バレンタインなんでくだらない。


 そんな時間があったら、俺は仕事をする。


 そう言ったら笑われた。悲しそうに。


『ごめんね』


 何故謝れたのか分らない。でも、きっと、謝らせたのは俺自身だ。



 思えばあの人がバレンタインの日に暴れ始めたのは、謝られた次の年からだった。



Valentine Komui Reever



「班長知ってますか?世間は今聖なるバレンタインなんスよ?」

「・・・だから?」


 科学班フロア。リーバーが仕事をしている最中にも関わらずマービンが声をかけてきた。しかもくだらない事で。

 リーバーは自然と声が低くなった。これは自然な事であり、目の前で「怖―い」とおどけるマービンの方が悪い筈だ。

 リーバーはマービンから視線を外し、書類へと視線を戻した。計算をし終わった書類を持ち、確認する。それでも気にせずにマービンがリーバーにより顔を近づける。


「聖なるバレンタインには奴が現れるんスよ?奴は班長の為にバレンタインを盛り上げようとして増大な被害を毎年作ってるッス!それを今年もほっとくのですか?」

「・・・俺にとっては仕事の邪魔するお前もどうかと思うけどな」


 リーバーは溜息交じりにそう言う。

 バレンタインで何を盛り上がっているのか・・・そう思った時にフッと去年のバレンタインの事を思い出す。

 そーいえば、なんか去年のバレンタイン大変な事があった様な・・・。

 マービンは溜息を吐き「忠告はしましたからね」と言って呆気なくリーバーから離れていく。それに首を傾げる。

 その時だった。科学班フロアのドアが激しい破壊音と共に吹っ飛んだ。その場にいた全員が出入り口を一斉に見た。

 大きな影。金属の一番上におなじみのベレー帽が乗っている。あぁ、これは・・・。

 天井につきそうな程に大きな鉄の固まりの裏からひょっこりとコムイが現れる。その顔にはムカつく程笑みが浮ばれていた。

 コムイは呆然と鉄の固まりを見上げていたリーバーに向けて手を振った。


「やぁ、リーバー君、お待たせ☆」

「いやいや、待ち合わせした記憶はありませんよ。で、その前に何スか!これは!」


 コムイはリーバーの疑問を聞き「ククッ」と声を抑えて笑う。リーバーがそれにイラつき始めた時に、コムイはバッと鉄の固まりに手を伸ばした。


「これは僕が作った、『バレンタインにコムイ〜♪』だよ!略して『バレコム』!」


 名前を聞いた筈なのに、全くもってその使用の仕方や何を元に名付けたのかよく分らない。

 恐らく歌詞の一部を変えたのだろうが、よく分らない。分りたくもなかった。

 鉄の固まりには大きな注射器が取り付けられていた。その中には茶色い液体が入っている。恐らく名前からして茶色い液体の正体はチョコだろう。

 チョコを体内に注入するのか?否、その割には注射器の針が太いし、先も尖っていない。
 リーバーは一応、この謎多き鉄の固まりを訊く事にした。


「あの・・・室長・・・これ、何スか?」

「さっきも言ったじゃないか!これはバレンタインに〜」

「名前は聞きました!何に使うのか訊いているんスよ!」


 怒鳴った後、フッと頭に痛みを感じた。リーバーは咄嗟に額を押さえる。

 あれ?この鉄の固まり、前にも何処かで・・・何処かで―――ッ!

 その時ズッと記憶が甦る。


 茶色い液体。口の中に針をぶっこまれる部下達。チョコで汚れた科学班フロア。

 口にあの太い針が入れら、口の中をチョコで侵された俺。

 そうだ。あの鉄の固まりは毎年バレンタインの時に発動する機械だ。何故かチョコを科学班フロアをぶちまけるのだ。そうか。マービンが言っていたのはこの事だったのか。

 てか、率直(そっちょく)に言えよ!リーバーは科学班フロアを見渡すが、マービンの姿は既になかった。

 コムイは何故か光っている眼鏡を人差し指と中指で上げる。


「フフッ・・・思い出した様だね。そう!これは毎年お騒がせしてます、バレコムなんだよ!」

「はぁ?!」

「因みにリーバー君が毎年記憶がないのは、記憶を消す装置を使ってるからだよ!」

「変な所でスゲーな!くそ!」


 まさか人の記憶を操れるとは・・・それをもっと使えるだろうに、何やってるんだ!リーバーは心の中で悪態をつく。

 だがその片隅で逃げ道を探していた。去年と同じなら・・・。


「行け!バレコム!チョコボンバー!」

「うわーっ!!!」


 コムイの呼びかけに反応し注射器の先からチョコが噴出す。チョコが科学班フロアを汚していく。

それは容赦なくさっきリーバーが片付けた書類にもかかる。


「ああ!!」


 書類が・・・さっきまでやっていた・・・1時間かけて解いていた・・・いや、それだけじゃない。1日かけて片付けていた書類の塔自体がチョコで汚れているのだ。

 チョコで汚れたのを見て悲しんでいるのはリーバーだけじゃに。その場にいる全員が悲しみ、倒れる奴もいた。


「この・・・」


 リーバーは勢いよく後ろへと振り向き、コムイに指をさす。


「この巻き毛!!今日という今日は許さねぇ!!!」


 そのままリーバーは鉄の固まりへと走った。コムイはフフッと笑う。


「僕のバレコムに敵うと思ってるのかい?さぁ、バレコム!行け!!!」


 もはや意味が分らない。その場にいた全員がそう思ったが、少なくもコムイに味方をするモノはいなかった。

 その場にいた科学班はリーバーを応援した。


 チョコがリーバーに掛かる。気にするモノか!


 書類に足がとらわれて転ぶ。それでも立ち上がり、また走り出す。


 止めなくては。止めなくては。止めなくては!!!


 その思いだけで走っていた。それはもはや自己犠牲という正義。

 リーバーは走る。憎きバレコムの所へと!

 っと思っていたが、バレコムの目の前に来た瞬間に、リーバーは紙に足が捉われ転んだ。

 カチャッと注射器の針(先は尖ってない)が無情にもリーバーの口に突っ込まれる。これはまさしく、去年と同じバターン!

 口内にチョコが流されて、気絶バターンだ。

 コムイはニタァーと笑い、リーバーを見下ろす。


「これで終りだね。それじゃハッピーバレンタイン☆」


 もう終わりだ。

 リーバーはキュッと目を瞑る。

 その時、ドコッと鈍い破壊音が鳴った。破壊音から数秒遅れて風がリーバーの髪を揺らした。

 ゆっくりと目を開ければ、鉄の固まりがゆっくりと崩れていた。その先には、可憐なる美女、リナリー・リーが立って居た。


「リーバー班長!大丈夫?」

「ふぁふぃしょーふ(大丈夫)」




 こうして今年の被害は最少に収まった。それでも被害が出た。


「全く!アンタって人は、本当に仕事の邪魔しかしない」


 捕まえたコムイを椅子に縛り付けて言う。未だに科学班フロアは修復されておらず、フロア中チョコの匂いが充満していた。

 どんだけ美味しそうな匂いでも、こんなに充満してれば吐き気がする。それをした当人は反省の色なく笑っていた。


「でも楽しめたでしょ?イタタ!痛いよー、リーバー君―」

「どうやら貴方は今の状況が分かっていない様ですね」


 今この科学班フロアには99%の殺気と1%のチョコで埋め尽くされているのだ。

 リーバーはその殺意に押されるままにコムイの膝に大量の本を置いていく。几帳面に1mmもずれずに。おかげさまで、かなりの量の本がのっけられる☆

 痛みに耐えていたコムイがバッとリーバーの方を見上げる。


「だ、だって!リーバー君ずっと仕事ばかりしているから!」

「・・・仕事?」

「・・・昔リーバー君言っていたでしょ?『バレンタインなんでくだらない。そんな時間があったら、俺は仕事をする』って」


 その言葉を聞いても思い出せなかった。正直言って、そんな感じの言葉を何万回と言っていたのだ。

 行事よりも今は仕事。とにかく仕事。

 それは幼い頃からそうだった。その為か、昔から行事などにどう楽しめば良いかイマイチ分らなかった。


「僕はね、少しでも楽しんでもらおうと思ってバレコムを作ったんだよ。子供の夢であるチョコいっばい食べれる様にしたんだ」

「・・・いや、あれは『チョコを食べさせる』というよりも『チョコをかけている』でしょ?」

「チョコを浴びる様に食べたいもんなんだよ」


「意味合いが違うわ、ボケ」


 リーバーは更に本を増やした。増えた痛みにコムイは前かがみになり、体を振るわせた。


「最後に言いたい事はあります?」

「・・・ねぇリーバー君・・・」

「はい?」


「今もバレンタインより仕事を選ぶ?」


 リーバーはゆっくりと目を見開く。


 バレンタインよりも仕事。仕事。仕事・・・。

 本当なら他の奴らみたく騒ぎたい。でも、その術を知らない。


 ただ見ているならし慣れた仕事を。


 でも貴方は違う。



仕事だけの俺に全力でバレンタインを参加させた。



 リーバーはゆっくりと口端をあげる。



「仕事を増やしてるのはアンタだろうが」


「ぎゃああぁぁ!」


 参加して生まれたのは『怒り』『恨み』『苛つき』ちょっとだけ『甘い嬉しさ』


 本当に馬鹿な上司を持ったもんだ。リーバーは人知れず笑みを浮かべたまま溜息を吐いた。

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@言い訳@
 な、長い・・・で、でも!密かに書いてて楽しかったです!えー・・・コムイさんファンの方様スイマセンでした(ド殴:本当だ!)キャグ風味のシリアスです。リーバーさんは密かに『こんなバレンタインも良いな』とか思ってないです(殴:おい!)でも『こんな上司も良いかな』とは密かに思っていたら良いな。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年2月16日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様