世界征服とかなんとか。


 そんな言葉を聞くけど『世界を征服してどうする』と言いたくなる。


 それに、世界征服されるよりももっと恐ろしい征服を知っている。


 その征服は酷く甘くて―――切ない。


 なぁ、弦一郎。



【You are conquered.】



 今日はテスト期間ため部活はなく、柳は真田の家にいた。旧家に相応しい瓦家に木の柱に畳みの香り。

 真田の部屋も例外なく、そうであった。とても懐かしみを感じる和風の部屋だ。床には勉強のための教科書やらノートやらがあるが、他には埃一つない。

 まるで時代劇の中に入ったかの様な和風の部屋で、静かだった。そんな部屋だからこそ現代にも関わらず制服姿の柳や真田が違和感に感じて仕方なかった。

 勿論部屋主はそんな事を当然の様に気にしてないのだが・・・。真田が数学のノートから顔をあげた。


「蓮二」

「なんだ?」


――――『此処の公式がよく分らないのだが、教えてくれまいか?』と言う確率82%


「此処の公式がよく分らないのだが、教えてくれるか?」


 ククッと柳はつい笑ってしまった。それに真田は眉を顰めた。


「なんだ?」

「いや、さっき俺はお前が何を言うか予想していてな。少し台詞が違ったが、当たっていたからつい、な」


 真田は少し目を見開き「そうなのか?」と聞き返した。柳が「あぁ」と返すと、真田は人差し指の横腹を顎に当てた。


――――『相変わらず柳の観察力は凄いのだ』と言う確率92%


「相変わらず柳の観察力は凄いのだ」

「ぷっ、くくくっ・・・」


 柳は机にくっつきそうな程上半身をおり、必死に木製の机の端を握った。体は間違いなく微かに震えていた。勿論『笑い』で、だ。

 さすがの真田も眉を顰める。でも真田は何も言わずに数学のノートに向け直る。

 真田は眉を顰めるが、きっと内心嫌なってる事はない。ただ『そんなに可笑しいのか?』と思うだけだろう。


 真田と会ってもう5年になるであろうか?

 真田は単純で分りやすい。周りは真田の考えてる事が分らないとか思っているだろう。実際に普通では考えられない事を突拍子もなく行う事がる。

 だが柳に言わせれば『その可能性は高い』事だ。

真田 弦一郎という人間は情が深く、相手に尽くす。それプラス、己が強くなる為に妥協はない。その誰も持たぬ二つの要素が『突拍子もない』になる訳だ。

もっと簡単に言えば『口五月蝿い』とか『融通がきかない』とかになる訳で、他人にも自分にも(自分にもというところが実はポインドで)厳しい真田が他人には理解されないのだ。

でも客観的に見れば『これ程単純な人はいない』と柳は思っている。テニスでも思考回路でも。



 柳はチラッと上目で真田を見る。公式が分らない様で現代ッ子の様にペンを回す。ペン回しは柳が教えたのだ。

 勿論真田は最初戸惑ったが、今では癖になっている。元から真田はペン回しの様な癖は持っていた。それは真田曰く『兄のくせ』だったらしい。


――――このまま公式を教えないとずっと公式を見続ける確率98%


 真田は目の前の壁しか見えていない。だから目の前の壁を突破しない限り次の問題にいかない。


「弦一郎、教えるぞ?」

「本当か!」


 真田はバッと少し頬を赤らませながら柳を見た。真田も周りも気付いていないだろうが、真田の皮膚は中学生相応ですぐに赤みを帯びる。

 だが、日に当たった浅黒い肌でその赤みに気付かないのだ。ただ長年過ごしてきた柳や幸村・・・3年レギュラーは分るらしい。

 柳は笑みを浮かべた。


「お前は相変わらず可愛い奴だな」

「なっ!何を言っておるのだ!」

「可愛い。そう言っている」


「な、な、な・・・」真田の顔が坦々と紅く染まり上げていく。それを見て柳の口元が余計緩む。

 柳は黒く塗っている(もしかしたら元から木製じゃないかもしれない)机の中央に右手をつき――――顔を真田に近づけた。

 左手で真田の頬に触る。真田の顔はもう『茹でたこ』と言う言葉が似合う程に紅く染まっていた。


「可愛いと思うさ。それとも『かっこいい』の方が良かったか?」

「そうではなく・・・」

「そうではなく?」


 顔がより近く、きっと真田の頬に耳に柳の息が掛かっているだろう。それを知ってやっている訳だが・・・。

 柳はさっきよりも低く「クククッ」と笑った。喉の奥から。可笑しいから笑うんじゃない。愛しいから、だ。勿論その違いがあるなど真田は知らないだろうし、世間もそれを認めないだろう。



