花々が咲き誇る季節は過ぎ、
熱に焼かれる季節は過ぎ、
色葉が舞う季節は過ぎ、
白き氷が降る季節は過ぎ、
今、此処に立っている。
季節は巡り・・・
それでも、立ち止る事はない。
後ろを振り返る事はない。
そう教えた人達がいたから。
今も前へと歩き続ける。
Time Limit
イノセンスを発見して、その後始末も終えて科学班はようやく忙しさから解放された。
誰もが安堵をして、誰もが睡眠に向かっていた。なんだって今回は被害が少なくイノセンス回収が出来たのだ。
リーバー・ウェンハムも本来ならそれに安堵をするのだが・・・溜息をついてしまった。
「なぁーに溜息吐いているんだよー」
後ろから声がしてリーバーはつい身を震わせた。慌てて後ろを振り向こうとしたが、相手の乗っかる方が早かった。
くすんだキャラメル色がリーバーの目端に見えた。声からして気付いていたがそれで核心へと変わった。
キャラメル色の髪を持つマービン・ハスキンだ。リーバーの肩に顔を乗っけ口を尖らせながら「縁起わるー」と言葉を続けた。
まぁ確かにそうだろう。なんだって『平和』な時に場違いな溜息なのだ。しかもリーバーの表情から『安堵の溜息』とは考え難かったのだろう。
マービンは人の感情を読むのが誰よりも上手い。それは専門が心理学だからと言う事もあるが・・・恐らく育ちからなのだろう。確かマービン自身そんなに身分はよくなかった筈だ。
そう思っていたリーバーの背に一段と重みが増えた。
「本当だぜー?普通そこは歌うだろ?そしてボンバーだろ!!」
間違いない。リーバーの背の上・・・恐らくマービンの上に乗っている相手はジジ・ルゥジュンだ。
意外にも真ん中に挟まれているマービンがキツク・・・「ちょっ、ルゥ先輩!重いです!」とリーバーの背を叩きながら訴える。こっちも重いのですが・・・。
ジジは「あははっ☆すまねーな」と言いながら降りた。その次にマービンも降りる。
「意外にこーいうのって真ん中がキツいんスからねーって毎回言っているじゃないスか!」
マービンはジジを咎める。それもその筈だ。重さではリーバーがキツいのだが・・・それでも腹を机につけていないため、息は確保されている。
だがマービンの場合は腹ごとリーバーの背に付けている。そのためジジの圧し掛かりに腹が圧迫するのだ。
リーバーは毎回そのやり取りを見て『その前に俺の背に乗らなければ良いんですよ!』とツッコミを入れる。
だが今日は違った。
――――何時からマービン先輩の背を越えてしまったのだろうか?
この中で一番小柄なのはマービンである。その次に差をつけてリーバー。少しだけジジが大きい。
黒の教団本部に来たばかりの時はまだリーバーはマービンよりも背が低かった。確かマービンの背と同じになった時に『背〜縮め〜』と何故かリーバーが寝ている時に唱えられていた。
当時はそれで魘されていて最悪だったが・・・今思えばそれは楽しい思い出だ。
「どうしたんだ?」
ジジがリーバーの顔を覗きこむ。
リーバーは愛想笑いを浮かべる。
「昔の事を思い出しましてね」
「おいおい、それこそ縁起が悪いぞ」
マービンは眉を顰め言う。これをシリアスだと受け取ったらしい。ジジも真面目な顔になる。
いつもそうだ。リーバーが一人思い悩んでいる時、いつもこの先輩二人は真面目に聞いてくれる。
リーバー自身若く来過ぎて周りに嫌われていた。そんなリーバーに親しい人はいなかった。支部の時も本部の時も・・・。
この二人だけだった。話を聞いてくれるのも、笑わせてくれるのも。それは恐らくマービンがリーバーの教育係で、そのマービンの教育係がジジだったからだろう。
このサークルが今にも続いて、リーバーが教育係をしたジョニーとも二人は仲が良い。
とにかく先輩達とは無二にない仲間であり友達関係とも言える。
――――これは自分が決めた事なのに・・・
なのに何で先輩達の前で、こんなにも胸が潰れる様な思いがするのだろうか?
