「室長」


 もう今日は


「仕事しなくで良いですから」



 言われた言葉は酷くコムイの心をついた。



【Work】



 黒の教団の長であったコムイ・リーは暇そうに計算をするリーバーの周りをチラチラと歩いていた。

 それをリーバーはうっとしそうに手を震わせていた。そして我慢出来ずに「何スか?」と訊いた。それにコムイは「んー?」とマヌケな返答をしてから


「暇」


 と一言言った。それにリーバーは「はぁ〜」と長い溜息を吐きながら俯いた。


「それならいつもクソ忙しい時に居なくならないでください」

「だって今日普通に忙しいのに『仕事しなくでも良い』と言うから気が抜けてるんだよ」


 「調子抜けですか?」「そう。調子抜け」と言葉を返した。それにリーバーは「ふーん」と気のない返事をしながらも、その手は動いたままだった。

 それにコムイはカツンッと来て、リーバーを椅子ごと後ろから抱きしめた。リーバーは気にもせずにカリカリッと計算を書き続けた。


「もーリーバー君、寂しいのにー」

「じゃぁリナリーの所に行けば良いじゃないスか」

「・・・もしかしてリナリーに嫉妬して怒ってるの?」


 リーバーはようやくペンを動かす手を止め、コムイの方へ振り向いた。「はぁ?」と不快に眉を顰めた。

 コムイは溜息を吐いて、リーバーのツンツン立つ髪を撫でた。


「大丈夫。リナリーも大切だけど、リーバー君も大切だから」

「・・・あの、何か誤解してませんか?その前に忘れてるんですか?」


 コムイはリーバーの言葉に「え?」と目を見開いた。「誤解してませんか?」までならまた、リーバーの強がりだと思う(←コムイはそう思い込んでいる)。だが『忘れている』と言う事は『何かがある』と言う事だ。

 だがコムイは首を傾げるだけだった。仕事の鬼と言われたリーバーがコムイに『仕事をしなくで良い』と言った。


 それは忘れた『何か』があるからだろう。だがコムイは分らなかった。それの『何か』が。それはモノか。約束か。人か。

 リーバーは溜息を吐いて「アンタって人は・・・」と呟いてから言葉を繋ぐ。



「今日はアンタの誕生日でしょうが」


「え?」



 「誕生日?」とオム返しの様にコムイは呟いた。それにリーバーは「そうですよ」とぶっきら棒に返した。

 リーバーは未だに首を傾げるコムイに溜息を吐いた。知らないとは分かっていても、溜息は吐いてしまう。


「その様子だとやっぱし忘れてましたね」

「うん。正直忘れていたよ」


 「そうかー。僕の誕生日かー」と人事の様に呟いた。リーバーはそんなコムイに持っていたインク付きペン先を向けた。

 コムイは息を飲み「危ないよー」とうろたえる。


「今日だけですから。今日だけ仕事を休ませますから」


 コムイはリーバーの言葉につい苦笑してしまった。確かに仕事の鬼のリーバーにとってかなり『腹をくぐった』プレゼントだ。


「有難う」

「後、仕事の邪魔をしないでくださいよ?」

「えー僕ひまー」


 「いつも勝手に抜け出すくせに」とリーバーはドス低い声で突っ込む。それにコムイはつい背筋を振るわせた。

 そのドス黒い声と一緒に出てるオーラーは誰もが恐怖で怯むようだった。


「リナリー達の所に行けば良いじゃないですか。俺が許可したんスから」


 「ソウデスヨネー」とコムイはつい片言になってしまった。リーバーはまた溜息を吐き、机に向き直った。

 それでも寂しがり屋のコムイは人差し指の先を加え、リーバーを見つめた。


「仕事」


 リーバーは言葉を漏らす。それについコムイは背をピンと伸ばした。もしかしたら気が変わって『仕事をしろっ!!』とか言うのだろうか?

 それはそれで嫌なコムイは周りをオロオロと見回した。『アンタが悪いんだよ』『あのまま大人しく従ってりゃ良いものの・・・』と言う声が聞こえてきそうだった。

 だがリーバーの続けた言葉は意外のものだった。



「俺の仕事夕方には終ります」



 その言葉にコムイは「へ?」とマヌケな声を出してしまった。リーバーは顔を紅潮させ声を「だから今日は仕事早く終らすっつてるんスよ!!」と荒げた。

 それにコムイはかろうじて口端を上げた。


「それって、今日一緒に居られるって事?」


 コムイが訊けばリーバーはコクリッと頷いた。そんな可愛いリーバーを見てコムイは「ははっ」と笑った。

 リーバーはムッとしながらコムイを見た。コムイは必死に笑いを堪えながら笑い涙を拭った。


「有難う」


 コムイは微笑み「こんな幸せな誕生日、初めてだよ」と言った。リーバーは苦笑を浮かべた。


「アンタって寂しい人間なんですね」

「え、ちょ、酷くない!?」


 コムイは肩をカックリと下げる。


「おめでとうございます。そして有難う」


 リーバーはそう言うとまた机に向きなおした。

 コムイは優しく微笑んだ。


「有難う」


 そしてコムイは歩き出した。


 午後になれば、教団全員でコムイの誕生日パーティーが行われる。その後はリーバーと、一緒にいられる。

 そんな6月13日。

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@言い訳@
 コムイさん誕生日おめでとうございます!そしてギリギリ(ド殴)
 きっと仕事の鬼のリーバーさんなりのプレゼントの筈!リナリーとジェリーさんからはケーキ。アレン様からトランプ(後賭けをするんでしょうねー)。神田さんはプレゼント無し。ラビさんはリーバーの隠し撮り(殴
 ブックマンはあらゆる所の教団内を見てるんです。(殴:多分意味が違う!)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年6月13日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様