貴方が何処に向かっているのか理解出来なかった。


 この国が大変な事になっているなんで想像も出来なかったからだ。


 でもこれは現実で。


 だからこう言ったんスよ?



「最悪でも死なないでくださいよ」


 Verbal promise



 恋人だと思っていた女がホムンクルスで、その長い指が俺の脊髄に触れた。

 下半身が動かなくなってどれくらい経ったのか。その絶望は図りきれなくて、何をするにも己の駄目さが表に出る。

 その度に死にたくて仕方なかった。



よく晴れた日。病室にある男が現れた。漆黒の髪と瞳。あの独特な低い声が俺の名を口にする。


「ハボック少尉」


 俺は目線をその男と合わす。


 ロイ・マスタング大佐。上司だった人だ。


 勿論ヘマをしたのは大佐じゃなくで俺の方。軍を辞めても大佐は時々俺の所に来てくれる。

 大佐の方も深刻な事になっているのに・・・聞けば俺のために賢者の石を手に入れようとしたらしい。

 大佐は女性に見せる甘い笑みを浮かべながら手に持つ花束を胸元まであげた。


「いつもすみませんねー」


 と俺はおとけた様に言った。だけど内心は酷く荒れていた。


 笑いに来たのかよ?


 何も出来ない俺に。そう思えて仕方なかった。

 俺はもうこの地を走り回れないし、大佐の護衛も出来ない。そんな惨めな俺を見に来たのですか?と。

 入院してから俺はそんな事でいっばいいっばいだった。それは積もりに積もって、希望溢れる子供の声に苛たちが噴き出る程だ。


 そんな内心を知らず大佐は安心した様に笑みを浮かべながら花束をベットの脇にある木製の棚の上に置き、備え付けの丸椅子に座った。


「どうだ?まだ痛むか?」

「痛みは引きました。ただ少し動くと痛みますね」


 痛むのはベットの上半身部分が起き上がる時と伏せる時だけだ。

 その時も俺は看護婦やブレタに頼んでしてもらっている。本当に何も出来ない。

 大佐は「そっか」と言うと俺の二の腕に触れた。前に比べて筋肉が落ちた。勿論毎日タンベルをやっているが、それじゃぁ毎日鍛え上げた筋肉は満足がいかない。

 大佐だって軍人だ。しかもでかい戦争経験だ。筋肉が落ちている事は知っている筈だ。なのに・・・。


「保っている様だな」


 大佐は満足そうに頷いた。


 保っている?


 俺はグッと食らえ笑顔になった。だがきっと笑えていないだろう。そう思うと急に笑うのが馬鹿らしいと思い始めた。

 そう思うと勝手に顔が強張る。それに気付き大佐は俺の顔を覗き込みながら「どうした?」と心配そうに聞いてきた。


「いえ、別に」


 と言葉を濁したが大佐は気付いていた。俺が何で顔を強張らせたか。それに気付いていながら大佐は俺を解放してくれない。


「別に下半身が動かなくなったのはお前のせいじゃない。むしろ私の責任なんだ」

「別に俺はそんな事を!」


 思っている訳がない、と言ったら嘘になる。

 しかし、大佐のせいでもない。大佐が焔で俺の腹を焼かなかったら今頃俺は死んでいた。そう考えれば大佐は悪くない。


 だが・・・


 不意に思う時がある。


 もしもあの時生かしてくれなかったら。


 きっと俺はこれほど苦しまずに済んだだろう。

 生きていても俺は大佐達の役に経たない。それ以前に実家でもきっと役に立たないかもしれない。

 だったら俺は死んだほうが良かったのでは?


 俺は知らずの内にブランケットを握り締めていた。

 大佐は握り締める手の甲にソッと触れた。俺はそれを勢い良くなぎ払った。


「大佐のせいじゃないッス!」


 大佐も同じ被害者だ。油断した俺が悪い。


「だからもう来ないでください!」


 きっとお互い傷つける事になる。


 俺は大佐を睨み見る。大佐は目を見開いていたが、すぐに苦笑を浮かべる。


「相変わらず優しいな。お前は」


 大佐はそう言うとまだ俺の手の甲に触れてきた。そして顔をまだ近づけた。


「残念ながら私は意外にもしつこい男なんだ」


 そう言うと大佐は顔を近づいて――――触れた。


 その唇に。


触れだけなのに酷く鼓動が高鳴った。それがうざい程で・・・。


 大佐が顔を離した時俺は呆然と大佐の顔を見つめていた。

 大佐もまだ俺の顔を上目で見つめていた。その視線が左下を向き、再び俺の視線と会う。

 口元が笑った。


「私はしつこい男だ」


 大佐は再びそう言うと俺の左頬に触れた。俺は咄嗟に後退するが、下半身に力が入らず全然意味がなかった。


「私はお前を手放す事はしない」


 フッと気付いた。大佐の漆黒の瞳にボゥとオレンジ色が入っていた。それに一瞬何なのか分らなかったが、すぐに気付いた。

 それは『俺』だ。

 そう思った瞬間大佐は俺を抱きしめた。


「私を守る事だけがお前の意義ではない」


 ギュッと抱きしめる腕に力が入る。


「ハボック、お前はお前がいる事に価値があるのだ」


 大佐の言葉の意味が分らなかった。

 だが何故か涙が溢れ出た。


 体と脳が矛盾している。


 そう思うが俺はきっとその理由を知っている。


「だからハボック。お前が責任を感じる必要がないんだ」


 俺は気付けば動く手で大佐の背広を掴んでいた。


「大佐―――」


 これだけは言わなくでは。脳も体もそれに賛同してくれた様にすんなりと言葉が出た。


「最低でも死なないでくださいよ」


 生きて、俺の意義を証明し続けてくださいよ。


「あぁ」


 言葉約束。


 それでもきっと大佐なら受けとめ、叶えてくれる気がした。


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@言い訳@
 久しぶりの小説なのにこんなに悲しくてスイマセン・・・なんか気付けばアニメも漫画も終りそうですね・・・これはヤバイですねorz
 が、頑張りたいんですが、貧疎な私の脳ではネタが全然出てきませんorz
 では色々とスイマセン。失礼します。平成22年4月2日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様