黒い炎で溶ける。


 チョコが?それとも、俺が?



 分らないけど、お前のせいだからな。



バレンタイン 丸井 真田



 今日は聖なるバレンタインの日。

 此処、立海も例外ではなかった。


「すまねぇけど、俺、本命いるから」


 丸井ブン太がそう言うと、体育館裏に呼び出した女子の細い脚が震えた。

 嘘はついていない。本命がいる。勿論、100%貰えない訳だが・・・。女子は体を震わせながらも、手に持つピンク色の包みをブン太に押し付けた。


「でも受け取って!」

「え、ちょ、おい!」


 言葉も聞かず女子は去っていた。残ったのはブン太と渡されたチョコだけだった。





 甘い物は好きだ。だから嬉しい事だ。

 本来ならば今日貰うチョコ全部受け取りたいと思っていた。だが、そうしなかった。

 最近ブン太には恋人が出来た。相手は自分でも驚くが、真田、だ。

 何故真田を愛してしまったのか?未だに分らない。ただ、酷く真田が可愛く見えたのだ。いつもはムカつく仏頂面だが、ご満悦気味の顔とか見ると何故嬉しく感じるのだ。

 ・・・末期だな。

 別に真田からチョコとか期待していない。寧ろ、真田からチョコを貰えたら、きっと明日は地球が滅ぶだろう。

 とにかく期待していない。


 ただ、貰いたくなかっただけ。




 部活に入ればいつものメンバーがバレンタインのチョコの数を教え合っていた。

 仁王は得意気に赤也に数を教えていた。


「俺は11個ぜよ」

「凄いスね!俺はほしくも一桁ッスよ」

「まぁ、これが3年と2年の差ちゅーもんじゃな・・・ブン太は幾つじゃ?」


 急に自分に話題がふられてブン太はつい身を震わせた。


「俺は・・・」

「あぁ、そうか。ブン太は確か今年、本命いるからって貰ってないんじゃったけんのぅ」


 何処でそんな情報を?そう思ったが、きっと噂が広まったのだろう。仁王ならすぐに噂を拾いそうだしな・・・。

 ブン太は「まぁな」と返した。それに本命の相手が分らない赤也は嬉々と「本命は誰スか?誰スか?」と訊いてくる。

 それにブン太は「うるせぇーな」と赤也の額をついた。言える訳がない。相手が真田なんで・・・。知っているであろう仁王はニヤニヤしながら「まぁそう囃し立てるなって。後に分るからのぅ」と言う。

 確かに、あの真田の事だ。ヘマをしかねない。まぁバレたら自棄になってイチャつく事にしよう。

 っとその時、噂の真田が部室に入って来た。相変わらずの仏頂面だ。


「真田―!真田はチョコ幾つ貰った?」


 例によって仁王が訊いてきた。まさか真田にも訊くとは・・・真田は眉を顰めた。だがその口元は緩んでる。


「チョコを貰うなど、たるんどる!全て断ってきた」

「あ、一応チョコ渡されそうになったんじゃな・・・」

「明日は槍が降りますね」


 これでも一年前は一般的から見てもかっこ良かったんだぞ・・・今は老けて見えるけど。

 ブン太は苦笑いを浮かべる。その時ハタッと気付く。そういえば2年の後半・・・幸村が倒れた後に真田が好きなった。

 きっとその愛に同情が入っていたのかもしれない。


「ただ、これだけは受け取った」


 そう言うと真田は鞄の中から平べったい大きい箱を取り出した。それを見て仁王と赤也は目を見開いていた。

勿論、ブン太も例外じゃない。ブン太は目を見開き、口を半開きにして真田を見つめた。

驚き。その数秒後に胸を焦がす別の感情が産まれた。この痛みは何なのか?ブン太には分らなかった。

真田はご満悦気味に笑った。それを見てブン太は心の中で『笑うな!』と叫んだ。




馬鹿だ。

これだったら、周りから何を言われてもいい、自分がお菓子を作って真田に渡せば良かった。

そうすれば、そのチョコを渡した相手と同じ土台に立てた筈だ。例え、そのチョコを渡した相手が女性でも。

そんな後悔と得体の知れない感情で、ブン太はいっばいいっばいだった。




 それを知らない仁王が、同じく知らない真田に訊く。


「誰からじゃ?」


 真田は更に不器用な笑顔を深めた。

 笑うな笑うな、言うな、言うな、でも、知りたい、でも、でも!ブン太の感情が高ぶる。だが真田は気付かない。


 せめて知らない相手の様に――――



「幸村だ」



 あまりにも意外で、あまりにも大きな存在にブン太は目を見開いた。


「幸村からか?」

「あぁ。今日はなんでもバレンタインとやららしいからな。俺はくだらんっと思ったのだが、幸村がどうしてもというから受け取ってきた」


 それでも受け取るなんで・・・真田なら今年も受け取らないと思っていたし、それに・・・なんだ?

 幸村は部長として・・・知ってる筈だ。幸村は俺らの事。あの時喜んだ筈だ。じゃぁ何で渡した?


 何で幸村は渡したんだ?


 真田が箱を開ける。そこには大きなハート型のチョコレートがあった。それを見た瞬間にブン太の理性が切れた。


「これは幸村から―――――ブン太?!」


 ブン太は気付けば、チョコへと手を伸ばしていた。

 その大きなチョコを手に取ると、バリバリと食べる。


 甘い・・・赤茶色のチョコが溶けて指につく。

 口の中の水分がチョコで渇く。


 真田は呆気に取られてブン太を見つめる。だがすぐに怒り色に変わる


「丸井!行儀が悪いぞ!」

「うるせぇ!」


 ブン太の叫びに真田はよろめきもせず、ただブン太を見下ろした。その視線が顔をあげなくても感じた。


「何でお前はチョコを受け取った?」

「それは幸村が―――」

「幸村が好きなのか?」


 質問と一緒に顔をあげた。真田は眉を顰め、切れ長の目を細めていた。


「何を言っている?幸村はただ――――」

「今日はバレンタインだぞ?バレンタインにチョコをあげるというのはそういう事だろ?」

「丸井、話しを聞け!」

「言い訳をか?」


 言い訳。その卑劣な言葉が気に入らなかったのか、真田はブン太に平手打ちをした。その音が部室中に響き渡る。

 音に周りの部員が慌てふためいた。赤也も「え、え、これってどういう事スか?」とひたすら仁王に聞いていた。仁王は額に手をやり「馬鹿じゃろ・・・」と呟いていた。

 ブン太は叩かれた頬に手をあて、真田を見上げた。眉はつりあがり、茶色い瞳は怒りに震えていた。




 違う、こんな顔をさせたかった訳じゃなくで・・・俺はただ――――

 丸井はその時になってやっと自分が抱いた感情に気付いた。


 ――――嫉妬だ――――


 確かに抱いたのだ。その感情を。そしてその感情が真田の怒りを買ったのだ。




 ブン太は少し前の自分に苛つき、歯をグッと喰いしばった。そうすればさっき叩かれた頬がより痛んだ。


「言い訳などする必要はない。丸井、これから事実を言うぞ」

「・・・あぁ」


 ブン太はグッと目を深く瞑った。真実、真田が幸村の事をどう思っているか――――




「さっきのチョコは幸村が『部員へ』と言って渡したチョコだったのだ」



「「「はぁ?!」」」


「・・・へ?」


 数拍遅れてその場にいた部員が、更に数拍遅れてブン太がマヌケな声を出した。

 真田はフンと鼻を鳴らしブン太の口についたチョコの欠片を親指で拭った。


「俺はいらないと言ったんだが、幸村がせっかく用意したものだから仕方なく持って来たのだ」

「・・・じゃぁ真田は幸村の事を・・・」


「何故そう言う話になったのか分らん」


 真田はブン太から顔を逸らした。耳が紅く染まっていた。

 何故か自然と口元が緩んだ。あぁ、そうなんだ。そうなんだよな?

 ブン太は今の気持ちを糧に真田に抱きつこうとした。だがその前に後ろから仁王や赤也に抱きつかれた。


「丸井先輩、幸村部長のチョコ返してくださいよ」

「そうじゃぞ!あれは、皆の、チョコじゃったからのぅ」


 忘れていた!ブン太は慌てて真田に手を伸ばしたが真田は耳を紅く染めたまま冷たく言い放った。


「丸井、お前が悪い」

「そ、そんなー!」



 良かったのか、悪かったのか・・・バレンタインは甘かったのか、苦かったのか、ただ、ちょっと成長したブン太だった。

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@言い訳@
 急に始まって解決せぬまま終わります(ド殴)フッと『あれ、幸村様その時って普通に病院退院してるよな』と思って仕方ないです・・・この設定って明らかに3年の2月ですよね・・・その前に3年部活終わってるー(ド殴)えー細かい事は気にせず・・・きっと幸村様は病院の定期検査に行ったんですよ。きっと。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年2月16日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様