「おめでとう。


 産まれてもう15年だな。


 長い様な短い様な。


 でも、これからなんだ。


 昔は『15歳』だと立派な『大人』だった。


 弦一郎、お前はもう立派な大人なのだ。


 そして此処まで無事に育ったのは他でもない、皆の協力があったからだ。


 弦一郎、今日は誕生日だからと言って舞い上がらずに、今まで世話になった人にお礼を言うのだぞ」





「はい。おじぃ様」



【絶対的服従】



 今日の真田は機嫌が良かった。

 別に誕生日だからという訳ではない。ましてやいつも真田よりも起きる時間が遅い兄が夜中の2時に起こしてきた事でもない(寧ろ真田は兄を30分ほど説教をした)。

 今朝、祖父に『大人』として認められたからだ。真田にとって祖父は憧れの存在である。そんな祖父に一歩近づいたのだ。

 それに仲が悪い祖父と兄が一緒に食卓にいる・・・それも手助けになっていたのかもしれない。

 真田にとっていつもの通学路すらも今日は新鮮に感じた。周りの人間も祝福している感じすらもした(本当は真田の薄っすら笑いに怖がっているだけ)。


――――今日は皆に感謝したいのだ。


 今まで世話になった事を。


 今まで一緒にいてくれた事を。


 今まで助けてくれた事を。


 改めて礼を言うのは正直恥かしかった。だが、今日しかないと真田は思う様にした。そうしないと言えないままだから。

 真田は緊張3機嫌良さ7といつも以上に軽やかであった(周りは真田の異常に恐怖10)。


――――早く部活になって欲しいのだ。





 うきうきしたままに時間は過ぎ、部活の時間へとなった。

 その間に真田の誕生日を祝う人間は柳生のみであった。柳生は真田に(実はもう既に持っている)歴史の小説と自作のポエムを貰った(『Ah 真田くん 真田くんは 真田くんで 真田くんさ』みたいなモノを120作品程・・・)。