――――弦一郎、俺はお前の全てを知っているし予測だって安易に出来る。




 『世界征服を企む』という馬鹿げた話が良くある。


 何故か皆『世界征服』を企む人間を恐れているし、その人間は何故か全ての世界を壊し回っている(どうせ自分のモノになるなら壊す必要はないと思うのだが)。


 だが、柳は知っている。


 『世界征服』よりも恐ろしい征服がある事を。


 まさに今、柳は真田を征服をしていた。



 真田の行動バターンなど手に取る様に分る。


 行動バターンが分れば真田を意のままに導き、望むモノ、望むことが手に入る。




「愛しているぞ、弦一郎」


 征服をした。


 誰も知らない、幸村ところか家族すらも知らない真田を、柳だけ知る事が出来る。

 それは独占であり、真田と言う人間の征服である。それは『世界征服』という規模が大きいだけの馬鹿なモノじゃない。確実で充分に柳を満たしてくれる征服だ。

 真田は柳の言葉に目を見開き、湯でたこの様な顔は少し落ち着きが出てきた様に見えるが、何処か唇が青く感じなくもない。

 照れとかそう言う事ではないらしい。きっと『絶望』だろう。でも柳はもう真田を征服した訳で、こんな態度は予測範囲だった。


――――『お前が俺の事を・・・愛している、だと?』と言う確率95%。


「お前が俺の事を・・・愛している、だと?」

「あぁそうだ」


 分かっている。だが、これから真田は柳を意識して過ごすだろう。そして真田はやがて柳に堕ちる。

 このままだと何も発展しない。真正面から、かと言って強要しない。真田は家計柄『強引』に酷く反応を示す。その後『引け』ば情深い真田の事だ。無視は出来ないだろう。

 真田は黒い机に目線を落とした。


「無理には言わない。ただ、気持ちだけ伝えたかった」


 真田は顔を上げ、柳を見つめた。その目は酷く揺れている様に見えた。




――――『・・・少し、考えさせてくれ』と言う確立100%――――





「・・・本当に俺で良いのか?」



 柳の目が開眼した。どんなにミスがあったとしてもその言葉だけは言わないと思っていた柳にとってさっきの真田の言葉は酷く衝撃的だった。

 だがその言葉がもし本当なら柳にとって好都合な事でもある。


「当たり前だ」


 そう言うと真田は右手で柳の左手の甲に触れた。その頬にまだ赤が燃え上がる。

 柳はつい生唾を飲んでしまった。無防備な真田に感じているとかではない。


――――計算外だ。


 まさかこんな展開になるとは・・・柳は内心慌てていた。真田は本気か?そもそも目の前にいる真田は本当に真田なのだろうか?もしかしたら真田に変身した仁王ではないか?あるいは誰かに汚されて『男』に免疫がついたのだろうか?

 色々な可能性が一気に脳裏を巡った。嫌な考えがクルクルと。その為か柳の顔は少し青ざめ冷や汗が顎から零れ落ちる。

 真田はそれを見て目線を斜め下にずらす。


「やっぱし、違うのだな」

「っ!何が違うんだ?」

「・・・蓮二が俺の事を・・その、愛している、とか・・・」


 真田の言葉から『愛している』と言われて酷く柳の思考を狂わした。


――――このままでは真田は誤解したままさっきの言葉がなかった事になる。


 柳は己の体を支えていた右手を離し、真田の首に回した。頭を真田の左肩に。そうすれば必然に柳の左肩と真田の右肩が当たる。


「愛している、弦一郎」


 もう真田がこれから何を言うか柳には分からなかった。


「蓮二・・・」


 早く答えを!そう思った瞬間に柳はハッと気付いてしまった。


――――あぁそうか。


「俺は―――」


――――結局『世界征服』でも『真田弦一郎征服』でも同じなんだな。



 どっちも馬鹿げている。征服などありえない。特に真田の征服などもっとありえない。

 だって、征服された真田は真田ではない・・・・・・のだから。

 それに柳は真田の事を完璧に知っていなかった。



「―――ずっと前からお前の事を愛していたのだ」



 征服すればそれは絶対の存在になる。

 
そんな馬鹿げた考えが見え隠れし、それを笑っていた。


「今も、これからも」


 でも征服など必要なかったのだ。


――――それでもいつか征服したくなる時があるんだろうな。


「あぁ、俺もそうだ。弦一郎」


 でもお前は征服しても征服しきれない奴だろうな。


 そう思い柳の左手が真田の背に回された。


「お前が好きだ」


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@言い訳@
 結局何が書きたかったのか・・・本当にスイマセン!そして初の柳真です!そして意味が分りません!(ド殴;じゃぁ出すな!)結局は両思いで、柳さんは真田さんの事を何も知らなかったと言う事ですかねーwー
 では色々とスイマセン。失礼します。平成22年5月19日



背景画像提供者:短生種の戯言 マスタァ様