気付かなきゃ良かった。この気持ちに。


 気付かなきゃ良かった。この思いに。



 気付かなきゃ良かった――――貴方に好意を抱いている己に。



【ギクシャク】



「最近リーバー君の様子が可笑しい」


 黒の教団室長であるコムイ・リーはそう言うが、科学班班員の一人あるマービンは「そうスか?」と聞き返した。

 実際にコムイ自身『可笑しい』と思うだけで『何処が?』と聞かれたら返答に困る。

 実際にリーバーは何も可笑しい言動はないのだから。


「でもリーバー君変なんだよねー。最近・・・」

「そうスか?まぁ、そう言われても否定できないところが班長なんスけどねー」


 マービンは「うんうん」と何度も頷く。コムイはマービンの意外な言葉に目線を上げた。

 マービンはそれに気付き苦笑いを浮かべた。


「班長って昔から何処か負の感情を隠すくせがありましてねー。辛い事や悲しい事はあんまり人に見せない様にしてるんスよ」


 マービンは肩を竦めながら言った。

 歳も経歴もリーバーよりもマービンの方が上だ。更にマービンはリーバーの教育係だった事もあり、リーバーの事をよく知っていた。


「まぁたまには班長に苦労かけないでやってくださいよ。最近仕事が忙しくてあんまり仮眠が取れていないらしいスから」

「そうなんだ。なるべく苦労をかけない様にするよ」


 コムイは笑みを浮かべながらそう言うと「頼みますよ」とマービンはいつものきだるさに戻った。

 マービンはやっぱしリーバーの事が心配なのだろう。リーバーの話題になると態度も言葉もキビキビとなる。


――――数日間はリーバー君に苦労かけない様にしよう。





「リーバー君、あそこの資料見たから持てって良いよ。後ロブにこの実験許可書を渡してくれる?」

「・・・しつちょ、変な物でも食べました?」


 リーバーのすっきょんとうな声にコムイは口を尖がらせながら「なんでー?」と訊いた。

 リーバーは人差し指の横腹を口元に当てた。垂れた目が伏せて市松模様の床を見つめた。


「だって室長が切羽詰まってないのに仕事をしてるから・・・」

「僕だって仕事をする時くらいありますよーだ!」


 コムイは頬を膨らませながらそっぽを向いた。

 いつもリーバーに『仕事をしろ!』と言われているが、したらしたって『どうしたんスか?』と聞かれる始末。


――――それが微かに面白いんだけどね。


 コムイは仕方なく種明かしをする事にした。


「最近リーバー君の様子が可笑しいなーと思ってマービンに相談したら『最近班長は忙しくて仮眠をそんなにしてないから仕事をしたらどうです?』と言われたんだ。だから仕事をしたんだよ」


 「どう納得した?」とコムイが聞くと何故かリーバーの顔が紅潮した。リーバーは何故か右側の壁を見ながら「そうスか・・・」と素っ気無く答えた。


――――やっぱし様子が可笑しい。というより顔が赤い。


 ピン!と冗談が思いついた。


「もしかしてマービンが好きだったりしてー」


 まぁ有り得ないだろうけど。そもそもそうだったらマービンはすぐに気付く。何だってマービンは数多くの同性愛を手助けをした人なのだから。

 黒の教団は男の割合がかなり多い。その為男同士の恋愛沙汰が多い。

 だがあの堅物のリーバーの事だ。リーバーなら『仕事と恋をしている』と言いかねない。って言うよりもコムイはそう思っている。

 リーバーは目を見開きコムイを見る。その顔には複雑な、でも決して笑っている様ではない表情が浮んでいた。

 その顔を見てコムイはつい目を見開いてしまった。体中が冷えるのを何処かで感じた。


――――あれ?もしかして聞いちゃ駄目なモノを聞いちゃった?


 コムイは無理に笑みを浮かべた。


「なーんでね!そんな事ないよねー」

「・・・」


 コムイがおちゃらけに言うが、リーバーは俯いて黙り込んだ。


 沈黙


 冷や汗が止まらない。これは間違い。大きな、とてつもなく大きな地雷を踏んでしまったに違いない。


――――しかし、リーバー君がマービンをねー


 確かにありえなくはない。リーバーの新入り時代はかなり嫌われていたらしい。天才ゆえのモノで・・・リーバー自身人と上手く接しられないでいた、とも聞いていた。

 マービンが気を利かせたから、此処まで成長したのだ(とマービン本人は言っていた)。

 マービンはもはやリーバーの事を『息子』の様に見ている。だけど年齢差は10歳も満たない所か3つしか変わらない。

 『仲間』が『恋人』に変わる事だってありえるだろう。特にリーバーやマービンの様に信頼を寄せ合ってる関係だと。

 コムイは一つ溜息を吐いた。


「・・・・僕は良いと思うよ。きっとマービンもリーバー君の事を――――」

「違います!」


 荒げる声にコムイはつい目を見開きリーバーの方を見る。リーバーは声を荒げた事に後悔をしたのだろう、右手で顔を覆っていた。

 違うって?リーバーはマービンの事を好きじゃないのか?

 リーバーは右手を顔から離した。リーバーは俯く。表情は見えなかった。が、露になる耳が赤く染まりあがっていた。


「俺が好きなのは・・・」


――――やっぱし誰かが好きなのか。


 コムイはついニタニタ笑みを浮かべてしまう。リーバーだって20代という若者なのだ。恋だってしたいだろう。



「俺が愛しているのは――――」



――――リーバー君の好きな人は一体だれ――――





「貴方です。コムイ室長」



 リーバーの言葉にコムイは一瞬思考停止をしてしまった。


 己の名前が此処まで他人の様に感じるとは・・・コムイの頬に冷や汗が流れ、そして顎から落ちた。


――――今なんで言ったんだい?


 目の前で顔を真っ赤にする青年は。


「俺は、俺は、俺は――――」

「リーバー君?」


 コムイは席を立ち、リーバーの頬に手を伸ばした。

 骨ばった頬に微かに触れた瞬間、コムイの伸ばされた手が払われた。

 8Cm下にいるリーバーの顔は酷く怯えていて、酷く揺れる瞳がコムイを見つめる。


「スイマセン、失礼しました!」


 リーバーは早口にそう言うと、室長室を出て行った。

 コムイは呆然と出て行くリーバーの後ろ姿を見つめていた。


 酷く真っ赤な顔。


 潤む瞳。


 コムイはフッと『変だ』と思い始めた頃のリーバーを思い出した。あの時のリーバーは何処か顔が赤くて、目が少し潤み、早く出て行っていた。

 コムイは椅子深く座る。そして背を反らし天井を見上げる。蛍光灯が眩しい。コムイはそう思い腕で目元を隠した。


「なんで気付かなかったんだろ?」


 早く気付けば苦しませずにすんだのに。


 あんな笑えない冗談を言わずにすんだのに。


 きっと明日から二人してギクシャクになるだろう。


 きっと周りから見たら明らかに変で、それが自然になる時はあるのだろうか?


 知らなきゃ良かったな。君の思い。


 でも知って良かったと思う。君の思い。


 コムイの頬は次第に紅潮した。


――――明日は君に何を言ったら良いのかな?

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@言い訳@
 久々のD,Gで色々と忘れている事にピックリですorz最初はリーバー班長から恋をすれば色々と楽しいなーと。うん。てか、誰ですか?貴方は?!(ド殴)かなりの乙女リーバーさんですねー。ていうか、マービンさんが可愛そうな扱いに!?好きですよ!マービン!!
 では色々とスイマセン。失礼します。平成22年6月8日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様