紺碧な空を見上げれば、お前の事を思い出す。


 それに自嘲した。


 青い空の端っこで、漆黒の雲がある。


 その漆黒の雲が次第に――――紺碧の空を覆い隠した。


 まるで、今の私の様に。



【Cloudy weather】



 雨がボツボツッと降り始めた。ロイはその雨の中、空き地の前に突っ立っていた。雨が容赦なくロイの体を濡らす。

 あぁこれで錬金術が使えない。中尉に『無能』で言われるだろうなーっとロイは苦笑を浮かべ、空を見上げた。

 さっきまでの紺碧の空はない。黒い雲に雨の筋が見えるだけ。

 涙の様に雨がロイの頬で弧を描き、流れた。

 空が黒い布生地へと変わった。

 黒い布生地に銀色の細い金属棒が支えている。その時フッとロイは(傘か)と気付いた。

 そして後ろへ振り向いた。

 後ろには人が立って居た。ロイと同じ青い軍服を着てる。ロイよりも大きく、口元が見えたがその先上が黒い傘で見えなかった。

 笑ってる口元や青い軍服は天から零れ落ちる雨で濡れていった。


「お前が塗れてるじゃないか」


 ロイがそう言うと男性は口元の笑みはそのまま首をゆっくりと横に振った。そしてより前へ傘を差し出した。


「自分は、大丈夫であります」


 少し高めの声にロイは傘を持つ相手の手に手を重ね、握った。

 雨に濡れていたのに、その手は温かい。ロイは傘を後ろへと少し傾けた。そうすれば、相手の口元より上が見えていく。


 筋の通った鼻。


 青い瞳。


 垂れ目。


 端が太い眉。


 ヤマブキ色の髪。



「ハボック」



 ロイは静かに相手の名前を言う。

 予想通りだった。

 ハボックは笑みを浮かべていた口元を『へ』の字にした。そして眉間にしわを寄せる。


「あ〜あ、バレちまいましたか。せっかく声も変えて頑張ったのになー」


 ハボックはそう言うとオベラの歌手の様に高く「あー」と声を出した。

ロイは、今度は私の番だ、と言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。


「分る。体つきとか手とかを見れば分るもんだ。なんせ嫌でも毎日見てるからな」

「そうスねー。俺も嫌いなのに大佐の後姿で一発で分かりましたよ」

「お前は気を使え」


 ハボックはアハハッと笑う声を止め、体を横に曲げた。そしてさっきまでロイが見ていた空き地を覗き見た。

 濡れた地に細長い草。それらがあるだけの寂しい空間だ。


「此処、何処スか?」

「見ての通り空き地だ」

「何の変哲もない?」


 「そうだ」と呟きながらロイはハボックの隣に行き、ハボックにも3/1の傘を当てる。

 ハボックは口を尖らせながら「半端に傘を当てられると冷たいッス」と言い傘をロイの方へと戻した。

ハボックは膨れ面のまま「それよりも、何で此処に来たんですか?」とぶっきら棒に訊いた。

ロイは前を向いた。

雨の中に浮ぶ空き地。ロイは目を細める。


「猫」

「・・・はぁ?」

「捨て猫が居た場所だったんだ」


 ロイはそれだけ言うと空き地内に入っていく。ハボックは後ろからロイに付いていく。

 ロイは空き地の端にある段ボール箱の前で止まり、しゃがみ込んだ。そして傘を段ボール箱に差す。

 ハボックは膝を少し曲げ、段ボールの中を覗き見る。ハボックは中に居る、否、あるモノに目を見開いた。

 薄汚れた白い毛皮がドス黒い赤で染まっている物体。その頭部には三角の物体が二つ、ぐったりしていた。


「これって・・・」

「やられたらしいな」


 物体は、猫。最初から猫だと言っていた訳だが・・・ハボックはそれが本当に『猫』かどうか分からない程に残酷な映像だ。詳しく言えばR15になりそうな程だ。

 ロイは傘の手元を地に置き、段ボールの中の猫をより濡らさない様にした。


「朝から死んでいた。きっと朝は晴れていたからカラスとかが食べたのだろう」

「なんか、残酷ですね・・・」

「残酷?」


 ロイは後ろに居るハボックを睨み付けた。それにハボックはゾクッと隋から震えるのを感じた。


「これは自然な事だ」


 誰かが死ねば微生物がそれを食べる。その食べた生き物から出た糞は植物の肥料になる。その動かぬ植物を小動物が食べる。小動物を大型動物が食べる。大型動物が死ねば微生物が食べて・・・・。