『有難うなのだ』と真田は笑顔を引き攣りながら言えば柳生は『いえいえ、そんな』と頬を赤らめさせながら言い返した。 そこまでは普通なのだが・・・。


『私は紳士ですから。紳士は嫌いな人から殺したいと思う人まで対等に接するモノですから、真田くんが礼を言う必要はないですよ』


 その言葉にさすがの真田も多少の引っ掛かりを感じたが、柳生の平然と言う言葉につい流されてしまった。

 真田にとって幸村と柳生(特に柳生)は自然すぎて流されてしまうのである。


――――だが今から考えれば可笑しい事なのだが・・・


 まぁ良いか、と真田は誰もいない部室で立海大付属男子テニス部の正式ユニフォームに着替える為にYシャツのボタンに手をかけた。

 3つくらいボタンを外した時に部室の扉が開いた。


「やぁ、今日はいつもに増して早いね真田は。授業はちゃんとく受けたのかい?」

「違うぜよ、幸村。真田は今日が誕生日だから浮かれて早く来たのじゃろ」

「否、いつも通りだろ?」


 真田の言葉に幸村と仁王は「ツンデレだよ〜」「ツンデレじゃの〜」など最先端の言葉(だと真田は思っている)を口にする。

 それに真田はついイラ付く。だがフッと今朝のおじ様の言葉を思い出した。


 『今まで世話になった人にお礼を言うのだぞ』


 今日は産まれてきた事を『祝われる』日だけではない。『感謝する』日でもあるのだ。

 真田はそう思い改めてヒソヒソと話し、時より笑う陰湿な二人を見た。二人はテニスは確かで、いつもフォローをしてもらっている・・・と思う。だから・・・。


「今まで有難うなのだ」



 真田の一言に二人の言葉はピタッと止まった。二人の見開かれた視線が真田に当たる。

 何か変なことを言ったのだろうか?真田がそう思わせる程に場が静まってしまった。そんな中幸村が口を開く。


「・・・え?真田引っ越すの?」

「・・・?いや」

「だって『今まで』って・・・」


 真田は幸村の言葉に全てを理解した。まさか『今まで』と言う言葉で『引越し』と思わすとは・・・。

 確かに引越しをする時に『今まで有難う』とよく言う。だから誤解をしても仕方ないかもしれない。

 しかし、二人が真田の引越しに悲しむとは・・・真田はそれがとてもくすぐたく感じた(本当はからかう相手がいなくなるから悲しんだだけ)。


「いや、違うのだ。今朝じぃ様から『誕生日はお世話になっている人に感謝をする日』という有り難い言葉を頂いたのでな。だからこうして二人に礼を言ったのだ」


 真田はご満悦(ごまんえつ)にそう言った。それに幸村と仁王は真田をしばらく見つめた。そして互いに顔を見た。

 その顔が驚きから恐ろしい笑みへと変わった(勿論真田は気付かずに)。

 最初に動き出したのは立海大付属が誇る詐欺師である仁王だった。


「それはちょっと違うぜよ、真田」

「む?何が違うのだ?」

「確かに一般的にはお礼を言う日になっているが、それは誤った認識ぜよ。本来は世話になった人に『絶対服従』をする日なりよ」

「絶対服従だと?!」


 「そうじゃ」と仁王が真面目な顔で言う。隣で幸村が笑いを堪えながら「うんうん」と頷いた。

 だが真田は信じていない様子で眉間に皺を寄せて二人を疑視する。


「じぃ様が嘘をついた、と?」

「そうとも言えるし、そうとも言えない」


 仁王は言葉を続けた。


 この『絶対服従』とは中国が起源ぜよ。

 この頃の王は優しく使用人を平等化しておった。だがそんな優しい王の為使用人は感謝の意を込めて誕生日を理由に『絶対服従』をしたんじゃ。

 それから中国ではそれが当たり前になったぜよ。それが日本に伝わったのじゃが・・・ホラ、日本って天皇はおったけど既に天皇の下に普通に部下がおるじゃろ?

 その部下は『天皇さまばんざーい!』と言って慕っておったからその風習はもう必要なかったのじゃ。

 その代わり『相手に礼を言う』が流行ったのじゃろう。


「なるほど!そういう感動な事があったのか・・・」

「そうじゃ。で?真田よ・・・お前さんは仮にも皇帝の名を持つ者ぜよ。聞けば皇帝とは中国の王の事も言うのじゃろ?起源とは異なるが、皆の為に礼を言っておるのじゃから一層のこと『絶対服従』までしてみんしゃい」

「・・・絶対服従・・・」

「大丈夫だよ。形だけだから。それに俺達だって真田を祝いたいんだからさ」


 絶対服従の時点で祝い事ではないのだが・・・だが仁王の言葉を信じてしまった真田は「そうだな」と頷いてしまった。

 それに幸村は手をパチッと叩いて「決まり♪」と声を弾ませた。そして幸村はその右手の人差指で床を指した。


「じゃぁ手始めに、跪け」

「なっ!」


 さすがの仁王も「いやいや最初からハイレベルじゃろ」と呆れ半分もツッコミを入れる。

 だが幸村は本気だったらしい。


「真田、これは『絶対服従』の基礎なんだ。テニスだってそうだろ?まず基礎をマスターしなければ上手くならない」

「そうだが・・・」

「だから跪け。そして俺の靴を舐めろ」


 それは絶対服従じゃなくでSMプレイぜよ・・・仁王はそう思うが決して口にはしなかった。したら下手すればもっと酷い事をされるかもしれないからだ。

 真田は抵抗があったもののおじぃ様の『今まで世話になった人にお礼を言うのだぞ』と言う言葉が耳に離れなかった。


―――――今日は感謝をする日なのだ


 真田は幸村に近づいた。膝を床に付け、正座の形になった。そしてチラッと幸村の方を見上げた。

 これで良いのだろう、と思っていたが幸村の眉間に皺が寄せられていた。真田は、あれ?、とつい首を傾げてしまった。


「真田、それだとただの『正座』だよ?そんなの真田は家で毎日やってるでしょ?」

「・・・まぁそうだな」

「そうじゃなくで四つんばいになって俺の靴を舐めろって言ってるんだ!」

「・・・幸村、それはもはや一般的に載せられる範囲じゃないぜよ!」


 仁王が耐え切れずにツッコミを入れると幸村は即座に仁王に顔を向けた。勿論その顔には笑みなどない。


「これでもセーブしてる方なんだ」

「何処が!」

「馬鹿を言っちゃ駄目だよ?俺は本当なら、真田にあんな事やこんな事を・・・っていうか、『あ、は〜ん』な事や『う、ふ〜ん』な事を本来ならしたかったんだ!でも、ほら、これ一応一般向けだから『仕方なく』こんな基礎にしたんだよ?『仕方なく』ね」