「先輩」
リーバーが黒の教団に来たのは『世界の為』とか『復讐』とかではない。リーバーは一種の鬼才であった。一度聞いた知識や読んだ知識などはすぐに覚え、若くして大人顔負けの天才となっていた。
それを知った地元の宗教の神父がリーバーを黒の教団に渡したのだ。
だから最初は右も左も分らぬまま仕事をし続けた。
――――最近なんだ
やっと自分がこの仕事をする理由を見つけたのは。
きっかけは最近発覚した第二のエクソシストを作る計画が表沙汰になった事だった。
最初それを聞いた時リーバーは衝撃を受けた。まさか黒の教団が・・・ましてや同じ場所でそんな事が行われているとは思ってもいなかったからだ。
これではAKUMAと同じではないか。不意にリーバーはそう思った。更に衝撃を受けたのはその被験者のほどんとがリーバーよりも歳下の押さない子供達だった事だ。
大人だったら良いのか?っと言われたらよくないが・・・それでも黒の教団は幼い命を何とも思わぬ様に実験を続けていたのだ。
その内容の書類を読んでリーバーは吐き気を覚えた。数日もその事実が頭から離れなかった。聞いた事もないのに幻聴すら聞こえてきた。
リーバーはもう二度人体実験を行わせたくないと思ったのだ。だからこの道を選んだんだ。
リーバーは二人の先輩を力強く見つめた。
「俺は班長になります」
その言葉に二人の先輩は目を見開きリーバーを見た。『信じられない』そんな文字が見えそうな程だった。
少しの間沈黙した後にマービンは急に笑い出した。
「あははっ!その話面白いな!ここじゃなんだし、違うところで話そう」
マービンは笑い混じりにそう言うが目は笑っていなかった。当たり前だ。
元から笑える内容ではない。ただ内容が内容なだけに此処で話す事ではないと判断したのだろう。
マービンに促されるままに科学班フロアを出て人気のない廊下へと入る。そこで改めて三人は立ち止まりお互いに向き合った。
「本気なのか?」
リーバー自身は22と言う若さだ。それでもマービンとジジはそんな若いリーバーが 『班長候補』の中で有力である事を知っていた。
若さから考えれば難しい筈だが、リーバーの実力は本物であった。頭の良さも、マービンやジジと接していた事もありそれなりのリーダーシップもある。
恐らく候補の中で一番有力なのだろう。だがなにぶん若すぎる。科学班班長は科学班だけではなく、室長補佐役でもある。
仕事の量は半端なく・・・いや、そんなの問題じゃない。
今はその室長すら若く、更に室長よりも3つ若い22と言う若者が科学班班長になった時の科学班班員の反発が問題なのである。
どんだけ実力があろうと年下に上を立たれて好い気はしない。反発での精神不安定が心配なのだ。
先輩二人は知っていた。リーバーは一人思い悩む事が多い事を。きっと科学班班長になれば今までよりもはるかに嫌われるだろう。
嫌われるならまだ良いかもしれない・・・下手すれば恨まれて死に追いやられるかもしれない。
そんな心配を他所にリーバーは先輩二人を強い眼差しで見返した。
「本気です」
静かにそう言った。
その言葉にマービンは手や体が振るえた。息が上手く出来ないのか口で息をする。マービンは落ち着こうと震える手で額を押さえた。
それと対象的にジジはただ落ち着いた目でリーバーを見つめていた。
「お前はまだ若いんだぞッ!!」
マービンは声を荒げて言った。前かがみでなおかつ顔を覆い隠すように手があるためどんな表情かよく分らなかった。
マービンの反論も確かだ。
「分かっています」
「分かっていねぇだろ!!お前は知らないだろうが、上に立つと言う事は上から叩かれ下からも叩かれて・・・とにかく、心身ズタボロにされるんだぞ!」
マービンの言いたい事は分る。きっとこの若さで班長になれば周りから精神的にも身体的にも追い詰められるだろう。
リーバーはマービンを見据え声を震わせない様に気をつけながら言った。
「知っています」
「知らねぇだろ!!」
叫ぶ声が耳の奥に響く。ひりひりと痛んだがリーバーは手を耳に当てたい衝動を堪えた。
マービンの細い腕がリーバーの胸くらを掴む。
「俺はお前を死なせたくない!どんだけ頭が良くてもお前は精神的に弱いのを俺は知っている!そんなお前が班長になれば周りの精神的攻撃とか責任に耐えられるとは思えない!!」
そうかもしれない。恐らくこの若さで班長になる人の精神は異常なのかもしれない。きっとそんな人はよほど周りから信頼を得ている人か、人の非難の声を聞かずに己に自信を持つ強靭な精神を持っている人間だろう。
リーバーはどっちもない。仲間だってそう多くはないし、強靭の精神など持っていない・・・持っていたらきっと『こんな人体実験を起こさせたくない』と思わないだろう。
それでも・・・。
「それでも俺にはやり遂げなくてはならない事があるんです」
AKUMAを倒す為、世界を救う為、そんな壮大な理由でどれだけの人の命を奪ったのだろうか?リーバーには想像出来なかった。
いや、少し前までそんな事を考えすらしなかった。それでも勝つ為には・・・と思っていた。
だが資料を見てそうも思えなくなった。
――――あれは人が行える実験じゃない。
痛みに泣き叫ぶ声を通り越して咆哮の様に叫ぶ声。血塗れな体。
届かない。届かない。誰にも届かずにその実験は静かに終ろうしていた。
そんな事を許して良いのか?
