誕生日。
それは、一人の人がこの世に生れ落ちた記念日。
人々はその日になると、その人に『おめでとう』と言って生まれた事をお祝いする。
なのだが・・・
俺が持っているのは血の様に真っ赤な液体が入ったポトル。横にはその液体よりも綺麗な赤い髪の男性が、ふんぞり返って縦長いすに座っていた。
男性の名はクロス・マリアン。
何故俺はクロス元帥に酒をついているのだろうか?
【Birthday of Reever Cross Version】
遡る事、数十分前。
科学班フロアはいつもの様な活発さはなく、誰もが睡魔と戦っていた。リーバーも徹屋4日はしていた為、周りと同じく戦っていた。
そんなウトウトな科学班フロアに、どんな目覚まし時計よりもファンキーな人物が現れたのだ。
眠気でウトウトしていた科学班班員の誰もがその人物を見て、眠気が吹っ飛んでいた。
だがリーバーの席は科学班フロアの一番奥の、しかも入口に背を向けている状態だ。だからその人物が真後ろに立つまで気付かなかった。
「よぉリーバー」
声をかけられてリーバーはハッと息を飲み後ろを振り向いた。紅い長髪の先が見えた。黒い服がよりその赤を目立たせていた。
リーバーは恐る恐る上を向く。予想の通りの人物がそこにいた。
「ク、クロス元帥・・・」
改めて名にすれば、改めて此処にいるのが可笑しい人物だと思った。
でも実際にはいても可笑しくない訳だが・・・なんだってクロスはエクソシストになる前は科学班班員だったのだから。しかし、クロスが科学班に居た時期にはまだリーバーは支部にいて、本部に行った時にはエクソシストだったのだ。
だからクロスが科学班フロアにいる事が不自然でならなかった。
しかも今日のクロスは機嫌が良い様で、口端が上がっていた。
「聞いたぞ?今日はお前の誕生日なんでな」
「え?」
リーバーはついマヌケな返事をしてしまった。
誕生日?
リーバーは机の上にあるミニカレンダーを見る。時間間隔がなくなりやすいからっとジェリーから貰ったカレンダーだ。一応カレンダーには一日過ぎたら×を付けている事にしている。
×は6日に付けられている。次に時計を見る。時計は余裕に12時を過ぎていた。つまり、仕事をしている合間に7日は終わり、8日になっていたって訳だ。
――――でも何故クロス元帥が俺の誕生日を?
クロス元帥の性格上、人の誕生日など覚えないだろう。仮に覚えていても祝う事はないだろう。
――――しかしあえて話題に出すって事は・・・もしかしたらクロス元帥は純粋に俺の事を――――
「今日はお前の誕生日だから俺の言う事を聞け」
――――・・・・・ですよねー
リーバーは密かに滲み出る涙をソッと人差し指で拭ってから、クロス元帥に改めて向き合う。
「あの・・・何で俺がクロス元帥の言う事を聞かなきゃイケナイのです?」
「あ?決まっているだろ?今日はお前が生まれた日なんだから周りの奴等に感謝するのは当たり前だろ」
確かにリーバーはその考え方を持っていた。誕生日は祝ってもらう為、って言うよりも周りに感謝する日っと。
だが、それはそれ。
「感謝する日と言うのは認めますが、言う事を聞く日っというのは納得いかないッス」
「テメェーが納得するとかしないとか関係ねぇんだよ。俺がしたいから言ってるんだ」
――――この人は・・・
リーバーはつい長い溜息をついてしまった。
何を言っても無駄なのだ。この人は・・・だが此処で反論しなければクロスの奴隷になってしまう。
『絶対嫌です』そう言おうと改めて前を向く。それと同時に額辺りからカチャッと音がした。目の前に銀色に光る物体がある。
断罪者。クロスのイノセンスであろう。クロスはニタァと悪い笑みを浮かべていた。
「受けるよなぁ?」
リーバーは両手を小さく挙げ「喜んで・・・」と全然喜んでいないが小さな返事をした。
そう言う訳で現在・・・リーバーはクロスの部屋で酒をついていた。
――――今日、本当に俺の誕生日だっけ?
リーバーは涙目になりながらフッとそう思った。
嫌いなタバコの臭いと酒の臭いが充満する部屋。クロスの豪快な笑い。
「クロス元帥・・・」
「あぁ?なんだ?」
「俺って本当に・・・科学班班長なんですよね?クロス元帥の奴隷ではないですよね?」
「奴隷とは侵害だな。これはいわば誕生日祝いだ。むしろ感謝して欲しいくらいだ」
「感謝できるか!!」
リーバーはつい持っていた酒瓶をドンと置いた。本当は酒瓶を叩き割りたかったのだが、そうする勇気がなく、少し強めに置くだけになった。このヘタレめ☆
だが例え酒瓶が割れてなくでもクロスの機嫌は損ねたらしい。クロスは断罪者をリーバーにチャッと向けた。リーバーはそれと同時に両手を挙げた。
「ほぉー?俺の思いやりを受け取れねぇのか?」
「何処が思いやりですか!どう考えても奴隷ごっこじゃないスか!」
クロスは眉を少し顰めた。それを見てリーバーは思考ではなく、本能で体を右へと避けた。
パンッと乾いた音が聞こえた。ツーと左頬から紅い液体が流れた。
「せっかく人が祝っているのに、その言い方はねぇだろ?」
――――アンタの言う『祝い』は人の誕生日を命日に変える事スか?!