「幸村・・・・」


 仁王はつい数歩後退さってしまった。正直な話、幸村が真田の事を愛しているのは知っていた。だが此処までとは・・・。

 恋は人を此処まで変える(っていうか狂わす?)とは・・・恋は恐ろしいぜよ・・・・仁王はそう思いながら幸村からある程度の距離をとった。

 真田はまだ正座になったまま幸村を見上げていた。さすがの真田も幸村の息の荒さに気付き身ピクと震わせた。

 だが彼は神の子。止められるのはきっと神のみなのだろう。


「さぁ真田、俺の靴を舐めてくれ。寧ろ俺の――――」

 ガチャッ

「こんにちは―――ってあれ?何で副部長正座しているんスか?」


 見事に幸村の下ネタを止めたのは時期部長になるであろう男、切原 赤也であった。その後ろには赤い髪を持つブン太もいた。

 ブン太は赤也の後ろから覗き込み「真田、お前誕生日早々に幸村君を怒らせたのかぁ?」と笑いながら言った。

 真田の代わりに邪魔されて不機嫌な幸村が「誕生日の人は絶対服従をするんだって。だから真田も絶対服従をしているんだ」と答えた。

 ブン太は趣旨が分り少し顔を青ざめだ。これは・・・。その反対で赤也は目を輝かせえていた。


「って事は、俺にも絶対服従なんですね!」


 赤也の言葉に真田は眉間に皺を寄せ、考えた。そして数秒後真田は赤也を見る。


「いや、考えれば赤也にはどっちかと言うと『俺が』迷惑かけられているからな。だから無理だ」


 真田の返答に仁王と幸村は身を震わせて笑いを堪えた。確かに真田はいつも赤也に何かすら怒っており、迷惑をかけられ続けている。

 赤也は真田の言葉にみるみるテビル化になる。白目の部分が赤くなり、顔もそれと同じく紅潮する。それは怪奇現象そのものだった。

 だが他のメンバーは慣れっこで『わぁ!赤くなった!』とか『顔が真っ赤だー』とかはない。あるのは「うわーテビル化かよ。めんどくせぇー」と呟く丸井の言葉のみであった。

 赤也は肩に背負っていたテニスバックを手で握り、真田に近づく。テニスバックを高くあげ、その角を真田に向けで振り下ろす。

 真田はそれを見た瞬間目を光らせた。


「赤也!!!テニスバックを玩具にするとは、たるんどる!!!」


 真田は必殺技『たるんどる』を使った!説明しよう!

 『たるんどる』とは、ただ『たるんどる』と言いながら鉄拳を与えると言うシンプルかつ痛い技である!

 見事に真田の右拳が赤也の頬にヒットする!赤也はその場に倒れて動かなくなった。

 幸村、仁王、丸井は真田に拍手を送った。


「何の騒ぎだ?」


 そこへ現れたのはいつも何故か目を瞑っている柳であった。柳の後ろにはジャッカルがいて、倒れている赤也を見るなり「大丈夫か?!赤也!!」と言って赤也に近づく。

 仁王が柳に近づき軽く説明をした。


「なる程、そう言う事か・・・」

「参謀よ・・・この嘘は・・・」

「仁王、俺が嘘を貫く人間に見えるか?」


 柳はチラッと片目を開き真田を見た。幸村に続きを要求されて困惑している真田の頬はほんのり赤く染まっている。しかも着替えかけだったのだろう、いつも一番上まで止めているボタンが3つ外されていた(既にネクタイは外されている)。


「・・・俺が」

「分かってるぜよ。参謀・・・」

「俺が・・・こんな面白い事を見逃すとでも?」

「あぁ、知っておったぜよ」


 二人は何故かお互いに親指を立て、ニッと笑った。その時白い歯がキラリッ☆と光った。

 その頃当の真田は・・・。


「真田!俺とキスをしろっと言っているだろ?これは絶対服従なんだ!」

「待て!さすがの幸村君でも真田のファーストキスは譲らないぜぃ!!」


 幸村と丸井の何故かファーストキスがどうとかの話で喧嘩をしていた。それを真田は頬を赤らめさせながら「たるんどるぞ!!二人とも!!」と叫んでいた。

 真田にとってキス・・・つまり接吻とは気安くするものではない。しかも人前とは・・・真田には有り得ない事であった。

 勿論、真田の声など今の二人に聞こえる筈もなく・・・。


「部長の俺が真田のファーストキス、そして初めてを貰うんだ」

「何勝手に決めてるんだよ!真田は俺が天才的に貰うに決まっているだろぃ!」

「二人とも!お願いだからそれ以上色んな道を外さないでくれ!!」

「とにかくたるんどるのだ!!」


 ジャッカルの声も真田の声も届かなかった。幸村と丸井の間には見えない電撃がぶつかり合っていた。

 それは何かのエネルギーと変わり、ブアッと空気が歪む程だった。

 幸村と丸井はにらみ合っている。それを柳と仁王は(黒い)笑みを浮かべながら見届けている。赤也は普通に気絶していて、ジャッカルは涙を流しながら幸村と丸井を見守っていた。

 真田はただ、呆然と幸村と丸井のにらみ合いを見つめていた。



 『弦一郎、お前はもう立派な大人なのだ』



 ギリッと真田は歯軋りを鳴らした。


――――こんな状況にして・・・何が『大人』だ?



