマービンの言葉にゆっくりと目を開く。その時に、フワッ、と浮く感覚が襲った。
リーバーは前へ倒れ込む。足が浮き、体が下へ下へと速度を上げながら―――落ちる。
リーバーはもう一度目を閉じる。
不思議な気分だ。鼓動が激しいのに、落ちている感覚がしているのに、恐怖心が消えた。
「リーバー」
ドサッ!パフッ!!
マービンはリーバーの体を受け止め、その勢いで後ろのクッションへ倒れ込んだ。
リーバーはゆっくりと目を開ければ、真っ白なクッションと白衣がある。ドクンドクンと鼓動が響くのが異様に聞こえた。リーバーは顔を上げたが、すぐにマービンの片手がリーバーの頭を押し付ける。その手で今度は掻き混ぜるように撫でた。
「マービン先輩?」
「リーバー良くやったな。良い子良い子」
「!!俺は犬ですか?!」
マービンはあはははっ、と笑った。鼓動が坦々落ち付く。リーバーは久しぶりに聞く鼓動に頬を紅く染める。怖いほどに人の鼓動は落ち着く。
ずっと周りは影でリーバーの嫌味を言っていた。仕事は良い。対人関係が狂っても、一人で完成出来れば仕事として成立なのだから。
失敗すれば、自分の責任。なのに周りは何かに責任をぶつけている。それが嫌だった。だから、人に迷惑をかけない、弱みを見せない大人になりたかったのだ。
なのに―――
「リーバー」
リーバーはキュッとマービンの袖を握った。顔をマービンの胸に埋める。肩が―――微かに震える。
マービンは笑みを浮かべ、リーバーの頭を優しく撫でた。
なれなかった。もしかしたら、なってはイケナイ人だろう。関わらぬ人間は、次第に心が冷たくなる。
この温かさを、何時か忘れる。この鼓動の波長を感じられなくなる。この優しさが消えて無くなる。
「信じてくれて、有難う。リーバー」
さぁ、飛ぼうか。
手を広げて。
前へ倒れて。
笑って。
受け止めてくれる貴方が居るから。
冷たい俺とさようなら。
そして、未来へ飛ぼう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
@言い訳@リクエスト内容⇒『忙しい科学班』
フフッ、いつもの事ですが・・・リクエスト活用してませんね(ド殴)本当にスイマセン><私の脳内がメチャクチャなので、忙しい、から変な所に行くとか・・・意味不明でスイマセン・・・補足として、あの後マービンさん腰打って立てません。それを冗談だと思ってリーバーさんマービンさんを置いて行きます。仕方なく這いずりながら自力で科学班フロアに行きます。帰れば書類仕事の山。笑い飛ばし、そのまま這いずりしながら逃走、が、捕まり3時間書類仕事、ですw(ド殴:長い!)
では改めてリクエスト有難うございますw
お気に召し上がりませんでしたら遠慮なく申しててください。
では色々とスイマセン。失礼します。平成21年1月31日
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