忙しい。 忙しい。


 君の口癖がいつのまにかその単語になっていた。


 僕はそれを聞くなりげんなり。


 もぅ、そんな可愛らしくない単語を呟くのは止めてよ。



【Habit of saying】



 此処は黒の教団の室長室。

 次から次へと報告書やら計算式やらの紙が現れては、机の上に塔を作る。机だけじゃ足りずに、床や客用のソファーや机などにも塔が出来ていた。

 こんなに塔を作られて・・・僕、コムイ・リーはどう処理しろ、と?

 出来ないよー。かと言って逃げ出す事も出来る訳もなく・・・取り合えず手を伸ばしているのだが、消える予兆も無く・・・。

 そんな、一日くらい休んだだけじゃん?休んだだけなんだよ?勿論リーバー班長や皆にも許可を取ったよ!なのに、苛めだ〜!!

僕は重い手を必死に動かしている時だった。カチャと扉が開いた。

ノックもせず入ってくるのは10代のエクソシストかマービンか、『彼』しか居ない。

入って来たのは彼だった。

薄い金髪にも見える明るい茶色髪を上へと立たせている男性。瞳が遠くでは白目と同化する程に色素が薄い水色。その水色な瞳が僕を捕らえる。

僕は彼の名を情けない様に呟く。


「リ〜バ〜くぅ〜ん」


「事業自得なんだから黙って仕事をしろ。このまき毛」


 彼、リーバー・ウェンハムがニッコリと笑みを浮かべたまま言うとドスッとギリギリ空いていた客用机の隙間にもう一棟の書類の塔を作った。

 僕はその塔に青ざめる。


「苛めだ〜!!」

「はぁ?」

「だって僕は昨日リーバー君達に断り言ったじゃないか!」


「ことわり、ですか?」


 リーバー君は青筋を浮ばせコムイを見下ろす。そして胸に拳をわなわなと力いっぱいに握る。そんな怖い図なのに、口は笑みを浮かべてるから余計に怖い。


「人が忙しすぎて気絶同様に寝ている間に言う行為が、断りデスカ?」


 ハァ―と息を漏らしながら出たドス低い言葉は僕の胸にズッシリと入っていき、鳥肌がトッパーと立つ。


「そりゃぁ、科学班を全滅をさせる君が悪い」


 僕が正しいことを指摘するが、リーバー君の黒いオーラーが膨れ上がるだけだった。ジャパニーズことわざで言うと『油に水』って奴ぅ?


「今すぐ俺はアンタのまき毛を引っこ抜きたいんですが?」

「今のリーバー君が言うと冗談に聞こえないんだけど?」


 僕は汗ビッショリになりながら言う。勿論リーバー君に構えるのも忘れずにね☆

 リーバー君は諦めたのか、溜息一つ吐いて黒いオーラーを引っ込める。僕はそれに安堵の息を漏らす。


「アンタもこんな忙しい時に変な真似にしないてくださいよ」


 リーバー君はそう言うと紙一つ取り「これなんか締め切り後少しじゃないスか?」と呟く。そんな事いわれでも余裕で1万枚を超える書類をどう片付けろ、と?

 かと言って、科学班班長であるリーバー君にこの書類を片付けるのを手伝ってと言うのも無理だ。

 この仕事はコムイにしか出来ない。リーバー君の立場はただの『科学班をまとめるリーダー』しかないのだ。だが、黒の教団で2位を誇る人数を持つ科学班をまとめるのは一苦労だろう。

 だからと言ってそんなに地位的には高くない・・・周りもなりたくない地位だろう。

 リーバー君は一つ溜息を吐いた。そして僕の考えを見通した様にこう言った。


「計算式の答えが合っているかどうかは俺でも出来ます。アンタは分る書類に判を押してください」

「え?」


 まさかリーバー君が手伝うとは・・・確かにソッチの方が助かる。


「でも、リーバー君は良いの?」

「ん?何がスか?」

「だって、リーバー君だって忙しいでしょ?休んだ方がいいんじゃない?」


 科学班が全滅したのは昨日。もっと言えば半時間前。その中にはリーバー君も居た。さらにもっと言えば今のリーバー君のクマはくっきりとしている。

 充分に休めてないだろう。なのにリーバー君は溜息を吐いた。


「アンタは馬鹿ですか?室長が仕事を終らせないと俺らの仕事が進まないんスよ。こんな忙しい時に・・・」


 あ、まただ。


「ごめんね。こんな忙しい時に抜け出して・・・」

「本当スよ」


 リーバーの容赦ない返しに僕は「う」となる。少しは『気にしないでください』とか『大丈夫スよ』とか言ってくれないかな?


