白い天井で精神が狂いそうだ。

 喉が焼ける様に痛い。

 重い瞼を開ければ、騒ぎ声が上がった。

 白い天井が野猿で埋まった。

 その長い髪が顔に当たって顔をずらせば体中に痛みが走った。

 それに俺は眉を顰めた。それと同時に野猿が歓喜の声を上げる。


「兄貴が起きたぜッ!!」


 その時現実に引き戻された様な、血の気が引いた様な感覚がした。

『俺は生きている』それが真実で終った。



【Apolimeo2】



 γは起きてから機嫌が悪かった。ボンゴレの雲の守護者に負けて、しかも『ぶざま』に。周りはなんとか機嫌を戻そうとしたがあの戦いの敗北はγのプライドを傷つけた。

 そんなギスギスした部屋の中、ただγの紫煙だけが漂っていた。誰も居なくなった病室は静かで、白い壁を見てるだけで気が狂いそうだった。

 だから少しでも気を紛らす様に窓に映る青い空を見ていた。雲が目でも確認出来るほどゆっくり動いている。

 そんな平穏な空にγは紫煙を吹き付けた。

 その時カチャッと扉が開いた。γは睨みつける様に扉を見たが、すぐに睨みつける目は見開かれた。


「・・・生きていたんだ」


 そんな物騒な事を言う見かけよりも低い声の男性。カナリヤ色の髪の左はクルリンとなっていてコミカルだが、目の色は氷の様に色素が薄く鋭い。

 口には飴の棒を加えている。それをモゴッとさせていた。γは苦笑いを浮かべた。


「悪かったな。生きてて」

「?悪いとは言っていない」


「言葉の鞘だ」と言えば「そうかな?」と返された。男性はγが居るペットの端に座った。そして上半身を捻らせ、γを覗き見ていた。

「何だよ・・・」とγが聞けば相手はすぐに答えを出さなかった。いつもならγは気長に待つのだが、今日は虫の居所が悪い。

 γは男性の肩を掴むと、引き寄せた。そして口の中に下を忍び込ませた。男性はそれを素顔に受け入れた。もしかたら、抵抗の仕方が知らないだけかもしれない。

 γは男性が加えていた飴を少し砕いてから舌で飴を口内から追い出した。飴がポトッと白いシーツの上に落ちる。だがγはそれを気にしない。

 そのまま砕いた飴を男性の舌に擦り合わせる様に舌を押し付けた。いちご味が嫌に感じ苛吐いたが、それでも良いと思った。

 飴が完全に溶けきってもγは舌を絡まし続けた。どれくらい時間が経ったのだろうか?実際はそんなに時間が経っていないのかもしれない。

 γはようやく男性の口内から舌を出した。男性は息を切らしながら、紅潮した鼻から下を腕で隠した。

 γはそれを片手で無理矢理離す。男性はγを見上げた。睨む目じゃない。じゃぁ何だろうか?分らなかった。


「スパナ」


 γは男性の名を呼び、今度は男性、スパナを抱きしめた。スパナは何も言わずにその抱きしめを受けた。

 スパナはγの背に腕を回さず、小さくγの病服の袖を握った。


「スパナ」


 γはもう一度スパナの名を呼ぶ。スパナは目をゆっくりと瞑る。


「γ、目を覚ましたと聞いて来た。良かった」

「・・・それは、本当か?」


 スパナの事だから『モスカ』の方を優先しそうだったから。きっとその言葉も嘘だろう。『良かった』?


 こんな無様な男を。    良かった?


