もしも、それを「愛している」と言うならば


 俺のこの思いは「愛している」とは――――言わない。


 でもその単語を呟いていると酷く心地が良いんだ。


 それは本当。



愛していない悲恋とか



 なんとなく空を見上げてみた。

 そうしたら青空が広がっていた。でかい雲の固まりが動いちゃってる。

 白い俺はそれを見て静かに笑みを浮かべた。

 そーいえば、いつもリーバーと一緒に町に出る時は晴れか曇りで、雨など降った事はなかった。


「ティキ、何をしているんだ?」


 怪訝そうに当の本人であるリーバーが少し先で振り向いていた。俺はニッと笑い、リーバーに飛びつく。


「別に、なんにもしてないさ」


 街中という事もありリーバーは慌てて俺を剥がそうとする。でも残念!俺の愛はどんな事でも離れないのだー!

 イヒヒと笑いながら空を見上げた。




 青い。青い、空がある。

 その少し下で雲が流れている。リーバーはそう言っていた。でも何となく俺は空の上に雲があって空に乗って流れているって感じがしているんだよな。

 でも、空の下に雲があるというのはなんとなく分る・・・とにかくそんな事を考えていると頭が痛む!

 科学班フロアに忍び込み、うっかり仲良くなってしまった俺。リーバーは勿論俺がノアとは知らなかった。ただ部外者というのは分かっている。

 だから『秘密の話し相手』だった。実際にリーバーの話を聞いていると楽しい。学がない俺でも分かり易く教えてくれるし、俺はイーズ達との話をしていて、リーバーはそれを酷く喜んだし。

 お互い知らない事を話して、お互いに楽しんでいた。

 今、少年Aとかの情報で俺の正体を知っているだろう。でも、知らないフリをしている。

 本当に知らないんじゃないかって?そりゃぁないよ。だって触れる度にリーバーの体が微かに震えるもん!

 うわー嫌われ?でも別に良いんだ。周りにエクソシストや探索隊の気配がないから。あったら、とりあえず半殺しはしてたな。殺しはしないさ。

 情が沸いたから?いんや、違う。忘れないで欲しいから。

 忘れる訳がないだろう。でも、なんとなく、そういう理由にしたかった。




 リーバーが黒の教団に来てから行っているという本屋に向かった。だけど、本屋はなくなっていた。誰が見ようと空き地だね。

 訊けば、そこの本屋の亭主がもう歳で手放す事になったらしい。それを聞いてリーバーは笑みを浮かべ「そうか、もう歳だったもんなー」と呟いて空き地を見つめていた。

 その笑みが酷く悲しいものだったから俺も一緒に空き地を見た。見つめながらソッとリーバーの手を握った。そうすればリーバーは正直に握り返してくれた。




 平和とか責任とか聖戦とか、そんなの手を挙げて『やーめた!』と言えればどれだけ幸せだろうねー。

 正直最初の二つは俺にとっちゃ関係ないんだけどねー。でも、聖戦?それが一番な訳だろ?だって俺は千年伯爵の命令に逆らえない訳だし。千年伯爵の敵は黒の教団で、その黒の教団にはリーバーがいる訳だし。

 俺は別に黒の教団を壊したくない、とかそう思っていない。ただリーバーをなるべくだったら殺したくないなーと思っている程度。

 リーバーはきっと俺が敵だと知って酷く傷ついたんだろうな。そして迷ったんだろうな。

『言うか言わないか』

きっと、『また此処に来る』と言う立場だっただろう。でも、言わなかった。自分の罪を曝したくなかったか?それとも友情という不確かなものを壊したくなかったか?