 『そして此処まで無事に育ったのは他でもない、皆の協力があったからだ』



――――俺はこんな事を望んだ訳ではないのだ。




 ―――じゃぁ望むモノはなんだ?―――



 目の前にはにらみ合う二人。






『今まで世話になった人にお礼を言うのだぞ』






「有難うなのだ!!」



 真田の叫んだ言葉ににらみ合っていた幸村と丸井は真田の方を向いた。否、幸村と丸井だけじゃない。柳も仁王もジャッカルも真田に視線を向けた(赤也はまだ気絶中)。

 真田は周りの視線に驚く事もなく、幸村と丸井の間を見つめる。


「今までテニスをしてくれて。今まで俺をフォローをしてくれて。今まで付いて来てくれて。今まで話をしてくれて」


 朝思っていた。『今日ならお礼を言うという気恥ずかしい事が出来る』と。

 真田は不器用に口端をあげ、笑った。


「有難うなのだ。そして、これからも宜しく頼む」


 真田の言葉に幸村と丸井は目を見開く。そしてお互いに顔を合わせた。への字口だった口元に笑みが生まれた。

 そして二人同時に口を開いた。


「「有難う」」


 とてもほのぼので、悪い笑みを浮かべていた柳と仁王は少し頬を赤らめさせながら仲直りをした二人に微笑んだ。


「で?」


 幸村と丸井が同時に真田に顔を近づけさせた。


「どっちにキスをするんだ?」

「な、な、」


 『キス』という言葉に頬を赤らめさせる。キスって・・・


「じゃぁ此処は公平にジャンケンで勝った方が先にする?」

「良いだろぃ」

「た、たるんどるぞ!!」


 だが問答無用に幸村と丸井は右手を力強く握っている。


「じゃんけん――――」

「うるさいですよ!!静かにしたまえ!!」


 そこへ運良く来たのは柳生だった。


「柳生!」

「何の騒ぎですか?」

「いや、真田の誕生日を祝っているだけぜよ」

「そうなのだ!今日は今まで世話になった人に絶対服従をする日と聞いてな。それで絶対服従をしていた所なのだ」


 柳生の左眉がビクッと動いた。仁王は大げさに片手で額を押さえ(馬鹿・・・)と心の中で馬鹿正直な真田を恨んだ。


「絶対服従ですか?」

「そうだ」


 柳生は眼鏡を中指で直しながら1つ溜息を吐いた。


「真田君、誕生日に誕生日の人が絶対服従をするって事はしませんよ」


 柳生の言葉に真田の目が点にになる。


「だが中国で・・・」

「中国?真田君、それは誰に聞いたのです?」

「それは・・・あ、」


 真田は眉を顰め仁王がいた場所を向く、が、柳と一緒に仁王がいなくなっていた。そう、逃げたのだ。

 そうも知らず幸村と丸井は未だにジャンケンをしていた。素晴らしい程に『あいこ』が続いていたのだ。


「そうか。俺はからかわれたって事か・・・」

「普通に考えてそうでしょう」

「キエェェェッ!!!!」


 その後、真田は奇声を発しながら幸村、丸井、(不運なる)ジャッカルに鉄拳を食らわせたのは言うまでもない。




 おじぃ様。


 真田 弦一郎、まだまだ修行が足らない様です。

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@言い訳@
 真田さん誕生日おめでとう!!!!そして柳さん誕生日おめでとう!!!!(ド殴)すまない・・・真田さん。話のネタは誕生日の時に考えたんですよ?けど、書くのがかなり遅れて・・・しかも結果的に意味不明になってしまって・・・しかも長い・・・本当にスイマセン。そして柳さんの誕生日なのに柳さんの誕生日ssを書いてないとか・・・本当にスイマセン。この話の一番のピークは柳生さんが真田さんにプレゼントを与える所ですね(殴)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成22年6月4日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様