私はお前にしてはイケナイ事をした。


だからお前が私と距離を置くのは当たり前の事だ。


ゆっくりと慣らせば良い。


そう言い聞かせて。



Unexpected



 珍しく仕事が定時で終り、ロイはハボックに声をかけた。一緒にご飯でもどうか、と。期待などしていなかった。

 いつも通り『大佐と二人で?』と嫌な顔をするか『ブレタ達と一緒なら良いスよ』などを言うだろう。

 ハボックにしてはかなりの用心深さだ。それは昔ロイがハボックを食事に誘いながら、部屋で押し倒したのがトラウマになっているからだろう。正直ロイ自身もあれはどうかと思っていた。

 相手が初めての男、しかも完璧に女性恋人主義のハボックだから焦ったのだろう。なんだって当時はハボックに恋人が出来かけていたのだから。

だが今は違う。押し倒して次の日に告白をして、数日後には正式に恋人になった。なった筈、なのだが・・・どうもハボックはまだ警戒しているのか、食事に誘っても乗らない。

絶対に誰かと一緒になる。更にロイの部屋に行く事もない。無理矢理連れて行くものなら、殴られて蹴られて走り去っていく。・・・本当に恋人以前に上司か?と思いたくなる。

勿論ハボックの部屋にも行った事がない。たまに帰り道でソッと手を繋いだりキスをしたりするが、まぁ、それだけ。

恋人らしい恋人な事はしてない訳だが・・・まぁ仕方あるまい。しかしながら二人でバーでも行きたい。今はそんな事を思っていた。


「別に良いスよ」


 それはかなり先の事だろう、そう思っていたロイはハボックの呆気ない言葉に目を大きく見開いた。


「二人きり、だぞ?」

「知ってます」

「本当に良いのか?後で『やっぱ誰かを呼びます』とかなしだぞ!」

「・・・頑張りますよ」

「・・・頑張ってくれ」


 ハボックは「決まったら行きますか」と灰皿にタバコを押し付けた。タバコを見れば、かなり短くなったタバコが多くあった。





 多く人がいる酒屋に行く。騒がしい方がハボックは気楽であろう、ロイの配慮だった。

 ただお互い私服など持っていなく、軍服のまま入ったため、視線がささる。だがその視線も時間が経って、消える。

 ロイは久々に飲むビールをチビチビと飲む。それに対してハボックはググッと飲んでいた。


「お前は遠慮というものはないのか?」

「おごりの酒は飲むのが礼儀スよ!」


 ハボックは顔を赤らめながら更にビールをクイと飲む。しかし、これはさすがに飲むスピートが早い・・・普段よりも早いだろう。

 ロイは頬杖をつきながらハボックを見つめる。これは早く潰れるな・・・。


「前もって言う。お前がもしも潰れたら、私の家に来てもらうぞ」

「え、大佐の家にスか・・・?」

「そりゃそうだろ。慣れないお前の家に酔い潰れたお前を運ぶよりも、慣れた私の家に連れて行った方が効率的だ」

「あーそーいう事スか」


 ハボックはそう呟きながら更にビールを仰ぐ。本当に大丈夫か?

 それ以前に『そういう事』ってどういう事だ?何を想像していた?そう問おうと思ったが、ハボックが机に頬をついているのを見てやめた。

 どうやら酔いが回ってきたらしい。ロイはハボックにも聞こえる様に溜息を吐いたが、ハボックは気付かなかっただろう。




 結局、だ。結局ハボックはあのまま酔い潰れ、ロイは図体のでかいハボックの肩に腕を回し己の家まで連れて行った。

 こんな時、もっと背が高かったらと思うが、それは何時の間にか『ハボックがもっと小さかったら!』の怒りへと変わる。

 どんだけ愛していてもフッとした瞬間に相手に怒りを感じる。それは当たり前だし、それでも許せフォローできる者こそ、恋人で言えよう。ロイは少なくともそう思っている。

 とりあえず、ハボックを己のいつも寝ているベットに仰向けに転がす。毛布をかけようも、ハボックの下に乗っかっている布がそれだからかける事が出来ない。

 ロイは体を折り、ハボックの顔を真正面からジーと見つめる。ハボックは幸せそうに眠っている様に見える。きっと気のせいかもしれないが・・・とにかく大人しく眠っている・・・。

