優秀。優秀。彼は優秀だった。今も優秀だけど・・・。


 彼の優秀さに嫌になっていた。


 でもフッとした瞬間に『駄目だ』と思った。


 だって彼は――――



【Excellence】



 科学班はいつもの様に馬鹿に忙しい。いつも忙しい彼はいつも以上に手を忙しく動か続けている。

 フッと気付けば軽く半日経っている時がある。

マービン・ハスキンは常に彼に注目してなければイケナイ。それは彼の教育係だからだ。

教育係とは簡単の事で、新人を教育する係りだ。それに選ばれたマービンであったが、他の教育係と違いストレスで胃がギリギリとか無い。毎日怒られる声がするが、マービンは彼に怒った事が無かった。

それ程彼は優秀なのだ。優秀すぎるのだ。今も手を休めない。


だけど『やり過ぎ』感がある。


 彼は若くして此処に入った。その為周りから良い扱いをされて来なかったのだろう。彼は酷く冷たく、周りと孤立していた。それでも仕事の時は不器用に対応する。

 なんとかしてあの『やり過ぎ』をなくさなければ・・・。いつか彼はぶっ倒れるだろう。否、下手をすれば『死ぬ』かもしれない。

 良く同じ教育係から『良いなーお前の所は』と言われるが、実際は全然良くない。

 確かに新入りの失敗を怒らなくて済むかもしれない。でもこっちは怒る以前に『アンタには関係ない』っと言った感じだ。怒った所で彼は対応しない。

 それところか余計に仕事をするだろう。


「でもアイツ、全然仮眠してないんだよな・・・」


 食事はマービン自身の軽食の分をさりげなく入れて多く渡している。きっと彼はそれすら気付いていないだろう。

 サンドイッチだって栄養パランス偏っているんだぞ。一応野菜入っているけどな。でも残念ながらタンパク質が多いんだよな。

 まぁ彼自身たまに食堂に行ってるからそこは良い。問題は睡眠だ。

 本当にぶっ倒れるまで仕事をしている為、睡眠をそんなに取っていないだろう。しかも本人は気付いていないだろうけど、そのぶっ倒れる時間が少しずつ縮まっている。

 眠っても机に突っ伏して寝ている状態だ。基本そんな奴は仮眠室のベットに持って行かれず放置だ。

 疲れが取れる訳が無く、蓄積しているだろう。


「・・・今日で徹屋4日目・・・」


 新人にじゃぁ凄い頑張っている方だ。マービン自身4日徹屋はキツイ。しかも彼の場合ほどんと寝てない。

 自傷行為かぁ?そう思うが、マービンにしては『めんどい奴を受け入れちまったな』と思うだけだった。

 このままだと後一ヶ月もしない内にこの関係が早くも切れる。それから倒れればマービンの責任じゃない。

 だけど、やっぱ、駄目だよな?

