風が俺の横を通り過ぎる。
何も変わらない。
青い空はあるし、白い雲は相変わらず風に乗って動いているし・・・。
だから何も変わらないと思っていた。
否、もしかしたら『変わる』のを望んでいたのかもしれない。
空は相変わらず青から赤くなって、今度は濃い青になる。
青だけじゃない、赤にもなるって。
そんなかんじで変わりたかったのかもしれない。
お前が俺に振り向くってかんじに変わって欲しかった。
そして今も。
【Fantasmagoria】
町並みは好きだ。
いろんな人がいつもの日常を、あるいは非日常を送っている。それを客観的に見つめる。
見つめると言っても、その人の日常など分る訳ではない。それにすぐに記憶から消される。
そんな無駄な事をよくやる。別に覚える訳でもない。そんな仕事って訳でもない。
家光はボーとその風景を見つめている。
否、意味はある。それは―――
「なぁーにやってるんだよ?」
家光は声の方へ見上げた。そこにはよく知った顔があった。
白い肌。茶色かかった黒い髪。茶色の瞳・・・。
「シャマル」
シャマルはムスッとした顔をしながら、誰が作ったのか分らない彫刻前にしゃがみ込む家光を見下ろす。
家光はククッと笑いながら各々歩く、あるいは走る人々に視線を戻す。
「なぁーんか、急に一般的日常が見たくなっちまってな」
家光の言葉にシャマルは「ふ〜ん」と気のない言葉を発する。家光は一度目を瞑り今まで見てきた、あるいは聞いて来た会話を思い出そうとする。だけど当然の様に思い出せない。
家光は目を開けて、シャマルの方を見上げる。
「それで?なんか用か?」
「・・・お前なぁ」
シャマルは「はぁ〜」と長い溜息を吐き、頭を勢いよく掻く。
「なんか此処にずっと座ったまま人並みを見つめている変質者がいるって連絡が来た訳」
「ふっはははっ、変質者ねー」
「笑い言かよ」
まぁ、確かに笑い言じゃないな・・・家光はそう思いながら笑い涙を拭う。
「すまん。すまん。確かにこんな所で座りながら何時間もいりゃぁ変質者になるだろうな」
「当たり前だ、馬鹿」
容赦ない言葉に家光はつい苦笑いを浮かべる。相変わらずシャマルは変わりないねぇー。
しかし本部の人に見つかるとはな。後で怒られるだろう。家光だってそれなりの役職なのだ。下手に目立てば他のマフィアに見つかる可能性もある。
っとその前に変質者扱いでボンゴレの質が落ちると言うモノだ。
「あぁ、後で本部に謝罪しないとな」
「うわー真面目ちゃん来たー。別に黙っていりゃぁ分らないからさ、止めとけ止めとけ」
「・・・?でも本部から頼まれてお前は此処に来たんだろ?」
「んな訳ねぇだろ?おんなだ。お・ん・な」
シャマルの言葉に家光は目を見開いた。
非日常に居すぎて、日常が何なのか分らなくなっていた。
それはそれなりに感じていた。
だけど、これって、否、でもこれは・・・当たり前だろう。
このショック感は自惚れ(うぬぼれ)か?それともシャマルよりも日常にいるという見下しか?
この感情を初めて知ったのはいつからだろうか?良く分らない。
ある人は『行動から恋が始まる』と言う名言を発した。
『私はこんなに彼を見つめている!という事は私は彼が好きなんだわvV』って。
きっとそれに近いのかもしれないし、ただの勘違いかもしれない。十代の時から居たから弟感覚・・・下手すれば息子感覚なのかもしれない。
そんな感情だと必死に抑えていた。でも、薄々違うなーと何処かで思っていた。
その何処かの思いが高ぶっていって・・・きっと『俺はコイツの事をこんなに思っている!(あるいは)大切にしている!っと言う事は俺はコイツが好きなんだ!!!』って感じなんだろう。
きっと自分もこんな気持ちだからシャマルも同じだろう、そう思っていた。
だけどシャマルは普通で、女性とよく付き合って・・・それが本当の気持ちか分らない。でも、それが普通で・・・。
家光は慌てて視線を通行人へと向ける。
変わらない。
そう思うけど、もしかしたら家光の様にまさに今、非日常の人もいるのかもしれない。
でも家光の目からは全然分らない。皆同じ。日常の中でいつもの生活をしている様にしか感じなかった。
それが何故か羨ましく感じた。誰か助けてくれても良いのに、と勝手な事も考えた。
「どーしたんだよ?」
シャマルの声に苛立ちが含まれていた。家光は無理矢理笑みを浮かべているが、自分でも分かっていた。
完璧に笑えてない、と。
それでも今は作り笑顔でも良い、笑顔を浮かべないとイケナイ気がした。
「ん〜別に?」
家光そう言うと立ち上がった。シャマルに背を向けて、左手を上げて肘を右手で押さえながら背筋を伸ばす。
「さぁって行こうか?それともそのまま、女性の所に行くか?」
少し冷たく言い放った気がした。多分実際にそうしていたかもしれない。
音が激しい。これが日常?
