記憶が正しければ、


 ハロウィンとは、10月31日の夜に死者が家に訪れるとか魔女や妖精が出てくるとか言い伝えられていて、それらから身を隠す為に仮面を被ったり焚き火をしたりする行事だった筈だ。


 まぁ今ではガキが仮装して『トリック・オア・トリート!』とか言ってお菓子を正々堂々(せいせいどうどう)と無料で貰える行事になっているが・・・。


 それでも、だ。


「HAPPY HALLOWEEN!!」


 ハッピーではないし、それ以前にいい大人が白いシーツを被って言う行事ではない!


 だがシャマルはあえてそれを口にしなかった。それを口にしたら相手が笑いながら勝手に家に入ってくる可能性があるからだ。

 この時の対処は・・・。


「ちょっと静かに閉めるのやめて!!」


 これにかぎる。



【Halloween  Iemitu×Dr】



「シャマルは酷いなぁー。静かに閉めるんだもんな!」


 男性は豪快に笑いながら黒いソファーのド真ん中にドスと座る。相変わらず無遠慮だ。こういう男こそ『和の心』を学ぶべきだろうに。

 男性の名は沢田家光。日本人なのに髪は薄茶色である。それ以外は茶色い瞳に黄色い肌で日本人特有のモノだ。 シャマルは自分の分のコーヒーを白いカップの中へと淹れる。


「俺のもー」

「誰が淹れるか!」


 淹れる訳がない。勝手に上がり込み、しかも唯一の座れるソファーの真ん中に座って独占しやがって・・・シャマルは舌打ち一つ吐いてから、流し台に寄りかかりながら真っ黒のコーヒーを啜り飲む。

家光は口を尖らせながら「ケチー」と言う。それにカチン☆とくるが、『俺は大人だ。大人だから我慢するんだ・・・コノヤロー!!』と必死に堪えた。

怒っても話が進まないだけだ。


「で?何しに来たんだ?」


 毎回こんな感じたなと改めて思ってシャマルは溜息が吐きそうになる。毎回毎回コッチが頑張ってこの男を追い出そうとする。

 だがこの男は堂々と上がりこんで、自分のペースに持って行くのだ。家光はニヤニヤ笑って右手をヒラヒラと振った。


「さっき言っただろ?ハッピーハロウィンってな」

「聞いたな。それじゃぁ、出てけ」

「いやーん、ひどーい!もっとこう、盛り上がって行こうぜ?」


「盛り上がるな。迷惑だ」


 シャマルが言い切れば、家光は大きい溜息を吐いた。


「それだから友達が出来ねぇんだよ」

「うるせぇ!何が悲しくて男とイチャラブしなきゃならねぇんだよ!」


 女なら大歓迎だけど!


「あ、イチャラブといえばさ、シャマル、トリック・オア・トリート!」

「今すぐ帰れ」


 ズズゥーとコーヒーを飲む。その間に家光が予想内に「えー」とか「冷たー」とか叫んでくる。

 だがすぐに収まる。意外に粘りがなかったりする。こっちが黙ってれば、家光はすぐに諦めるのだ。

家光はソファーの背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。


「本当は、さ・・・お前に言って欲しかったんだけどな」

「はぁ?何が?」

「トリック・オア・トリート・・・って」


 シャマルは眉を顰めた。家光は雰囲気で感じ取ったのか、天井を見つめたまま苦笑いを浮かべた。


「ほら、なんやかんや言ってお前の方が3つ年下だろ?」

「年下でも俺はもう大人だ。世のガキ共に『お菓子くれお菓子くれ』ってせがまれる歳だぜ?」

「関係ないよ」


家光は「よっと」と歳相応ではない声と共に立ち上がった。被ってきたシーツを手に持つ。


「楽しめば、年齢なんで関係ないよ。ジャポーネでは老若男女(ろうにゃくなんにょ)楽しんでいるよ・・・まぁ、ハローウィンはそんなに大げさじゃないけどな」

「・・・本当のハロウィンを教えてやろうか?」

「知ってるよ。死者とか魔女とか、そんな奴等が来るから身を守る為に仮装したんだろ?」


家光は笑いながらシャマルへと近づく。

1歩前に立つと、今度は顔を近づけてくる。


ドクンッ


高鳴ったのを感じる。不快だ。


家光の笑顔がすぐ目の前にある。後数Cmで唇と唇が近づく距離だ。そこで家光は止まり、シャマルの寄りかかっていた流し台の上に丸い飴を数個置いた。

そして顔を離した。


「ハッピーハロウィン」


 そう言うと家光は未練もなくシャマルに背を向け、玄関へと向かう。

 シャマルはただ呆然と家光を見つめる事しか出来なかった。次第に家光の姿が消えた。

 遠くから扉の閉まる音が聞こえた。

 少し経ち、シャマルは俯いた。少し温くなったカップを右手に持つ。そして空いた左手で家光が置いていった飴を握った。

 力強く、握り締めた。


「あのやろう・・・俺をガキ扱いしやがって・・・」


 バキッと飴が割れる音が聞こえた。

 あんなに顔を近づけて・・・何も思わなかったのだろうか?

 知っていた。家光がシャマルに特別な思いを――――


 特別な――――


 シャマルは飴を一つ掴む。その飴の包み紙を捻り開け、口に含んだ。

 ミルク味だった。そのまま右手に持つコーヒーを飲むと、酷く合わなかった気がした。


『お前に言って欲しかったんだけどな』

「トリック・オア・トリート」



――――愛しているのは俺の方だったのか?


 シャマルは白い飴を砕いた。

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@言い訳@
ハロウィンに向けて書いたけど、全ジャンル書き切れず、出すタイミングを失い、こんな季節外れに更新しましたorz
 なんか暗い話に?!本当にスイマセン!アレです。シャマルさん的に家⇒シャマで『好きなんだなーうぜー』となっていたのに、『あれ?好きなのって・・・俺の方なのか?!』となった訳です・・・多分・・・。きっと両思いなんですよ。多分(殴;もういい!)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年3月4日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様