・ ・・まぁ、それがリーバー君の良い所なんだけどね。


「有難う」


 僕はニコッと笑みを浮かべる。それに一瞬リーバー君は口元が緩んだが、すぐに真顔へと変わる。


「礼を言う暇があったら、書類を片付けてくださいよ。忙しいんですから」

「ははっ」


 僕は笑いながら書類に判を押す。そしてその書類を判を押した塔の上に置く。


「でもさ、最近リーバ君『忙しい』しか言ってないよ?」

「そースか?まぁ、実際忙しいんですから仕方ないじゃないスか」


 リーバー君はそう言いながら書類を二つに分けていた。間違ってない書類と合っている書類だろう。

 さすがは、と言うべきで、かなり早いペースだ。


「忙しいんですから、無駄口を叩かないでください」

「ほら、また『忙しい』と言った」

「忙しくしたのはアンタでしょ?」


 リーバーはニコッとまた黒いオーラーをわなわな出しながら僕を見る。僕は一気に鳥肌が立つ。

 リーバー君は怖いんだから☆


「でも、忙しい、忙しいと言っていると疲労が溜まるでしょ?」

「室長、手を止めないでください。誰のせいで疲労が溜まっていると思っているんスか?」


 「ごめんごめん」と僕は謝ってから手を進める。間違いなくリーバー君を忙しくしているのは自分だろう。

 それでもコムリン作りが止められないのさ☆


「まぁ、確かに忙しい忙しいと言われる立場も嫌ですねー」

「そうだよ!絶対に嫌がっているよ!」

「室長、手」


 「ヴ」と唸りながら手を再び動かす。リーバー君は細かい・・・ところか、リーバー君僕の方見てなかったよね?

 さっき、書類見てたようだけど?リーバー君・・・恐るべし。


「・・・そんなに俺『忙しい』って言ってますか?」

「うん」

「・・・それ、さっきマービンにも言われました・・・『班長、最近忙しいが多い』って」


 あぁ、確かにマービンなら言いそうだな・・・多分科学班の中でリーバー君に普通に物を言えるのはマービンかジョニー辺りだろう。


「そうなんだ」

「これもかれも全てアンタのせいですからね?」


 リーバー君は眉間に皺を寄せながら僕の顔に近づける。まぁ、そうかもしれないけど;


「室長、責任取ってくださいよ」

「責任って;何をすれば良いの?」

「それは―――」


 リーバー君は言葉を止め、僕の顔に近づける。そして僕の口と重なる。

 触れるだけのキスで終わり、リーバー君は離す。僕は目を見開いたままリーバー君を見上げれば、リーバー君の顔や耳が紅かった。



「少しは、『忙しい』仕事以外の時間をくださいよ」



 リーバー君は僕と目線を合わせずにぶっきらぼうにそう言う。だが言葉がかなり恥かしいのか、みるみると顔が紅潮する。

 僕はそんな愛しいリーバー君にクスと笑い、立ち上がった。そしてリーバー君の紅い両頬に触り、僕の方を向かせる。


「そうだね」


 最近『忙しく』で仕事以外での時間で合っていなかった。僕はリーバー君の滅多に出さないおねだりに笑みを浮かべた。

 そして僕は顔を近づけようとした時、僕の目の前に掌が表れた。


「待ってください。このクソ『忙しい』時にもっと『忙しく』する気ですか?」

「えー!だってリーバー君が求めたんじゃないか〜」

「っ!だからって仕事を優先してください!仕事が終るまでのお預けです!」

「え〜」


 まさかそんな展開だとは思わなかった僕は、一気に崖から落ちたようだった。でもリーバー君は僕の事を上目で見つめながら言う。


「でも、仕事を終れば・・・いいですから」


 その可愛いリーバー君に僕はズッパーとなりトッパーとなった。


“これは早く仕事を終らすしかない!!”


「待っていてね!リーバー君!今、僕、頑張るからね!」

「早くしてくださいね。早くしないと俺の気変わりますからね」

「御意!」


 そして僕は書類を片付ける。

 今から考えれば全てリーバー君の計算内だった。仕事を終らす為に子褒美を用意する。

 それでも、それでもね、僕は可愛い可愛いリーバー君が見れれば幸せなんだ。

 仕事中毒な恋人だからこそ、仕事よりも僕を選んでくれで嬉しいんだ。


 だから、これからも―――。


「リーバー君出来た!」

「・・・アンタ、こう言う時って早いスね」

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@言い訳@
 まとめ方が分らず(ド殴)そして久々のコムリバです・・・リーバー班長を誘い受け風味に。きっとリーバー班長って誘い受けですよね。ぜひ誘い受けのリーバー班長をw(ド殴:人任せか!)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年5月26日
背景画像提供者:Abundant Shine 裕様