きっと当人達は他の声が聞こえてないのだろう。
自分だけの世界。相手との世界。
その音が映像が、激しく飛び交う。
これはテレビじゃない。
前も後ろも、右も左も上も下も世界が一秒ごとに違う。
音だって全部が違う。笑う人間もいれば泣いている奴もいる。似た様な会話なのに絶賛していたり批判していたり・・・。
変わらない。そんなの有り得ない。
相変わらずに道を歩む人々を見ていると、人の会話を聞いていると、変わらない気がして仕方ない。
でも、時は流れていて。
当たり前な事に酷く胸が苦しむ。まるでこの真実を知っているのが自分だけじゃないか?と思う程に。
時が流れて、気付けば細くて白い手は俺の元から離れた。
時が流れて、あんなに差があったのに、いつの間にか背が7Cm差になっていた。
時が流れて、あの細くて白い腕は成人の逞しい腕になっていた。
時が流れて、少年は大人になって女性に興味を持ち始める。
時が流れて・・・・
俺はお前に恋をしてしまった。
変わって欲しい。
女性ではなく俺だけを見て欲しい。そんな醜い欲が家光の体を、脳内を駆け巡る。
シャマルは声の変化に気付かない様に「そうだな」と答えた。
「女に報告して愛と言う名のご褒美貰わないといけないしな〜」
(何故気付かない?) (それで良いんだ)ま逆の二つの思考が現れた。
(どっちも言わない様にする)とう言う己の思考さえも今は五月蝿く感じた。ましてや周りの声はもっと五月蝿く感じる。
これが日常で、当たり前で、それを受け止めようとしない自分。これは逆キレだ。それでも心の中で叫ぶ。
五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!!!
その言葉を心の中で発する度に酷く心臓を痛ませる。それでも今、此処でそれを爆発出来ない。
シャマルに迷惑はかけたくない。それだけの思いて。
「今日は有難うな。そんじゃデートがんば――――」
「でも今日は童貞で落ち込んでいるお前に付き合ってやるよ」
音が、映像が、急に消えた気がした。
シャマルはそう言いながら家光の肩に手を回して来た。それに家光はつい体をピクついてしまった。
それを見て誤解したシャマルが「図星〜♪」と嬉しそうに声を弾ませた。だけど家光はそれところではなかった。
家光は驚き顔でシャマルの方を見つめてしまった。それにシャマルはつい身じろいでしまった。
「なんだよ?」
その声に家光はハッと我に返り一気に顔が真っ赤に染まりあげてしまった。
「いや、別に・・・」
「なんだよ、気持ち悪いなー」
己の鼓動とシャマルの声が異様に響く感じがした。家光は一生懸命に周りの声や音に耳を澄ました。
さっきと変わらない。いつもと変わらない。
家光は疑問に浮んだ言葉を言う。
「女性のところに行くんじゃないのか?」
シャマルは「はぁ〜」と溜息を吐く
「かなり落ち込んでいる可愛そうな男見ているとつい、ねぇ?」
「そんなに落ち込んでいたか?」
「当たり前だ。背中から哀愁が漂っていたぜ?」
哀愁?!家光はまだ(別の意味で)驚いてしまった。シャマルはニヤと笑いながら両腕を頭の裏で組んだ。
「それに、お前が落ち込んでいると俺の気が可笑しくなっちまうんだよ。お前は馬鹿にハイテンションでお節介な程にちょっかいを出すうざい奴なんだからよ」
シャマルのフォローになっていない言葉につい家光は「ぷっ」と噴出し笑った。
離れていない。
俺の思いは完璧に通じてないかもしれない。それでも、俺の事を思ってくれる。完璧じゃなくても、こんなに心を温めてくれる。
それだけで嬉しくて。
今でも伝えた時の非日常が怖く感じる。
でも、いつかはそれが『日常』になるだろう。
「ありがとう、シャマル」
俺はこれを『いつかは変わってしまう、今だけの日常』と名付けよう。
家光とシャマルは周りに溶け込み、日常の流れに乗った。
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@言い訳@Fantasmagoria⇒(光や音などが)めまぐるしく変わること・混乱していること・走馬灯
なんか、無駄に長くなってしまいました・・・そして家光さんがかなりブルーな話で、シャマルさんがかなりKYなキャラにorz家光さんだってブルーな時くらいある!と言う話ですよ・・・多分。家光さんのブルーな時ってなんか哲学的ぽそう・・・個人的に・・・あるいは恋した人の細やかな事とか・・・うん。
では色々とスイマセン。失礼します。平成22年7月11日
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