 目を細める。否、眠っていない。


「起きてるのか?」


 家に帰るまでは無言ながらもハボックは己の足で、フラつきながらも歩いてくれた。そうじゃないとロイは家までハボックを持て帰れない。

 だから家までは起きているのを知っているし、多分今起きていても夢と現の間くらいだろう。

 ハボックは「んん」と唸りながらロイに背を向けて寝返る。ロイは苦笑を浮かべる。まぁ、こんなもんだろう。

 かけるものを客室から取りに行こうと思い、出入り口に向かう――――その時に腕を握られた。

 振り向けば、ハボックが上半身を起こし、ロイの腕を握っていた。

 ハボックは口の両端を軽く噛み締め、空色の瞳を不安げに揺らしながらロイを見つめていた。酒の力か、頬が紅い・・・押し倒したい衝動が走るがグッと押さえる。


「何だその顔は?押し倒して欲しいのか?」

「・・・」


 ハボックはロイから視線を外し、俯く。握る手が微かに震えたがそれは一瞬で、ロイの腕をグッと握る事で必死に止めた。

 此処でだんまりされてもな・・・そう思いながらロイはハボックの握る手の上に手を置く。


「何もせん。怯えているお前と無理矢理ヤるのは、あの時だけで良い」


 ハボックの手が緩む。微かに手が震えのを感じたが、気付かないフリをしてその手を離す。相変わらずハボックは俯いたままロイを見上げない。

 山吹色の前髪が短いとはいえ、上からでは目元が見えん・・・ロイは眉根を寄せ見るが、何も変わらない。

だが、ハボックは何か言いたいのだろう、なんとなく口を微かに開いては閉じているのを繰り返しているのが見える。


「何か言いたい事があるようだな。今話すか、それとも私が毛布を取りに行ってから話すか・・・どっちがいいかまず言え」

「・・・今が・・・いいです」


 それを聞くとロイは少し離れた所にある長椅子に座り、ハボックと向き合う。座る事によってハボックの表情が見えた。

 意外にも『怯え』はなかった。眉を顰めて何か考えている顔だ。ハボックは顔をあげ、ロイを真っ直ぐと見つめた。

 さっきと違う、まっすぐとした瞳だった。



「俺、やっぱし大佐とこのままでいるのは駄目だと思います」



 ロイは眉端を一瞬ピクと動く。だが無表情のままハボックを見つめた。

 内心は必死に理由を探していたが、きっとあの夜の事だろう、とすぐに答えが出る。

実は言われる前からうすうすそう言われるのを想像していた。だから声を荒げる事もしなかった。

 ただ、心が痛むが・・・仕方あるまい。

ハボックはロイの反応に次第に目を大きく見開く。何も言わない、しかも無表情である事が意外だったのだろう。


「怒らないんスか?」

「何で私が怒るんだ?お前は別に悪い事を言ってないだろ?」

「・・・そうスね」


 ハボックは何故かムッと不服そうな顔をする。


「でも、これじゃ悩んでいた俺が馬鹿みたいじゃないスか?」

「そうか、悩んでいたのか・・・それは済まなかったな」

「・・・別に大佐が謝る必要はないスよ」

「いや、これは私の責任でもある」

「・・・別に大佐が悪い訳じゃないスよ」

「お前が私と別れたいのは私があの時押した――――」


「別れる?!」


 ハボックが身を乗り出して叫ぶ。さすがにロイは驚き、身を引いた。だがすぐ後ろは椅子の背もたれで、それ以上後ろには行けなかった。

 ハボックは我にかえり乗り出した上半身を引っ込める。ついてにベットに胡坐をかく。

 ロイはこめかみを人差し指で押さえながら、意見が食い違ってる事に頭を働かせる。


「別れる気はないんだな・・・」

「はい。そもそも、なんで別れる事になってるんスか?むしろそれにピックリです」

「私はそっちにピックリだ。なんだってお前さっき『このままだと駄目だと思う』とかなんとか言っていただろ?」

「それは!・・・俺がこのまま大佐を拒絶しているのが駄目だって言う・・・宣言と言いましょうか・・・」


 いや、そんな宣言されても・・・ロイはフッとそう思った。だがハボックのバツの悪い顔にその考えが吹っ飛ぶ。

 まさかハボックが拒絶している事を考えているとは・・・それ以前に・・・


「お前は別に私を拒絶していないだろ?」

「・・・いや、毎回食事とかも第三者がいないと行けないし・・・」

「それでも帰りは途中まで二人きりだ。しかもたまに手を繋いだりキスをしたりする」

「〜っ!そ、それは・・・まぁ・・・そうスけど・・・」


 ハボックの頬や耳がポワッと紅く染まる。それについロイは口元が緩みそうになる。ハボックはそれに気付いて眉をグッとつり上げる。


「何笑ってるんスか!」

「すまんすまん・・・つい、な」

「ついって何スか・・・だから俺、これからは頑張って食事とかも二人で行って・・・それで・・・できれば大佐の家まで行けたらなーと思いまし・・・て・・・」


 ハボックはそこまで言って己の下にあった毛布を引っ張り上げ、その中に身を隠した。っと言っても、丈が微かに短く、足が出ている。もっと言えば、頭を隠しきれておらず、綺麗な山吹色の髪が見える。