「スパナ、本当の事を言え」


 ギシッと抱きしめる力が強すぎてスパナの骨が軋む音が聞こえた。温かく包む抱きしめが、脅迫の手段になった。


「・・・本当の、事?」

「そうだ。俺の事よりも『モスカ』の方が良かったんだろ?」


 別に『モスカ』がどうのとか、そうじゃなくでも思うだろう。『男同士』なんで・・・世間一般的に目が痛い。そうじゃなくでも『殺し屋』の恋人だ。

 辛いのは、スパナの方だ。スパナは組織に関わっているとは言え、あくまで『メカニック』だ。

 もしも関係がばれれば、スパナは今でも孤立しているのに、もっと孤立する。結局、俺は何も守れない。世間の目が俺を孤立する。だから誰も守れない。

 ようやくその真実に気付いた。『守る』なんで『粋がっている』だけなんだ。



「アンタが倒れてからモスカの整備・・・出来なかった」


「・・・は?」


 γは目をゆっくりと見開きながらマヌケな返事をしてしまった。抱きしめる手を緩めるとスパナはゆるゆるとγから少し体を離す。γの顔を覗き込む様に見る。


「アンタが倒れてからモスカに触れたし、整備しようとした。だけど、駄目だった」

「何で?」


 γが訊けばスパナは俯き黙り込んでしまった。それにγは顔を歪ませた。やっぱし嘘なのか?と。

 「言えない事なのか?」とγが訊けばスパナは首を左右に振った。γの眉間の皺がより深く刻まれた。「じゃぁ何で話せない?」またスパナが黙り込んだ。

 それにγはイライラし、ペットのすぐ近くある窓を拳で叩き割った。ガチャンと耳を塞ぎたくなる様な音にγ自身不快だった。戦い慣れとかしてないスパナは体をピクつかせた。

 やっぱし、交わらないのだろうか?俺達。




「―――から」


「あ?」


「あの部屋が広く感じたから」



 γは何度目にあるか、目を見開いた。

 あの蒸し熱く、モスカやその部品しかない部屋。モスカで狭く感じるが、モスカが無くなれば、広すぎてどうしようもない。

 スパナの細い体が小さく震えていた。


 また、だ。


 何で俺はいつもいつもスパナを傷つける事をするのだろうか?スパナは最初から『心配した』と言っているのだ。なのに、何故、俺は信じない?何で心から信じられない?

 γはスパナを抱きしめた。今度は優しく。割れ物を扱う様に優しく。そしてカナリヤ色の髪を後ろから撫でた。



「ごめんな。ごめん・・・」


 白い世界、黒い世界、赤い世界、姫の居なくなった世界。全ての世界に今の俺の居場所が無い気がした。野猿や太猿がいる場所も。

 だからジリョネロファミリーを復興させようとした。

 それよりも前に、スパナ、お前に出会った。

 それから俺の居場所がスパナになった。蒸し暑い部屋。金属の擦れたニオイやオイルのニオイ。そしてモスカを整備したり創ったりするスパナの姿。

 そんな世界が好きだった。


「スパナ」


 嫌われたくなかった。子供の様なわがまま。そんなわがままでスパナを苦しませた。



「スパナ、ごめんな―――」



 世間がなんと言おうと良い。だけど俺は、世間が怖かった。生まれてからジリョネロファミリーじゃなかった。昔は別の殺し屋に居た。



 飴。


『これをやる。だから、私の部下になれ』


 ボスの一言。それで俺の居場所を見つけた。あの日も太陽が笑っていた。白い壁に白い床が暑くて、肌をジリジリッと焼いていた。



 幸せを味わって、それで、失って、だから、失いたくなかった。



「γ、大丈夫」


 スパナはγの背に手を回し、子供をあやす様に背を軽く叩いた。


「もう、大丈夫だ」


 スパナは目を瞑り、口端をクイと上げた。


 液体が、スパナの肩を濡らした。




 紺碧の空に白い雲が浮いている。
 その雲は動いていた。
 ゆくっりと。
 何処へ行って、何処で消えるのだろうか?
 白い壁が俺の肌を焼く。
 陽炎(かげろう)の中、カナリヤ色の髪の男性が浮ぶ。
 幻か?そう思い手を伸ばした。


 温かい、温もり



「おかえり。γ」


「ただいま。スパナ」



 一般的に恋人としていない関係。それでも、お互い失えない。そんな関係。

 熱が冷める事はない。

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@言い訳@
 続きです。そして最後です。今までの最終点みたくorz兎に角、スパナさんとγさんの関係は『恋人以上。血族以下』ですvVもう、結婚すりゃ良いですよ!(殴)
 因みに、題名・・・どう言う意味か分りません(ド殴)何処の検索で入れても『無い』と書かれるのですが・・・何故ですか?!(ド殴:知るか!)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年6月24日



背景画像提供者:短生種の戯言 マスタァ様