つややかな漆黒の髪。


 闇色に濡れる魅力的な瞳。


「ハボック少尉」


 会えただけで嬉しいと思った。と言えば嘘になる。その手に持つ箱に期待している自分が居た。

 とうとう俺にも春が来たか、と。


「これ」


 そう言うと持っていた箱をハボックに差し出した。ハボックは笑みを浮かべながらその箱を受け取る。


「有難う」

「え?」

「・・・え?」


 オウム返しをする自分は酷くかっこ悪く、今すぐに窓から飛び降りたいと思った。事実上此処は1階で、死ぬことが無い。あって、足を捻るくらいだろう。


「これは―――」



【Valentine's Day To Roi Havoc】



 あぁ、これはチャンスだと思ったのになー。

 ジャン・ハボック少尉は不機嫌に顔を歪ませながら車を運転していた。慣れた手つきでハンドルを動かす。

 ハボックはチラッとバックミラーを見る。ミラーには漆黒の短髪に漆黒の瞳を持つ男性が居た。ハボックと同様に空色の軍服を着ており、その肩にはハボックより位が高い、大佐、を示していた。

 ロイ・マスタング大佐。東方司令部でこの名を知らぬ者は居ない。

 ロイを見れば見るほど苛つきが生まれる、ハボックはバックミラーから前へと視線を戻した。

 目的地に着き、車を道の端に止める。


「着きました」

「ご苦労だったな。また時間がある。少しの間此処で待つ事にする」


 ハボック自身は、早く行け、とも思っていたが仕方ない。ハボックは車のエンジンを切り、ハンドルに寄りかかった。


「ハボック、今日は機嫌が悪いな」


 ハボックよりも低い独特な声が聞こえてきた。この声と甘いマスクが、この世のモテない男性からチョコを巻き上げるんだろうなーと頭の端で考えた。ハボックは溜息を吐き、ヤマブキ色の髪を掻く。


「全てアンタが悪いんですよ」

「?何がだ?」


 ハボックは溜息を吐き、助手席にある鞄から綺麗に包まれた箱を取り出す。ハボックはその箱に一旦目を深く瞑り、開けぬままロイへと放り投げる。

 ロイはそれを見事にキャッチをして、改めて箱を見る。バックミラーには微笑を浮かべる大佐の姿があった。


「お前からか?」

「何かの冗談スか?」


 ハボックがバックミラーに居るロイを睨みつける。ロイは肩を大きく竦め、改めてチョコを見る。


「それ、渡してくれって言われたんですよ」

「誰からだ?」

「女性ですよ」


 そしてそのチョコがハボックからだと思い傷ついて、逆キレ状態になっているのだ。ハボックは気付けばロイと恋人関係へと発展したが、ハボック自身それを脱出し、女性と付き合いたいと思っていた。

 ハボックは額をハンドルを付ける。

 脱出?付き合う?違うのだと思った。多分、逃げたい、と思っている。恋愛とか、この恋愛は間違っていると思っていた。世間的には何も言わず、間違っている、と言うだろう。

 この立場から逃げたいのかもしれない。ずっと。このプレッシャーから。


「お前らしくないな?落ち込んでいるのか?」

「うるさいですよ」

「女性からチョコを貰おうと、告白されようと、私が愛しているのはジャンだけだ」

「黙ってください。変態」

「この気持ちは本当なんだ」

「気持ちなんで関係ないんですよ。世間は気持ちなんで知らない」

「世間なんで関係ない。私はずっと、お前を愛し続ける」


 ロイはそう言うと車の扉を開け、車の外にプレゼントを持ったまま手を伸ばした。そしてもう片方の手で人差し指と親指を勢い良く擦った。

 パチンと錬成陣によって火花が散った音が聞こえた。ハボックは顔を上げ、ロイの方を向く。


 箱が、燃えていた。


「俺はそんなつもりで言った訳じゃないですよ」

「分かっている」

「じゃぁなんでそんな事をするんですか?」


 ハボックの問いにロイは笑みを浮かべ、身を乗り出し、ハボックの口にキスをする。


「今だけ、お前と一緒に居たのだ。お前は女性が良いだろうが、私はお前しか愛せないのだ」


 年齢からして、ハボックとロイの年齢差は10歳も無い。もっと言えば、5歳も無い。そんな中ロイは若くして上に居る。その心に支え役が居ても、満たすものが少ないだろう。

 惹かれ、惹かれ。


「アンタはいつもそうだ」


 どんだけ心を揺すれば良いのですか?


「お前が居るだけで私は幸せだ。だが、お前が幸せじゃないと思うなら、私は身を引こう」


 この思いは、何だろうか?酷く苦くて、悲しい。ハボックは目をゆっくりと瞑る。


「アンタが、幸せにするんでしょうが」


 ただ、今だけですよ。いつかはアンタから飛び立ち、新たな恋へと飛び出しますから。なんで、多分そんな日は来ない。

 だって俺はアンタの事が―――あぁ、今すぐに飛び降りたいが、生憎此処も車の中で、運悪く足を捻る程度だろう。

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@言い訳@
 バレインタイン関係なくない!?(ド殴)フフッ、変態じゃないロイさんは何処か寂しがりやです。そしてハボックさんは気持ちに気付いてない、そんな設定で。フフッ、今回は鋼は変態ロイさん編も書くかもしれないと言う・・・フフッ(ド殴)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年2月15日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様