いや、良い訳がない。
リーバーの眼差しには『それを繰り返してはイケナイ』という使命感に満ち溢れていた。
それを見てマービンは歯軋りが鳴る程に歯を噛み締めた。
今まで黙って後輩二人を見ていたジジが歩き出し、胸くらを掴むマービンの手首を掴んだ。
「お前がギャーギャー言った所でコイツの意思は変わらねぇみたいだぜ」
ジジの口元に笑みがあり、目で『だろ?』とリーバーに問いかけた。それにリーバーは笑みを浮かべ頷いた。
それを見たマービンは胸くらを掴む手を離した。マービンは気まずそうにリーバーから視線を反らす。
「有難うございます。マービン先輩」
きっとマービンの言葉が誰もが思う事だ。リーバーは精神も弱いし、何より若い。
それでも、前に進まなくではならない。
立ち止ってはイケナイ。
その後リーバーは確実に班長になる事になった。班長になるっと言っても室長室の様に部屋がある訳でもない。ただ仕事が多くなり、時には部下に指示を仰いだりするのだ。
今日のリーバーは酷く落ち着きがなかった。書類を書いている途中でも時計をしきりに気にしていた。
後少し・・・後少し・・・。
班長になると決めた時から覚悟はしていた。だが、いざ班長になると思うと胸が潰される様に痛むのだ。
ついリーバーは溜息を吐く。
「なぁーに溜息吐いているんだよ!」
その声と共に背に重みを感じた。マービン・ハスキンだ。マービンはリーバーの耳元で笑い混じりに「縁起わる〜」と言った。
続けて更に重みが増した。
「本当だぜ!此処は普通は祭りで盆踊りだろ?神輿だろ?浴衣のねぇちゃんだろ!!!」
「うぇ・・・ちょ!ルゥ先輩重いです!どいてください!!」
ジジはマービンの訴えを聞いて「仕方ない」と言って降りた。マービンも即座に降りた。
「毎回毎回言いますけど、中部の俺はキツいんスからね!」
「へいへい」
マービンの言葉にジジは耳の穴に小指を突っ込みながら気のない返事をした。それにマービンは可愛くもないのに頬をプクゥと膨らませる。
リーバーはそれに笑いながら時計を見た。
その直後に聞きたくなかった鐘の音が鳴った。
――――あぁ、時間が――――
Time Over
もう少しだけ時間が欲しかった。不意にそう思ってしまった。
「班長おめでとうございます」
そんな声が頭上から聞こえた。見上げればマービンがいつものヘラヘラ笑顔ではなく作り笑顔を浮かべていた。
「私達はリーバー班長を応援しております」
馬鹿丁寧にジジが続けて言う。
親愛なる先輩二人から敬語で言われてリーバーは胸が潰れる様に痛むのを感じた。
――――もう戻れない。
リーバーは悲しみに顔を歪める。そんな自分に気付き笑顔を無理矢理作る。
「有難う」
ございます、も入れるところをグッと押さえた。
あのふざけ合いももう出来ない。さっきまで行われていた恒例のくだりも、もう聞けない。
リーバーは先輩だった二人の顔がまともに見れずに下向きに答えた。
――――もう――――
リーバーの額が弾かれた。
その痛みにリーバーは額を押さえながら先輩だった二人の方を見上げた。二人はいつもの皮肉混じりの笑みを浮かべていた。
それにリーバーは意味も分らずにただただ目を見開いた。
「そんな悲しい顔をしないでくださいよ〜は・ん・ちょw」
「そうですよー。そんな事だと先が思いやりますねー」
リーバーは一瞬思考停止をするが、二人のいつもと同じ態度に・・・変わらぬ笑顔に不意に引き摺った笑みを浮かべる。
それから思考が少しずつ動き出して、気付いた。
――――あぁ、先輩達は――――
「ははっ、班長になって早々にコレか」
二人は何も変わらない。
否、変わらないでくれる。ただ言葉使いが違うだけで。
これからも、支えてくれる。これ程にリーバーを支えるモノはない。
季節は過ぎていく。
一生続くかと思った先輩後輩の関係も終った様に、この関係もいつかは終ってしまうかもしれない。
季節が巡り巡って行く度にそう思う。
でも振り向きませんよ。
此処に立っているのは過去にいるのは思い出であって先輩二人じゃないですから。
俺は次のTime Limitになるまで今を一歩一歩大切に歩む。
まだ一歩。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
@言い訳@リクエスト内容⇒『リーバーとマービンとジジで切ない話』
本当に遅くなってスイマセン!(ド殴;『遅くなる』のレベルが違うだろ!!)半年以上も溜めて本当にもうし訳ございません・・・しかも切なくもない話で・・・orzきっとこの三人にとって切ない時は『リーバーさんが班長になる瞬間だろうなー』と思っていたので・・・。
本当に遅くなって申し訳ございません。
お気にめさめませんでしたらバンバンっと言ってください。
色々とすいません。失礼します。平成22年8月5日
背景画像提供者: