匂いがする。


 その匂いで柳が近くにいると気付く。


 気付いて振り向けば、予想通りいる。


 それが密かにご満悦なのだ。



匂い袋



 俺はお前を自分のモノにしたい。お前には渡さないよ。




 いつも通りに部室に入った。部室に入った途端に甘い匂いが鼻をくすぐった。この花は・・・桜か。

 まだ外は寒く、春分を過ぎた今でも春の気配はまだない。だからその桜の匂いが不釣合いすぎて苦笑をしてしまうのだ。

 誰もいない部室の中、真っ直ぐとあるレギュラーのロッカーに近づく。それを開ければ、より強い桜の匂いが部室中広がった。

 ゆっくりと目を細め、その匂いを放つ小さな袋を手に取る。




 部活が終り、部員が部室へ帰ってきた。各々が着替えを始める。

 その中、柳は眉間を顰めて己のロッカーを見つめる。それに気付いて真田が「蓮二どうした?」と訊く。

 柳は一瞬言うかどうか悩んだが、数拍後には言おうと決め、真田の方を向き口を開く。


「ロッカーの中に入れていた匂い袋がなくなっているんだ」

「匂い袋だと?それは確か桜の匂いがする奴だよな?」

「そうだ」


 真田は部員に声をかけたが、見つからなかった。ロッカーところか、床の上すらなかった。

 此処にはないという事は『柳が教室などに忘れた』か『誰かが持っていった』か『ロッカーの裏とかにある』の三択になる。

 だがこの部室には微かに桜の匂いが残っている。っという事は、選択一は消える事になる。

 二番目の選択肢はなるべくあって欲しくなかった。

 柳は首をゆっくりと横に振る。


「弦一郎もういい。匂い袋は予備があるし、その内出てくるだろう」

「本当によいのか?」

「あぁ」


 柳は微笑みながら頷く。それに渋々真田も承知した。

 いつか出る・・・出るとしたら何時だろうか?この桜の匂いはいつ消えるのだろうか?




 桜の匂いがする。部室の中で、ずっと。

 真田はその桜の香りを嗅ぐ度に眉を顰める。そして必死にその匂いを嗅ぎながらその元を探そうとする。だが、見つからない。

 それを見て仁王が「真田、犬みたいぜよー」と笑う。真田はそれに怒り、仁王を追い掛け回す。

 とにかくり桜の匂いが消えないのだ。


 当たり前だ。


 だって匂い袋は――――


「幸村」


 柳に呼ばれて幸村は振り向く。眉を顰めながら柳が立っていた。絶対に良い話ではないのが分る。

 ゆっくりと笑みを浮かべる。そうすれば柳の顰めた眉が緩む。そう。柳には似あわないよ。

 柳が幸村へとより近づく。


「幸村は知っているんだな?匂い袋の場所を」

「勿論」


 呆気なく答えた幸村につい柳は開眼してしまう。まさかこうも簡単に言うとは・・・。

 柳は仁王を捕まえて小言を言う真田の方を見る。つられて幸村も真田の方を向き、静かに微笑む。

 その微笑のままに嫉妬塗れの言葉を発する。


「俺の真田を渡したくない」


 開眼せずに幸村の方を向く。幸村は笑っていた。少なくとも『心から』ではないのは分る。だが今の状況を知らなかったら純粋に『幸村は笑っている』と思うだろう。

 もしかしたら今笑っているのかもしれない。柳は(周囲は分らないが)目を瞑り、桜の匂いを感じる。


 甘い、甘い桜の匂い。


 なくした時とは違う桜の匂いが、漂う。


 あの時、途中で部活を抜けたのは誰か?


 一人しかいなかった。


「変な関係だな」

「今更かい?けど、俺はまだ諦めないからな」


 幸村の鋭い瞳が柳を貫く。口元に笑みが浮ばれている為、より目が作りものめいた。




 目を細めてその袋を見た。

 ゆっくりと口端が上がるのを感じた。

 そして愛しい愛しい彼らの名を口にする。




 甘い桜の匂いがする。

 桜はこんなにも惑わすのか。


 桜の匂いを嗅いで探そうとする真田。


「場所を知ってるくせに」


 嘲笑気味に笑う幸村。

 真田に恋心を持つ幸村。そして柳。

 でも純粋な真田から見れば、二人の仲が悪くなったとしか思っていない。


 だから桜の匂いが部室中に広まる。


 じっくりと、いつか心がこの匂いで毒される。


 柳はフッと笑みを浮かべる。


「俺も渡さないが、真田が誰のものにもならない確立99%だぞ」





 『幸村と柳はこれで仲直りするな』


 真田は桜の匂いを探しているが、未だに見つけない。

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@言い訳@
 さて、何の話でしょう?(ド殴:おい!)メモで『においぶくろ←幸真or蓮華』・・・匂い袋だけで後は無視ですね。おかげさまでこれが何のカップの話か謎に・・・そして最初に『隠した人は幸村様だ!』と思って頂ければ成功です。どこか思考がずれている真田。そして二人して仲良く匂い袋を探せば見つかる仕掛け。何故なら匂い袋は真田のロッカーの中にあるから。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年3月2日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様