ねぇ、ルートって恋人みたいじゃない?
【Route】
室長室という広い空間の中、二人きりだと言うのは分かっていてもリーバーはつい周りを見回してしまう。
そして誰もいない事を確認すると言葉を発した上司であるコムイに視線を戻す。
リーバーは眉間にはしわが寄せながら言った。
「何を突拍子もない事を言うのですか?」
「突拍子じゃなかったら、そんな可愛い反応見せなかった?」
コムイはクスと笑う。それにリーバーはついムッとしてしまう。
そんなリーバーの反応を見てコムイはクスクスと笑った。いつだってからかわれるのはリーバーなのだ。それに慣れている筈なのに、フッとした瞬間に振り出しに戻る。
コムイは一枚、紙を取ると、その空いたスペースに記号を書く。
『√』
数学を専門にしているリーバーにとってルートは基本中の基本で、もう既に何百回何千回何万回と見てきた記号だ。改めて書いて見せなくてもすぐに分かる。
コムイはルート記号を丸でグリグリと何度も何度も囲む。
「知っているだろうけどさ、ルートって中の数字を累乗にした時に出る同じ数字二つを一つにして外に出すんだよね」
例えば√8。8は一番小さい数、2が3回かけられている。つまり2×2×2。
2が3つある内、2つ(2×2)がルートの外に出す事が出来る。その時その2×2は重なり『2』として表に出るのだ。
だから答えは2√2になる。
つまりコムイはその2√2の外に出た『2(2×2)』が恋人みたいだと言っているのだ。
そんな発想豊なコムイにリーバーはつい溜息が吐く。それを『理解した』と悟りコムイは嬉々して身を乗り出した。
「ね!恋人みたいだよね!なんか、二人が一つになって外に飛び出す所とか!まるで駆け落ちみたいだよねー」
「アンタ、まさか仕事中そんな事を考えていたんスか?」
「も、勿論仕事はしていたよ!」
「していた、ですかー」
リーバーは棒読みになりながら高く積もった書類の塔に目を移す。
どうみても1時時間前と変わらない。つまり仕事をしていなかったという事だ。コムイは「アハハ」とリーバーから目を反らしていた。その顔には冷や汗が浮かび上がっていた。
どやら図星らしい。最初から分っていた事だが・・・。
「仕事してくださいよ」
「もぅ!リーバー君はロマンがないよー」
「室長は現実が足りませんね」
リーバーはつい言葉にしたが、コムイのさっきまでのふざけた顔から現実の顔に戻る変化を見て後悔をした。
いつもそうだ。ついムキになって言葉を選べない。知っている筈だ。この人は常に現実に生きなければイケナイ人物だと。
ついさっきまで現実ではないところにいた。なのにそれを呆気なく壊したのだ。
コムイは苦笑いを浮かべた。
「そうだよね」
コムイは一言そう言うと、ググッとのびをする。
リーバーはもうそろそろ戻らないとイケナイと気付く。班長が長く班を付けている訳にはいけない。
リーバーは引っ掛かりを感じながら「俺はこれで」と行って背を向けた、その時だった。
「僕たちも外に出れるかな?」
リーバーは一瞬目を見開き、後ろを振り向こうとしたが、コムイが見えない半端な角度で止めた。
振り向いてはイケナイ。不意にそう思ったからだ。
リーバーは弱い自分に心中で舌打ちをした。そして数拍置いてから返事をした。
「出れますよ」
ただ一言。そして何もなかった様に室長室を出て行く。
扉を閉じる瞬前、醜い己は室長室を覗いてしまった。
コムイは目元を組んでいた手の甲で押さえていた。その口元の笑みを浮かべて。
それに安堵をしてから扉をゆっくりと閉めた。
きっと出れる。ルートの外に。否。
「俺がアンタの事をどう思って居るか、それを知って言っているなら―――酷いスよ」
出させる。リナリーとアンタを、ルートの外に。
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@言い訳@
悲しい!(ド殴)可笑しいですね・・・ほのぼのの話になる予定だったのですが・・・未満の悲しい話にorzフッと『コムイさんならリナリーだな』と思い、気付けばそんな話が出来上がってしまいましたorz明るい思考を誰かください!(殴)
では色々とスイマセン。失礼します。平成22年12月11日
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