ありえる・・・ありえるから嫌なのだ。
クロスはリーバーの引き攣った顔を見て、「クククッ」とくぐもった笑い声をもらした。
急に笑うクロスをリーバーは半ば呆然と見ていると、クロスは素早くリーバーの背に手をまわし、引き寄せた。
クロスよりも背の低い(しかも床に座っているのと椅子に座っている)ので必然的にリーバーの額がクロスの胸につく。
「誕生日おめでとう」
その声は低く、世の女性が聞いたら失神するであろう程の美声が、リーバーの耳に入って来た。
その声にリーバーはカアアァァと頬を紅く染めた。
クロスはニヤッと笑いながらリーバーから手を離した。
「マヌケ面だな。お前に今から誕生日プレゼントの二択くれてやる」
「はぁ・・・」とリーバーはついマヌケな相槌(あいづち)を打つ。
「一つ目はこのまま俺の奴隷をするか」
「それは絶対嫌です!」
「二つ目は俺に抱かれるか」
まさに究極の(選択と書いて『じごく』と読む)プレゼント。
奴隷でも抱かれるのも一日を犠牲にする選択だ。脱出策であっただろう二つ目は結局、腰を痛めて一日・・・下手をすれば1週間は腰痛に苦しむ事になる。
奴隷は有無を言わずに酒をつぎ続けたり、あんな事やらこんな事やら・・・あれ?
――――って、一つ目は必然的に二つ目も含まれるのか?!
リーバーは恐る恐る手を挙げた。
「あのぅ・・・一つめの奴隷って・・・二つ目も入ってません?」
「良く分ったな」
「やっぱしそうなんですか?!」
そしたらより被害がない方を選ぶ主義のリーバーにとって、必然的に選択肢は一つしかなくなっていた。
「二番目で・・・」
「あ?二番目って何だよ?」
「だから二択の内の二番目を・・・」
クロスは人の悪い笑みを浮かべる。リーバーの笑みを見て青ざめた。
――――まさか・・・
「内容を言ってくれねぇとなぁー」
「やっぱし!」
――――そういう人間なんだよな・・・クロス元帥って・・・分かってましたよ・・・分かってましたとも!
リーバーはやり場のない怒りに震えていた。だがクロスはそれを気にせずに「10秒以内に言えよ。はい、いーち」と絶望のカウトダウンが始めていた。
しかも異様にそのカウントダウンが早い。明らかに本来の1秒が3秒になっている。
リーバーは慌てて前を向き言葉を発する。
「ク、クロス元帥に抱かれる方をお願いします!」
「誰がんな言えって言った?『抱いてぇ、クロス様vV』って言えや」
そんな事(=内容を言え)を言えと言ったのは貴方ですよ。そしてアンタはそんな事を徹屋4日目の、もはやゾンビさながらの野郎に言われて嬉しいんですか?
そんな疑問というよりは悪態に近い思いを心の中でグルグルと回していた。
リーバーは大きく息を吐いて、意を決して顔を上げた。
「俺を抱きしめてください、クロス元帥」
「抱きしめてじゃねぇだろ?」
「う・・・お、俺を抱いてくださ・・・い・・・クロス元帥・・・」
クロスは不服そうに「フン」と鼻をならした。
「ま、今日はテメェーの誕生日だから許してやるか」
「はぁ・・・」
――――誕生日だったらソッとしていて欲しかった・・・。
リーバーがそう思った時クロスはリーバーの白衣のむなくらを掴み、ベットの上へと力任せに引っ張った。
「それでは頂くか」
クロスの麗しい笑みが目の前にあった。
最低最悪の誕生日・・・でも、まぁ、たまには良いか・・・
――――って思えるか!!!
その後結局リーバーは2日程腰痛で休んだ事は言うまでもない(しかも仕事を自室に持って言って婦長に怒られた)。
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@言い訳@
リーバー班長、誕生日おめでとう☆(ド殴)ごめんなさい!もう既に1ヶ月以上経過してますね・・・本当スイマセン!ネタは考えてた(勿論オチは決めてません・・・)のですが、なんか残念な話で・・・本当にスイマセン!
改めてリーバー班長誕生日おめでとう!では色々とスイマセン。失礼します。平成22年10月16日
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