チョコが一つ、ここにある。


 そのチョコは何を意味をするか?


 友達?感謝?それとも―――――ジャポーネの文化は複雑で嫌いだ。



 Valentino γ Supana



 別にジャポネーゼの文化がどうとか言う訳ではないが、この文化はどうかと思う。

 γは百貨店の中、食品売り場の一箇所を見てそう思った。

 ピンクのワゴンの中に大量のチョコレート。ワゴンの真上には『HAPPY VALNTIN』と書かれた茶色いハートがぶら下がっている。

 ジャポーネのバレンタインは女性から男性にチョコを渡すらしい。なんとも肉食女性と草食男性(あるいは日本男児)が繁栄された行事だろうか。

 イタリアは違う。イタリアでは『恋人の日』としてプレゼントを交換したり、男性が女性に花を送ったりする日だ。

 まぁどっちにしろ、恋人がいないγには関係ない話だ。そう思いながら飴を手に持ちレジに向かった。




 別にバレンタインだからという訳じゃない。あれだ。喉が痛むから仕方なく飴を買ってきたんだ。スースーしない、いちごミルク味の飴を・・・否、単純に甘いモノが舐めたくなって・・・。

 で、でも、よくよく考えたら俺は甘い物が好きじゃない。しかし捨てるのは勿体無い。だからスパナにやるのだ。そう、それだけだ。別にバレンタインだからとか、そういう訳ではない。


 何が悲しくてバレンタインの日に男に(いちごミルク味の)飴を渡さないとイケナイんだ!!


 そんな事をもんもんと考えながらγはスパナの作業をいつもの定位置で待った。出入り口の横の壁である。

 腕には袋がぶらさがっている。言おうと思っている台詞に悶える度にカサカサと揺れた。

 その音にスパナが振り向く。


「γ、袋がカサカサ言ってうるさい」

「な!べ、別にお前の為に、いちごミルク味の飴を買った訳じゃないからな!」

「・・・?何ツンデレになっているの?」


 明らかに言うタイミングを間違えた。それでもスパナは気にせずに立ち上がり、奥の部屋、和室へと向かった。そこは台所も冷蔵庫もある場所だ。

 休憩をするのだろう。γはその和室に向かう。スパナは手馴れた手付きで急須に茶葉(ちゃば)を入れていく。

 それを見ながらちゃぶ台とやらの上に買ってきた飴の入っているビニール袋を置いた。


「・・・それ、何?」

「これは・・・なんだ・・・バレンタインだから、飴を買って来たんだ」

「・・・バレンタインはチョコの筈だ」

「知ってる。ただ、あんな女ばかりいるコーナーに行けなかったんだよ」


 あんな女子ばかりの・・・ピンクのワゴンの場所に・・・。

 スパナは首を傾げながら冷蔵庫の中から青い箱を取り出し、机の上に投げる様に置いた。


「何だ?」

「チョコだ」

「・・・は?チョコ?」


「そう。γに」


 その言葉を聞いてγの顔が紅く染まった。それを落ち着かせる為に同じく紅く染まった両耳を掴んだ。

 落ち着け・・・落ち着け・・・これはどういう意味か分らないぞ?なんせ最近はジャポーネのバレンタイン事情は変わっているのだからな・・・。

 γは青い箱を人差し指で叩いた。


「これ友チョコつー奴か?」

「・・・よく知っているな」


 まぁ、分かってたけどな!クールなγは肩を落としたが、それは一瞬で、机の上に置いていた飴の入ったビニール袋をスパナに渡した。


「お前にだ。チョコじゃねぇけど、別に良いだろ?」

「・・・いちごミルク味」

「お前がいつも舐めてる飴はいちごだからな」


 まぁ喜ばないだろうけど・・・そう思っていたが意外にもスパナは飴をモゴッと口の中で回転させた。これは『嬉しい』と思った時にやる仕種・・・だとγは思っている。

 γはつい口元を緩めながら青い箱を手に取り、開ける。丸い小さなチョコが15個入っていた。

 γは箱ごと机の真ん中に置き、一つ摘み食べた。

 外に塗されたココアの苦味が舌を刺激した後に、ビターのチョコレートの違った苦味が現れた。一回噛めば、中に入っていた蜂蜜入りチョコが口いっばいに広がった。

 甘い・・・。


「2個食えれば充分だな」

「後はウチが食べる」

「・・・元からそうするつもりだったのか?」


 絶対にそうだろう。まぁ別にそれでも良いのだが・・・ただスパナから貰ったモノだ。それだけで良い。

 正直な話、貰えるとは思っていなかったのだから。そう考えれば一歩前進と言えよう。

 今回はジックリと、追い詰める様に事を進めたかった。そうしないと絶対にスパナはすぐに逃げるだろうし、もう届かない次元に行きそうだから。

スパナは飴の棒の端を摘み、口から飴を外す。


「渡す事に意味があるからな」

「そうだな。じゃこれからも良き友達で」


「・・・一度も友チョコとは言っていない」



 スパナの言葉にγは顔を上げた。スパナは首を傾げながらγをジッと見つめていた。

意味が分らない、そう思っている様に。


「さっき友チョコか?と訊いた時に『よく知っているな』とか言わなかったか?」

「あれは『その言葉をよく知ってるな』という意味だ」


 間際らしい!てっきり『(友チョコだと)よく知っているな』という意味かと思っていたのだ・・・だが、γはそれところではなかった。

 それはつまり・・・どういう事だ?スパナがチョコを渡した・・・渡したって事は・・・事は?


「それって本命って事・・・か?」

「そうだな」


 スパナの即答にγは息を長く吐きながら額を押さえた。それを見てスパナはハの字眉を顰めた。


「駄目か?」

「・・・否・・・でも、それって両思いだったって事だよな」

「そうだな」

「しかも、俺から告白するつもりが、お前から告白された・・・なんか拍子抜けしちまった」


 こんなに朝から慌ててた自分が急に惨めに感じた。つまり、意味のない事に怯え、必死に頑張っていたって事だ。

 初めての男相手に年甲斐もなく慌てていた。思春期のガキか!とか。仕方ない・・・。

 γは改めてスパナを真っ直ぐと見つめる。


「こっちからも告白して良いか?」

「・・・構わない」

「スパナ、愛してる」


 そう言えばスパナは頬を紅く染め、黙ったまま首を縦に振った。γはそれを見て一気に心が昂揚をした。

 その勢いのまま腰をあげ、ちゃぶ台を挟んでスパナと口付けをした。



 愛しい愛しい君へ。


 来年は何の迷いなく甘いチョコを君に送ろう。

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@言い訳@
 こんなγさんγさんじゃない!(ド殴:今更だろ!)とりあえず、低温度のスパナさん相手だと知らずの内に高温度になるのでしょうね・・・多分(殴)とりあえず・・・甘い・・・ですか?
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年2月16日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様