【汚れた手と温かな手】



 フッとした瞬間に自分は何処へと行ったのか分らなくなる。

 自分が何処に行ったか分らないなら、相手は検討も付かない。

 でも、貴方はずっと俺の側に居る。

 笑いかけてくれる。

 そして改めて自分の居場所を知るんだ。

 貴方の手を離したくない。

 そう思いいつも貴方の袖を握った。

 そうすれば「可愛いな」と言いながら俺の頭を撫でてくれる。

 貴方の手はとても温かいんだ。

 とても温かくて、優しい。

 俺の手は酷く汚れていた。

 銃を握り締め、そのまま引き金を引く。そんな手だ。

 だけど貴方はそんな俺の手をも「綺麗だ」と言ってくれだ。

 貴方は優しすぎる。優しすぎます。

 その優しさに溺れすぎて、自分が自分じゃないと思ってしまう。

 その時フッと思った。

 俺はもしかしてお伽の世界へと言ってしまったのではないか?と。

 あるいは貴方の居場所こそが本当の――――


「ハボック」


 貴方はいつもの様に俺を後ろから抱きしめた。

 馬鹿だな。        前から抱きしめてよ。

 俺は違うのに。      顔が見えないッス。

 貴方を狂わしている。   もっと抱きしめてよ。

 俺は幸せに溺れる程に。  そうすれば俺は幸せ。

 俺は幸せになればなる程に。貴方はは不幸せになる。


 いつも外ではヘラヘラしてますがね、俺の心は荒れているんですよ。酷く、ね。

 貴方の抱きしめてる手に手を重ねようとした。でもやめた。

 怖かった。俺の手は引き金を下ろす事にしか役に立っていない。

 銃を撃って、撃って、紅い液体が散るのを遠くから見ていた。遠くから見れば、たまにその紅い液体が綺麗に―――


「ハボック大丈夫だ」


 そう言いながら貴方は俺の宙を彷徨っていた手を握り締めた。


 その手は温かくて、優しくて・・・


「ハボック」


 呼ばれる度に俺の体の核の熱が上がる。

 なんとも言わぬ痺れが訪れ、脳が麻痺する。

 きっとこれが一般的に言う『幸せ』だろうな。


「中佐・・・」

「名前で言ってくれよなー」


 中佐は冗談気に言った。それにクスッと笑い


「マース」


 と呼んだ。そうすれば「おう!」と子供の様に明るく返事を返してくれた。

 あぁ何でこんなにも優しいのだろうか?


「俺、今日、人をやったんッスけど」

「知っている。現場に居た」

「手、汚れているんッスだけど・・・」

「洗っただろ?」

「心の問題?」

「だったら俺がその心を洗ってやろうか?」


 そう言うと中佐は俺の首筋に甘噛みをしてきた。ヤバイ・・・痕残るだろうな。まぁ隠せる所だから良いけど・・・。

 中佐はフッと甘噛みをやめた。


「誰かに汚いと言われ様が、俺はお前の事を綺麗だと思う」


 中佐はそう言うと抱きしめる手を強めた。


「『汚れている』って思えるだけで『綺麗』なんだよ。『汚れている』って事に気付かなくなったら終わりだ」


 「そんでもって」と中佐は続けた。


「俺は『汚れ』過ぎた」

「違う!中佐は優しいです!」

「ははっ、ハボックは優しいなー」


 「違う・・・」俺はついそう呟いてしまった。それに中佐は「何が?」と言いながら黒いシャツの下に手を忍び込ませ、俺の体に触る。

 「世の中は不公平だよな」と中佐は俺の耳元で呟いた。「そんな不公平で嘆いているソイツ等だってそれに加わっていたんだけどなー」と独り言の様に言う。

 その手は違う生き物様に俺の体を触る。むず痒さが全身に走る。


「なぁハボック。俺は優しいんじゃない。不公平者の一人なんだ」

「っ!そんな事は!」

「不公平者だからこそ、俺はお前の事が『一番』好きだって言える」


 俺はゆっくりと目を見開く。『一番』?

 そう思った時中佐の手が俺の腕を掴み、そしてそのまま壁に叩きつける。中佐は俺に顔を近づける。


「綺麗なモノは何だ?」


「皆平等?」


「嘘を付かない世界?」


「人が人を殺さない世界?」


「そんなの戯言だと思わないか?ハボック」


 俺はその時初めて中佐の目を見た。中佐のいつもの綺麗な瞳は霞んでいた。口元は無理矢理笑っているが、鼻から上が歪んでいた。

 中佐は俺へ手を伸ばそうとした。


「なぁハボック―――」


「嫌だッ!」


 俺は中佐の伸ばされる手を払ってしまった。その行為に俺自身驚いた。

 手放されたくない。そう思っていたのに、俺から手放した?俺は怖くて中佐の顔が見れなかった。


「そっか」


 その声が聞こえて俺はあわてて前を向いた。中佐は既に俺に背を向けていた。俺は離れていく中佐の背が怖くて、一歩前を踏み出した。

 汚れた手で中佐の手を握った。   力強く。   笑える程―――力強く。


「中佐、行かないでくれ。俺は、アンタに見捨てられたくないんだッ!」


 俺は下を向いたまま叫んだ。それでも分かっていた。もう終わりだと。

 そう思った時、俺の体が温かく包まれた。


「ごめんなハボック。少しムキになりすぎた」


 その戻って来た温かさに俺は目を細めた。


「それでもコレだけ言わせてくれ。―――お前は汚れていない」


 そう言うとギュッとハボックを抱きしめる手を強めた。それが愛しくて、俺は中佐の背に手を回した。

 結局、俺は汚れている。

 それでも、俺は中佐の事が一番好きだ。不公平だって知っている。でも、あの心優しい中佐までも、不公平を選んだ。


 中佐の為なら汚れる。

汚れる度に中佐は俺の事を、その温かい手で抱きしめますか?頭を撫でてくれますか?


「ハボック」


 優しい声、手、全て好きだ。でもそんな事は今は言えない。それでも、何時かそう言える日があるのかな?と乙女に俺はそう思った。

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@言い訳@
 気持ち悪い程に乙女メンで病んでます。最近病んでる?そー言えばあるお題の時凄い病んでいた時があったような・・・幸せな話がそんなに無い時期・・・幸せな話を書かなくでは!
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年7月12日




背景画像提供者:MECHANICAL
 asagi様