もしも世界が愛に満ちていたらどうだったのだろう?
そう思う時がある。
でもきっと、それは愚問なんだろう。
だって既にこの世界は『愛で満ちている』のだから。
Colmo
久々の外は相変わらずスパナの耳を痛める。街中は賑わっていて、何度目になるか分らない程人と擦り違った。
昼を過ぎた午後と此処がこの時代には珍しい古典的な食材を売る商店街と言う事もあり女性率が多い。
スパナはロボット学の本が入った茶色い紙袋を大切そうに両手で抱え持っていた。
スパナは少し早足で商店街の入口へと向かっていた。スパナは本を買った事により此処に留まる理由はなくなった。
もう地上には用はない。何度目になるかの心の中の叫びを感じスパナはまたスピートを微か加速した。が、すぐにそのスピート分を減速する。その繰り返した。
そう長くない商店街は呆気なく終りになる。勿論商店街が終った所でそこはスパナの居場所ではない。
それでも久しぶりに見る青い空が見れてスパナの心は何処か閉鎖された心に風が通った。
青い空。 それはまるであの日の様だ。
スパナの幼い頃の記憶の中に愛された記憶はある。だが今から考えればそれは愛された記憶ではないと分る。
初めて愛されていないと知った時の絶望感は今も心を締め付ける。それでもモスカでなんとか心のパランスを取れた。
いや実際は心のパランス以前に壊れていた訳だが・・・それでもモスカの存在は大きかった。
モスカが全てだ。
でもそんなモスカは兵器で人の愛に満ちた世界を壊す存在だ。それを作っている自分。
スパナは内心『愛されないのも仕方ないことだな』と納得していた。なんだってスパナはそれ程の恐ろしい事をしているのだ。
特に世界征服と言う幼稚的な事を考えている白蘭の下についているスパナは世界の敵に回ったのだから。
そんなスパナを愛してくれる人が出来た。それもまだ壊れかけの人間だった。
酒とタバコに溺れて未だに上司に反発している野蛮な連中のリーダー、γ。
彼はスパナの事を愛した。それは気まぐれだ。それは知っている。だからスパナ自身気まぐれにγを受け入れた。
けど気付けば、それに嫉妬と言う感情が生まれて、気付けばスパナもγも溺れていた。
きっと心の底か落ちたのだ。
もしもこの世が愛に満ちていたら、こんな事にはならなかったのだろうか?
男は女を好きになり、女が男を好きになる。子供は大人が好きになり大人は子供が好きになる。黒人は白人を好きになり、白人は黒人を好きになる。
そんな世界は一件平和に見える。きっとそうなのかもしれない、が、そんな世界は個人的に嫌だと思った。
そんな世界は今舐めている飴よりも甘くてどうしようもない。そんな世界に異端者である狼が現れたらその世界に住む羊達は皆死んでしまう。
死なない羊はもはやその甘い世界に住む羊ではない。
じゃぁ愛に満ちないこの世界が良いのか?そもそもこの世界は愛に満ちていないのか?それすら分らなかった。
でもスパナは結論を知っていた。γに会った事で。
きっとこの世界は愛に満ちている。
ただスパナの想像する世界ではない。
愛にも色んな形がある。動物的本能を無視してまで同性を愛してしまう愛。既に温かさを失った体を愛してしまう愛。パートナーを傷つけて愛する愛。
スパナの様に鉄の固まりであるモスカを愛する愛もある。γの様に亡き者を未だに思う愛もある。
きっとこの世は愛に満ちており、愛に餓えている。
スパナが己の研究室の前に立ち止った時、扉が開いた。目の前には数センチ高いγが驚き顔をしていた。その顔がすぐに苦笑に変わり口を開いた。
「おかえり」
「・・・ただいま」
不釣合い。スパナは言葉を知らない訳ではない。ただこんな人対人の言葉を発する時と惑うのだ。下手をすれば暴力や嫌な視線だ。
γは扉を大きく開き、スパナを実験室の中に入れる。そしてγが入ったまま扉を閉じた。
「珍しく外に出ていたんだな」
γの甘美なる笑顔で言った。γのダレ目や強気眉、さらにオールパックに歪みのない放物線の輪郭はどれをとってもカッコ良いモノだ。
更に性格も頼りがいのある兄貴肌と来たもんだ。そんな男がスパナを選んだのが不思議で仕方ない。
「・・・まぁたまには外の情報も知りたいからな」
スパナはそう言いながらミニモスカを呼び寄せ、そのU字型の手に本を渡した。
ミニモスカはガシャガシャ言いながら研究室の奥へと向かう。本当に良い子だ。
ミニモスカが遠ざかる代わりにγがスパナに近づいた。そしてγは後ろからスパナを抱きしめた。そしてわざとか偶然かγはスパナの耳元で吐息の様に言葉を発する。
「今日俺が休みって分かっていて行ったのか?」
スパナはγの方へ顔も視線も向けずにミニモスカの後ろ姿を見つめていた。
愛に満ちた世界は酷く複雑に見えて単純だ。
人が人に優しくすれば愛になる。複雑しているのは他の人に向ける優しさを妬む心だ。
その優しさを自分一人のモノにしたい。そんな欲望が人を狂わせ複雑だと思わせるのだ。
いや、それだけじゃまだ単純だ。
スパナは口端をクイと上げた。
「アンタも休みだったんだな。知らなかった」
その人の愛を確かめる行為。それこそが複雑にする事だ。
γはククッと押さえた笑いを発したのち甘い霧の様に呟く。
「嘘吐き」
そう言うとγの両手がスパナの腰に触れる。
スパナはまだミニモスカを見つめていた。
もしも世界が愛に満ちていたらどうなっていたのだろうか?
その問いが脳裏に繰り返し続ける。答えは知っている。でも尚も問い続ける。
きっと平和で甘い答えを望んでいるのだろう。
スパナはミニモスカからγに視線を変えた。
「・・・嫉妬した?」
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@言い訳@Colmo=満ちた・隆起した
久しぶりの小説は酷く意味不明な『愛』についての論文(ド殴)大人ぼい?でもツッコミ所満載だから私だったら笑いを堪えそうですね^^;
スパナさんはこんな事考えませんよね。
では色々とスイマセン。失礼します。平成22年4月2日
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