 そう思いマービンは彼、リーバーに近づいた。そしてマービンはリーバーの書いている書類にズイッと近づき、覗き見る。

 ピッシリと書かれた数式。


「偉いねー」

「ども」


 短い言葉。リーバーは手を止め、マービンを睨み、見ていた。その目は酷く隈が出来ていた。

 マービンの目線とぶつかる。マービンは目を細めた。そして片手をリーバーの頭に乗せ、撫でた。


「本当に可愛げがない奴だなー」

「俺は男ですから」

「そうだけどさ」



「仕事の邪魔しないでください」



 リーバーの半径1mの人の話し声が一瞬消えた。そしてすぐに会話はリーバーへの影口へと変わる。


『何様のつもりなんだよ?』『ありえないな』『マービンも不運な奴を押し付けられたモノだな』


 ドンッ!!   机が強く叩かれた。


 周りが一気に静まった。そして目線はマービンに一気に注がれていた。

 だが、この音で一番ピックリしているのは、机を叩いた張本人であるマービン自身であった。

 記憶の限り怒った記憶はそんなに無い。マービン自身表に怒りを出す事は無い。笑いやら冗談交じりの悲しみはあっても、本気の怒りや哀しみは無い。

 実際に今のが『怒り』かすら分らなかった。でも、何故か喉に何か引っ掛かるモノがあった。

 吐き気とは違う、何か知らない。だけど確かにそれが原因で頭が熱くなっていた。


「マービン先輩?」


 リーバーの心配する声が聞こえた。気付けば半径1Mの人だけじゃない。科学班の何割かの人がマービンに注目していた。

 それに一気に頭に上がった血がより熱くなった気がした。


「―――――リーバーッ!」


 そう言ってリーバーの手首を掴んだ。





 馬鹿だ・・・。

 此処はマービンの部屋。ゴチャゴチャと衣類やら本やら紙やらが散らかっているお世辞にも『まぁ綺麗vV』と言えない部屋。

 その部屋には初めての来客が居る。リーバー・ウェンハムだ。

 手首を掴み、そのまま此処まで連れて来てしまったのである。部屋に連れて行くって・・・しかも連れて行く時つい荒い口調になってしまった。

 きっと途中参加の人は誤解してしまっただろう。リーバーは何も悪くない。マービンは自分でも分らないのに怒りが湧き上がって来たのだ。

 それはリーバーに対してじゃない。それだけはハッキリしている。

 だがこの喉のつっかかるモノが何なのかどうしても分らなかった。

 リーバーはマービンの部屋を見渡していた。


「汚ねぇだろ?」

「いえ、俺の部屋よりマシです」

「そう言われると逆に引くんですけど。お前、来てからそんなに時間経ってないだろ?」

「支部に居た時の本がいっぱいあるんです。以外に俺は支部機関が長かったので」


 これ以上に支部期間が長いって・・・。

 何時の時から支部に居たんだ?リーバーの年齢は確か黒の教団で最少年で入ったとかだよな?

 また十台だった筈だ。どんだけ頭が良いのか・・・この様子だときっと前の支部で仲が良い人が居なくて『とにかく仕事をしていた』って感じだな。

 本当に寂しい人生だ・・・。そう思った時、リーバーの近くにも関わらず影口を叩くアイツ等の顔を思いだして喉にまたつっかかる何かが表れる。

 その時マービンは気付いた。


 この怒りはアイツ等に対する怒りだろうな、って。


 でも今までそんな事無かったのに・・・教育係になって情が移ったか?

 マービンはそう思いながらベットの上に乗っている衣類やらを一気に床へと落とした。


「よし。じゃぁベットで寝て良いぞ」

「・・・本当に仮眠取らそうとしているんスか?俺、ついさっき仮眠しましたが?」

「仮眠じゃない。本眠りだ」


 仮眠なんで気休めしかならない。今のリーバーには安定した所でしっかりと睡眠を取る事が必要だろう。

 何で、事実上それはマービンが思っている事で当の本人は「嫌です」と言う始末だ。


「お前なー」

「俺は怒られる事をしましたか?」


 してねぇからこっちが困っているんだよ・・・そう心の中で毒を吐きながらもマービンはハァ〜と溜息を吐く。確かにリーバーの言い分も分る。急に休め、と言われて警戒しない奴は相当眠いか馬鹿かだ。

 リーバーは答えを出さないマービンに何を思ったか、近づく。マービンは「ん?」と不思議そうにリーバーを見上げた時、マービンの胸にリーバーの手が触れ、そのままマービンはリーバーに押し倒される。


「うおっ?!」

「怒らせたなら、お詫びをしますよ」


 お詫び?それ以前に・・・


「待て!俺は別にお前に怒っちゃいねぇよ!」


 言い切った時マービンだがリーバーは気にせずマービンのシャツのボタンを一つ一つ外して行く。



 この状況って、犯される!?



