聞こえる声に耳を塞ぎたくなる。


 病気になってから、いつもそうだ。


 周りから隔離されて・・・俺だけが置いてきぼりに感じる。


 俺だけが皆と違う所にいるような、そんな気が狂いそうな感覚。


 そんな状況になると嫌でも分かってしまう。


 真田、お前もあの群生の一部なんだね。



【群生】



 病院の最上階の個人部屋の一室に幸村は入院していた。空が酷く近い。幸村にとってそれは憂鬱だったが、1階は診察室や待合室で病室は二階からであった。

 そう考えればどの病室も空に近かった。ただ幸村の病室が空により近いだけである。

 そして幸村は毎日の様に空を見つめていた。見る度に憂鬱になるが、見ずにはいられなかった。

 今日は朝から黒い雲が漂っていた。今日は雨が降るのだろう。

 幸村が雨を嫌いになったのはつい最近であった。雨が降れば見舞いに来る人達が減り、見舞いに来ても早々に退散をしてしまうのだ。

 だから雨が嫌いだった。雨なんで降らなきゃ良いのに。




 バラバラと雨が降り始めた時真田が見舞いに来た。点々と制服が濡れていたが、気にする程でもなかった。

 今日は真田だけだと言う。「部員からだ」と言ってお菓子や手紙を渡してきた。レキュラー部員もいれば、レキュラー以外の部員もいた。

 手紙の開封口をよく見ればところところ紙が薄いところがあった。それは『開けた』って事だろう。

 それは柳か?それとも目の前にいる真田か?どっちにしろ心配をかけたくないと言う事なのだろう。

 真田は慣れた手つきで花瓶に花を入れていた。前に来た時に持って来てくれた白い花、そして今日持って来たピンクの花が混ざり合っていた。

 真田はこんな可愛らしい花を買う時恥かしくないのだろうか?きっと恥かしいだろう。

 恥ずかしながら花を買う真田の姿がかなりの不釣合いで想像するだけで笑いたくなる。


「どうした?幸村?」


 幸村が笑った事に真田はご満悦気味に聞いた。

 真田は・・・と言いたいが、多分違う。柳も赤也も・・・あの仁王さえも幸村の事を心から心配している。そして、笑顔になって欲しいと願っているのだ。

 真田はただ彼らよりも強くそう思っているだけだ。


「いや、別に」


 幸村がそう答えれば真田は病室に備わっていた丸椅子をベットの近くに持って行き、そしてそれに座った。

 真田は不器用に口端を上げて笑った。


「今日は雨が降ると言っておったから早めに来たが・・・正解だったようだな」


 真田は幸村を越して、窓を見つめた。幸村もつられて窓の外を見た。

 いつのまにか雨はザーッと本振りになっていた。


「傘はあるのかい?」

「あぁ。学校に置き傘があってな。それを持って来た」


 真田は今も不器用に笑みを浮かべている。



 真田はテニス部でもその強さと時代に合わぬ古い言葉と厳しさで浮いていた。

 皆と違う、離れた存在。少し幸村や柳が交わっているくらいだった。


そんな浮いた真田。


でも病気になって離れた今だから分かる。


真田は確かに皆から離れていたかもしれない。

でも、その距離は短く、離れているとは言い難い場所だった。

真田もまだ立海大テニス部と言う群生の中にいるのだ。


 そして今も・・・。



――――きっと真田は今、そのテニス部の真ん中に降臨しているのだろうな。


 そのキッカケを与えたのは間違いなく幸村だった。もっと言えば真田は幸村のポジションを取ったのだ。

 そして自分は・・・。


「幸村?どうしたのだ?」


 いつの間にか難しい顔をしていた幸村は心配そうに覗き込む真田を見返した。

 幸村は『なんでもないよ。有難う』と言おうとして口を開きかけたが、やめた。

 代わりにこう言った。


「真田は良いよな。皆がいて」


 今から思えば真田は周りから嫌われていたが、それでも『真田』という存在は確かにそこにあった。

 それは嫌々でも、ある人はそれが普通でもあった。

 でも、今は違うとも思うしか出来なかった。今真田は昔と違って、皆に頼られて、愛されていて・・・。

 そんなぐだらない想像が幸村の脳裏をかけ巡る。


――――俺だけが置いてきぼりだ。


 この病気さえなければ皆と一緒にいられたのに。


 この病気さえなければテニスが出来たのに。



 この病気さえなければ―――――



「――――幸村」


 声がした途端に真田の腕が俺を包み込んでいた。

 真田が俺を抱きしめている。それは壊れ物を扱うように、『抱きしめている』といえるか微妙なモノだが、確かに抱きしめていた。


「俺達はお前の事を思っている。例え場所が離れていても、一緒にいる時間が少なくでも、大切に思い続ける」


 その時、真田の抱きしめる手が強まった。



「お前は一人じゃない、幸村」



 真田の体が酷く熱かった。筋肉の量も幸村が倒れた時よりもたいぶ付いた。

 それを感じる度に離れていく感覚がしていた。


――――でも違うだね?


「真田・・・」


 激しい雨音が聞こえてきた。でも、それよりも、真田の鼓動の方が大きく感じた。


――――僕は皆と一緒にいるんだよね?


 色鮮やかに咲く花の群れの様に。


――――笑って待ってくれているんだよね?


 幸村は真田の体に腕をまわした。幸村と真田の体温が重なり、火がついた様に熱く感じた。それが酷く幸村は心地が良かった。

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@言い訳@
 国語の教科書に『群生』と言う言葉があって、『これは幸村様だな!』と思い書いたら・・・大変な事になりましたorz意味不明すぎる以前に真幸に見えなくもない。これはもう、真幸真ですね。やっぱし視点=受けぽく なりますねorz
 色々とスイマセン。失礼します。平成22年6月10日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様