お、俺今哲学的な事を言ってるな。なんか頭が良くなった感じ。

とにかく全部を放棄したい訳。あるいは、リーバーだけノアに入れるとか。きっと皆嫌な顔はするけど、それとも『勝手にすれば』って受け入れるかもしれない。

とにかく、リーバーがあそこにいても自由なんでない訳だし。ただ責任とかなんとかで潰されるだけだし。




「そういえば、半年以上も町におりてないんだっけ」


 公園のベンチに座り、近くのパン屋で買ったサンドイッチを食っている時だった。

 リーバーは口をモグモグさせながら空を見上げていた。


「そんなに外に出てなかった訳?」

「そうだな」

「うわー有り得えないって!俺だったら絶対に発狂しちまってる!」


 きっとあの無駄に高い塔を軽く半壊しにする。

 リーバーは空を見上げたままククッと笑う。


「お前はそうだろうな」

「お前は違うのか?」


 俺は訊いた後すぐにサンドイッチを頬張った。

 リーバーは俺の言葉に垂れた瞳を大きく見開いた。だがそれは一瞬ですぐに目を細めた。

 多分、リーバーの目には空など映ってないんだ。何か、遠くの何かを見ている。


「発狂は・・・しないんだろうな」

「だろうなって」

「だって俺は気付きゃあんな環境だった訳だし、そうなればあの環境は日常だろ?だから・・・発狂はしないだろうな」


 俺がノアになって人を殺し始めて、その人殺しをなんも思わなくなった様な、そんな感じだろうな。

 普通だったら何人か殺しただけで人は発狂するだろうけど、俺はもう何十人殺そうが、なんとも思わない。

 俺がリーバーの言葉に「ふーん」と短く返した為、そこで一旦話題が終って沈黙してしまった。

 一つのベンチ。俺が俺から見て左端でリーバーは右端。真ん中にはサンドイッチの入っていた紙袋が置いてあるが、それでも異様に間が空いていた。

 丁度ティータイム時で公園には誰もいなかった。

 食い終わると、俺は空を見上げた。青い空がある。その上に、あるいはその下に雲があって、雲がゆっくりと動いている。


「なぁ、ティキ」

「あん?なんだ?」

「・・・俺らって一体なんだろうな」


 俺はノア。リーバーはその敵の科学者。そんな関係だろうな。


「俺がエクソシストだったら一般的に言う『悲劇的』だったかな?」

「んーどうかな?もしお前がエクソシストだったら、悲劇的になる前にお前を殺してるぜ?あえて言うなら残酷的?」


 まぁ白い時はそう思わないが・・・でもさすがの白い俺でも、長時間エクソシストと一緒にいたらノアの俺が疼くんだよなー。

 だけどそこまで言わない。言う気にもならない。


「何?俺を捕まえて解体する気?」

「解体しても意味はなさそうだけど、実験はしてみたい気はする」

「うわーマッドサイエンティストだなー」

「そうか?まぁ俺も一応科学者だからな」


 リーバーは「あははっ」と空に向かって笑った。俺はリーバーの方を向かないままただ空を見ていた。


「それで?捕まえる気?」

「・・・いや、そもそも捕まえられないだろ?俺は運動不足の科学者でお前はノアなん・・・だからな・・・」


 そりゃそうだ。

 俺はクスッと笑った。

 空が動いているのか?雲が動いているのか?今この瞬間に誰か死んでいるのか?今この瞬間に誰かが産まれているのか?分らない・・・。


 俺とお前の関係は本当に駄目なのか?分らない・・・。


「なぁ、リーバー」

「うん?」


「愛している」



 リーバーがどんな表情をしているか分らない。見る気もしない。

数拍を置いてから「うん」と返事が返ってきた。


本当に愛しているのか?分らない・・・・。


「俺とお前は愛し合ってるのかな?」

「・・・さぁ。どうだろうな」

「でも愛している。なんか不意に言いたくなるんだよなー」


 これって愛し合ってるって事?それとも違う訳?

 俺はチラッとリーバーを見た。リーバーは青い空を見ていた。その顔は何処か遠く見つめていて、怒りも悲しみも感じられなかった。

 手にはサンドイッチが握られていた。三口くらいしか食べてなかった。


「食べないのか?」

「ん・・・帰ってから食おうかな」

「ふーん」

「食う?」

「じゃぁ貰おうかな」


 リーバーは空からティキに視線を移し、サンドイッチを渡してきた。

 それを受け取り、俺はリーバーが齧っていた場所を最初に食べた。その様子をリーバーはボーと見ていた。


「なぁ」

「返さないぞ?」

「いらねぇよ」

「何食欲ねぇの?」

「そういうのは貰う前に言って欲しいもんだ」

「スイマセンね。気遣いなくて」


 自棄気味に大きくサンドイッチを食らう。その様子を見てかリーバーはクスッと笑った。

 何処か距離を感じる。でも俺とお前は変わらない。きっと二人して確信に触れてるけど、それを何処か遠い国の話の様に触れているからだろうな。

 リーバーはベンチの背もたれに寄りかかる。


「なぁティキ・・・」

「何だよ?」

「俺はノアのお前なんか知らない。俺の知っているのは白いお前だ」


 白い俺ねー。俺はクスッと笑った。


「俺は科学者班長であるお前を知らない。俺の知っているのは寂しがりのお前だけ、とか言われたい訳?」

「・・・『寂しがり』というのは言われたかないけどな」


 だから他人事なんだ。

 でも、その他人事思考、俺は好きだぜ?そうしないと俺達の関係は壊れる。きっと俺もお前も心の半分が壊れるだろう。


「なぁ、俺らって愛し合ってるのかな?」


 関係ない事を呟いてみた。

 空と雲、どっちが上なんだろうな?どっちが流れているんだろうな?



「多分、一般的に愛してないと思う。きっとこの先も一般的に愛し合う事もないと思う」


「あははっ!」


 俺はリーバーの答えに体をくの字にして笑った。

 愛し合えないんだな!そうか、そうか!


「そうだよなー!」


 ベンチの背もたれに背を預けて空を見上げた。

 もしも、それを『愛して』いると言うならば、俺達は『愛して』いないだろう。

 もしも、それを『幸せな恋』と言うならば、俺達は『悲劇的な恋』だろう。

 分かってみれば、なんで身勝手なんだろうか?


「お前に一般論なんで通じないだろ?」

「そうだなー。通じないなー。だって俺は一般的じゃないもんで」


 俺は笑い混じりにそう言う。

 きっと俺達は一般的じゃないモノを『愛し』で『幸せな恋』と言うのだろう。

 俺はリーバーに体を近づけ、リーバーの口にキスをした。触れるだけの。


「敵なんで関係ない。お前が殺されそうになったら、迎えに行ってやるぜ」

「多分俺が殺されそうになる時は、お前等に殺されそうになる時だと思うけど?」


 ありえそう!俺はゲラゲラと笑う。リーバーもつられてクスッと笑った。


 もしも、それ(一般論)を『愛している』と言うならば


 きっと俺はお前の全てを壊すどうしようもない人間だろう。

 恐らくそれは一般論じゃなくでも合ってるし、分かっておきながら俺達は落ち続ける。


 これからも、ずっと
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@言い訳@
 これをハッピーエンドと言ってみる(ド殴)無駄に長いですし、意味が分らなくてスイマセン!なんとなく最初の文を書いていて『ちょ、なんか良いかもしれん!』と思って書いて結果がこれですorz何も考えずに書く小説の大半は最初の文が『おぉ!』と思ったモノです。大抵失敗します。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年1月12日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様