 これが自然の法則なのだ。それを壊しているのは、嫌悪を感じているのは、人間だけじゃないか?

 ハボックはロイのそんな考えを分かっているのか分かってないのか黙ったまま徐(おもむろ)に立ち上がってタバコを取り出した。

 そのタバコに火を付けた。かろうじて火が着いたそれをハボックは猫の近くに置いた。


「タバコでごめんな」


 ハボックはそう言うとロイに背を向け、歩き出した。ロイは歩むハボックの背を見つめた。

 いつも上に跳ねている前髪も、今やベットリと額についている。濡れている軍服は頼りが無い。

 それはロイも一緒だろう。それでも、この場合『一人』助かれば良い。共倒れが一番最悪なバターンだとロイは知っている。

 だからロイは口を開き「ハボック」と呼び止めた。ハボックはロイの予想通り止まる。だが、ハボックはロイの方を振り向かない。



「猫だろうが人間だろうが、同じ命です」



 ハボックはそう言うと、顔だけロイの方を向く。その顔はロイの予想と違い、笑顔があった。


「待っていてください。軍からスコップを持ってきます」


 ハボックはそう言うと改めで前を向き、歩き出した。ロイは自然と笑みを浮かべた。





 濡れた土の中に埋めた。ふっくらと不自然な膨らみがある。ロイはその膨らみからようやく雨が止んだ空を見上げた。
曇天の間から光の筋が濡れた地面を白く照らした。


「逝けましたよね?」

「だと良いな」

「間違いないです。なんだって俺が掘った穴ですからね」


 ハボックは己の程よい筋肉が乗った二の腕をバシバシと叩いた。ロイは苦笑をして、曇天からハボックの方へ視線を移した。


「有難うな」

「いえ」


 ハボックは冗談ばっかしだが、こんな時は真剣に対応してくれる。それがハボック隊の部下に従われる理由だろう。ロイはそれを知っている。

 ロイはハボックの腕に触れた。それにハボックは笑みを浮かべロイの掌を握った。

 ロイはハボックにつられる様に笑みを浮かべ、ハボックの手を強く握り返す。


「もう、行くぞ」

「うっす!」


 ロイとハボックは人気(ひとけ)がある場所まで手を繋いだ。


「お前は何で来たんだ?」

「んー。大佐が久々に仕事を終らしたんで、不思議だなーと思って付いていったんです」

「それは私が毎日『仕事をしてない』と意味ではないか」

「そうじゃないんですか?」


「違う!」ロイは子供の様に膨れ面になり、そっぽを向く。それにハボックは「ははっ」と笑った。そして空を見上げた。

 灰色の空。



「何処にも行かないてくださいよ。大佐は」



 不意に言ったハボックの言葉にロイは『あぁ』とか『勿論だ』とは言わずに、ただ黙って握っている手を強めた。

 灰色の雲が次第にいつもの紺碧の空へと変わる。

 紺碧の空はいつもの様に暖かく、照らしてくれる。今も昔も未来も―――

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
@言い訳@
 意味が分らない話でしかも見方によってはハボロイに見えてしまう小説です!(ド殴)しかもさりげなくクロイですからね・・・orzハボさんはハキハキでも『死』には敏感だったら良いなーとか。どんな相手でも『生きている』のは変わりないとか・・・ロイさんはそれをしない様にしてるけど、つい、だけどそれをさり気無く慰める、と。やっぱし最後が苦手ですorz
 色々とスイマセン。失礼します。平成21年6月12日



背景画像提供者:MECHANICAL
 asagi様