「いやいや、俺を食っても美味しくねぇぜ?ほら!俺ってそんなに男同士?の経験ねぇから。いや、全然ねぇから!そりゃぁ幾度も何故かアドバイスをしてきたけど・・・実際に俺がやるとかって、ははっそれに俺とお前はそう言う関係じゃん?って、どんな関係だよ!!」


 「えーっと」と必死にマービンは単語を繋げようとする。だが上手く単語が出てこない。

 そうしてる内にリーバーの顔がマービンに近づいてくる。意外に金色まつ毛が長い☆って言ってる場合じゃない!!!

 マービン目をキツク瞑っては片手をリーバーの胸に触れ、外へと押す。


「だから!俺はそんなお詫びとか入らねぇから!!」


 リーバーはマービンの手の甲に触れる。


「じゃぁどんなお詫びが良いんスか?」


 お詫びも何も・・・


「さっきも言ったけど!俺はお前に怒っちゃ居ないって!」


 ただ


「お前はあんまし休んでいないから、休めって言っただけだ!」

「本当は心の中で思っているんじゃないスか?」

「何を?」





「好い気になりやがって、って」




 血の気が引いた気がした。目をゆっくり開ければ、リーバーの頭はマービンの頭の横にあった。


「早く教育係から離れたいのでしょ?」


 マービンは横へと向く。リーバーの顔がシーツに沈み少し見えない。でも震える体はすぐに見える。


「まぁ思っていたな」


 早く手を切らないとこっちまで巻き添いを食らってしまうって。


「でも今は違う」


 マービンはそう言うとリーバーの頭に手を乗せ、ワックスで立てた髪を撫でる。


「やっぱしお前はまたまた未熟だ。他の新入りと違うけど」


 心が?・・・多分。

 支部の時も頼れる先輩が居なかったのだろうな。だから自分で殻に篭ってやがる。でも何処か誰かを入れる為の入口を作って気がする。

 頑張ってるから何時でも褒めて。無理し過ぎているから誰か心配して。って。


 本当は俺だってこの手を離してぇよ。

 自分よりも優秀な後輩を。

 自分よりも背が高くて顔が良い後輩を。

 周りに嫌われている後輩を。


 でも、彼はこのままだと孤独を抱え壊れてしまう。


「教育係、サボり過ぎたかもしれない」


 一番大切なモノを見失っていた気がする。


否、見失っていた。



「最少年たか何たか知らねぇけど、お前に友達100人作らせてやるよ」


 そして山の上でおにぎりでも食えたら爆笑ものだ。


「・・・何で俺にッ!」


 震える声。その声にマービンの鼓動が激しく打った。

 泣いている・・・闇が、深すぎたかもしれないな。

 それでも・・・





「お前は俺の最初で最後の直の後輩だからな!」





 実力ではソッチの方が上だけどな。

 そう思った時リーバーは静かに笑った。


「期待してやっても良いですよ?」

「期待しとけよ。言っとくけど俺はスパルタだからな!」

「はいはい」


 マービンは撫でる手をリーバーの背に移動させる。意外にも細い。その背を子供をあやす様に軽く叩いた。

 次第にリーバーの規則正しい寝息が聞こえてきた。




 と、それと同時にリーバーの重みが内臓を圧迫する。




 苦しい〜

 背が10Cm以上違う。それイコール必然的にマービンよりも重いか同じ体重になる。インテリであるマービンにとってそれに耐え切れないで居た。


 俺、大口叩いたけ、ど・・・そのま、えに、死ぬかも・・・ぐふっ


 気絶同様にマービンは目を閉じた。


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@言い訳@
 連載?連載なのか?と思いたくなる話です。マービンさんはハイテンションなキャラですよね!なんかそんな感じがします。でも、何処か受け思考orzリーバー班長が攻め!?一応これ、マービン+リーバーですからね・・・多分(ド殴)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年10月29日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様