 頑張って・・・か。


 ロイは立ち上がると、ベットサイドに行く。そして隠しきれていないハボックの頭に手を置き、優しく撫でた。

 短い髪が指に心地よく刺さる。


「お前は・・・怒ってないのか?あの時、私が押し倒した事を・・・お前を抱いた事を・・・」


 体がブルッと身震いをした。やっぱし気にしていたか・・・否、しないのが可笑しい。むしろハボックが恋人になったのが不思議で仕方ない。

 ハボックの体が小刻みに震える。あぁ、やっぱし。ロイが目を細めた時だった。

 毛布が舞った。

 ハボックによって毛布を勢いよく持ち上げられ、ハボックの足元へと落ちていく。だが一瞬でそんな事気付く訳がない。ロイは呆然とその白い布を見つめた。

 だがその視線を許さないとばかりハボックの手がロイの左頬を触り、無理矢理自分の方へと向かせた。


「未だに気にしてるんスか!この馬鹿大佐!」


 馬鹿・・・って、ハボックはさっきの笑われた時とは違う、完璧に顔に怒りが浮かべられていた。

 馬鹿って・・・ロイは目を見開いたまま、口端を無理にあげる笑みを浮かべる。


「それって、あの事を許すって事・・・か?」

「少なくとも『付き合う』事になった時点で気付いて欲しいッス」

「いや、気付かん。正直気にしてるだろうとは思っていたが・・・」

「まぁ気にしてないと言ったら嘘になりますが、別に怒る程じゃないス」


 ハボックはロイから手を離し、困った様に頬を掻く。

 怒っていない・・・ロイは目を伏せハボックから視線をずらす。ハボックは何を考えているかよく分らないのだが、まさか怒っていないとは・・・。

 馬鹿だ。結局あの時と同じで今、焦ってる。ロイは口端が自然と上がる。怖いのだ。初めての相手が男、しかも相手は純粋に女性を愛する様な奴だ。

 ロイは「くく」と笑い出す。ハボックはロイの笑いに眉を顰める。


「何笑ってるんスか?」

「いや、お互い悩んでいた事は実は小さい事だったんだな、と思ってな」

「小さいって・・・まぁ確かにそういう感じでしたけど」


 納得いかないって感じでハボックはムッとする。ロイは口元を緩めながらハボックを改めてみる。


「キスしたいな」

「すれば良いじゃないスか」

「良いのか?」

「っ!そ、そりゃ俺は恋人様ですから!」


 恋人様って・・・ロイは苦笑いを浮かべる。ハボックの顔が酷く紅く、ロイから視線をずらしている。顔がぎこちなく、緊張しているのが一発で分る。

 本当に可愛い奴め・・・ロイはそう思いながらハボックのコツコツとした、お世辞にも綺麗と言えない手を取りキスをする。

 そうすればハボックは更に顔を赤くして口をバクバクさせた。本当に可愛い奴め。


「今、すごく思いかけなく幸せだぞ」

「・・・そうスか」

「あぁ」


 抱きしめたい衝動に駆られたが、ロイはグッと押さえた。そこまでしたら、きっとそれ以上も望んでしまう。今日はハボックにそこまで負担をかけたくなかった。

 だがロイのそんな思考を知らないハボックは、倒れる様にロイに抱きついてきた。

 ロイは急の事に面を食らい、ハボックを見つめる。ハボックの山吹色の髪が揺れていた。


「俺も、思いかけなく幸せかもしれないッス」


 そうか。ロイは自然と笑みを浮かべ、ハボックの山吹色の髪を撫でる。心地が良い。女性みたく指通りが良い訳ではないが、それは酷く心地よく感じる。

 思いかけない幸せで、思いかけない間柄。

 きっとこれからも、そんな『思いかけない』事が起きるだろう。そんな期待やらをも幸せに変えながら少しの間互いに抱きしめあった。

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@言い訳@
 が、頑張った?(ド殴:知るか!)私にしても珍しく物語になっている短編を書きました・・・けど、結果的に意味が分らないし、多分ロイさんはそんなに余裕なくないですよね・・・とりあえず大人ぽく?頑張りました・・・どうでしょう?(殴:だから訊くな!)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年1月19日