ふわふわと揺れる髪。


 僕はその髪にこう思ったんだ。


 “まるで月の様だね”って。



La luna



 黒とか白とか、関係ない。そう心の中で誓ってみる。でもどんだけ僕が誓っても無意味なんだよね。

 パソコンから目を離し、椅子の背もたれに寄りかかって上を見る。薄汚れた白い天井がある。所所、光の残像が見える。パソコンを使いすぎた。

 何時間経っているのだろうか?耳がガンガン鳴らしていた音楽で痛む。僕はゆっくりと目を閉じる。

 そうすれば、月の色が暗闇の中で揺れたのを感じた。


 あぁ、スパナ・・・。


 そういえば最近会っていなかった。あの月の様なスパナに。そう思うと異常にスパナに会いたくなった。

 恐らくスパナはいつものモスカを製作している部屋にいるだろう。此処からは少し遠い。でも仕事も一段落したし、チェルベッロに言えば休憩を許されるだろう。

 そう思うと僕は勢いよく立ちあがる。そうすれば腰の痛みにピックリする。時計を見れば軽く4時間はパソコンに向かっていたのが分り自分でもゾッとした。

 スパナの事をどうどか言えないな、苦笑いしながら部屋から出て行く。




 予想通りだった。いつものこの広い部屋にスパナは居た。

 入口に背を向け、機械を熱で繋げていた。パチパチと火花が散っていた。このままスパナに出来るだけ近づくが、スパナは全然気付かない。いや、もしかしたら気付いてるけど構ってる暇がないだけかもしれない。

・ ・・もしそうだったら、悲しいなー。

火花が止むとスパナは溶接マスクを外し、後ろに立って居た僕の方を向く。

あいも変わらない無表情の顔であった。スパナ自身は全体的に色素の薄い色で、萌葱色のつなぎが映えて見える。


「・・・正一どうした?」

「なんか急に会いたくなってね」


 そう言うと僕はスパナの距離を一気に縮める。スパナは持っていた溶接機を机の端に置く。

 椅子から立ち上がり、スパナは改めて僕の方を向く。

 透き通る様に白い肌。純度の高い青い氷の様な瞳。そして、月の様な髪。僕はついスパナの髪に触る。スパナはジーと触る僕の手を見つめるが、何も言ってこない。

 何か言えば良いのにな。何を思っているか分らないよ。


「・・・正一はウチの髪が好きなんだな」

「え?」


 意外な言葉につい僕はスパナの髪から手を引いた。まさかスパナがそう思うなんで・・・思ってもいなかった。

 スパナは不思議そうに首を傾げる。


「いつも触ってくる」

「あぁ、そうだね・・・うん。好きだよ」


 スパナなら全部好きだ、なんで歯が浮く様な事は言えないけど・・・それでもそう思っているんだ。

 スパナは尚も首を傾げたまま僕を見ている。月色の髪が光に当たって光る。それを見てつい目を細めてしまう。


「スパナの髪はまるで月の様に綺麗だ」


 呟いてしまってから、ハッと我に返った。何処の気障男だ?!つい顔が真っ赤になる。

 だが言われたスパナは傾ける首を逆にしただけであった。あれ?この気障な言葉に・・・気付いて・・・ない?

 スパナは顔を真っ直ぐなおし、改めて口を開く。


「・・・ウチの髪は白くない」

「え?白?」

「月は銀色だろ?」

「え、黄色じゃないの?」


 つい素っ頓狂な声を出してしまった。まさか月の色が銀色とは・・・僕は昔から月の色は黄色だと思っていた。否、実際に見る月も黄色だろう。

 スパナは「あぁ」と何かを理解した様に声を漏らす。それに僕は眉を顰め「何?」と訊く。


「ジャポネーゼでは月の色は黄色んだ」

「まさかの文化の違い?」

「そうらしい・・・そうか、ウチの髪はジャポネーゼの言う黄色い髪なのか」


 スパナはそう言うと自分の髪をつまみ見る。口端がクイと不器用にあげられる。どうやら喜んでくれている様だ。それに僕はつられて笑みを浮かべる。


「そーいえば、外国では太陽は黄色だったね」

「・・・ジャポネーゼでは何色だ?」

「赤」

「赤・・・」


 スパナはそれを聞くと頬を紅く染め、背筋からブルッと震えた。どうやら喜びを越えて感激しているらしい。

 こんな小さい事でも喜んでくれるのか、そう思うと自然にコッチも嬉しい。

僕はスパナの髪にもう一度触れる。今度は髪の横を撫でる様に。そうすればスパナは猫の様に目を細める。本当に可愛いな・・・。


「月みたいだね」

「・・・正一も赤い月の様だ」

「赤い月か・・・」

「同じ月だ」


 同じ、僕もスパナと同じなんだ・・・そう思うと何故か心が温かくなる。スパナは本当に僕の心を温かくしてくれる。

 僕は感情のままにスパナを抱きしめた。そうすれば温かさが全身を掻き巡る。


「有難う、スパナ」

「・・・何故礼を言うんだ?」

「スパナが嬉しい事を言ったから」


 月の様な髪を後ろからなで上げる。サラとした髪が指を覆う。


「じゃウチも有難う」


 本当にスパナは分らない。そして、僕の心を戻してくれる。


 月って暖かいんだね。僕にとって太陽よりも温かい気がするんだ。


 そう言ったら、どう思うかな?きっと月は太陽の光で光っているから、実際は太陽の方が熱い、とか言うんだろうな。

 でも、そんな理屈じゃないんだ。


 僕がスパナを愛しているのと同じ。月は温かいんだ。ねぇ、スパナ。

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@言い訳@
 途中で目的を忘れました(殴)確か、日本の月のイメージが黄色で、何処かの国の月のイメージが銀だか白だったと思います・・・あれ?青でしたっけ?(殴:確かめろ!)『このネタ書きてぇー』と思って、適応するのが正スパだったっと・・・そして撃沈しましたorz
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年2月26日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様