甘い・・・甘い・・・甘い・・・


 そう呟いていると甘党の顔を思い出す。


 それが密かに憎くて、仕方なかったりする。



【Halloween Tily×Reever】



 静寂に包まれた科学班フロア。此処に来る度に息が酷く詰まる。

 コッコッ・・・と皮靴の音が響き渡る。耳をすませばもしかしたら反響する足音が聞こえるかもしれない。

 けど耳をすます気もなければ、止まる気もない。まっすぐと進める。

 奥の部屋。最後の机の、入口から背を向けて座っている青年の場所へ。

 近づく度にカリカリッというペンを走らせる音が聞こえてくる。止まる事のない音。

 青年のいる机の一つ前で止まる。


「こんばんは、リーバー」


 見えないだろうけどニコッと笑みを浮かべながらそう言った。そうすると止まらないと思っていたペンの音が呆気なく止まった。青年、リーバー・ウェンハムは後ろを振り向く。

 氷の様な色素の薄い青い瞳が一瞬ブレたが、すぐに焦点が合う。合った瞬間にリーバーの眉間に深くしわを寄せる。奇妙なモノを見る様な、そんな顔になる。


「ティキ、それは何かの冗談か?」

「俺が冗談を言うとも?」

「・・・むしろ冗談と言ってくれ」


 リーバーは長い溜息を吐く。それに首を傾げた。


「何でだよ?」


「俺はカボチャを服代わりにする奴を知り合いにしたくない」



 リーバーの心底嫌そうな顔を見て、ティキは改めて己の姿を見る。

 スーツの上からオレンジ色のカボチャを被っている。カボチャの正面には顔が彫られており、その耳に当たる所から腕を通している。

 そう、今日はハローウェンなのだ。とりあえず仕事漬けでその事を知らないであろうリーバーの為にこの格好をして来たのだ。


「やっぱしハローウィンはカボチャだろ?」

「普通は頭に被るんだけどな」

「気にしない気にしないw」


 ゲラゲラ笑えば、リーバーはまた大げさに溜息を吐いた。だがその後苦笑を浮かべた。「お前って奴は・・・」その声には何処か安堵感があった。

 ティキは笑うの止めて、かぼちゃを脱ぎ、手を差し出した。差し出された白い手袋を嵌めた手を見てリーバーは首を横に振った。


「お菓子を持っていない。そもそも分かって来ているだろうけどな」

「別にお菓子が欲しい訳じゃない」


 ティキは綺麗な笑みを浮かべながら首を傾げた。

 白い手袋がリーバーのこけた頬に触れる。その頬をなぞる様に撫でる。その行為にリーバーは無意識に猫の様に目を細める。


「言って欲しいんだ」

「何を?」


「『トリック・オア・トリート』って」


 ティキの言葉にリーバーは目を見開いた。そしてすぐに苦笑いを浮かべる。


「俺が?」

「何だよその顔―。俺が仕事中毒なお前からお菓子を奪い取る様な残酷な奴だと思っていたのか?」

「お菓子じゃなくで、トリート目的で来たかと思った。きっとこのままベットインとか」

「いやーんwリーバーのエロカッパー」

「エロカッパってなんだよ!断じて違うからな!!」


 リーバーは顔を真っ赤にしながら反論した。そんなリーバーを見てゲラゲラと笑いながら、頬に触れていた手を肩の上に移す。

 ノアの力を使って机を通り過ぎる。よりリーバーに近づく。


「俺はただ、生まれてから大人だったリーバーに、子供になって貰おうと思っただけ」


 リーバーの少し前に立つと腰を屈め、座っているリーバーに顔を近づける。

 リーバーはさっきとは質が違う赤みで顔を染める。それを見てティキはクスッと笑い、広い額にキスをした。

 離して見れば、さっきより顔を真っ赤にしてティキを見上げていた。


「お前ならトリックアンドトリートでも受け入れるぞ」


 望む方を。選べなければどちらも。


 甘いお菓子をあげよう。


 可愛い悪戯も受けよう。


 リーバーは苦笑いを浮かべながらティキの腰に腕を回し、こめかみをティキの腹に押し当てた。

 ティキは静かにボサボサの薄茶の髪に手を置く。


「バカだな・・・俺はお前の前ではいつだって子供だ」


 ゆっくりと目を瞑る。酷く熱く体温が体に染み込むのを感じる。


「足りないんだよ。お前の場合、優等生なんだよ。もっと悪ガキになれよ」


 バカやって、さ。周りに怒られて・・・。



――――もし叶えば周りもリーバーを受け止めて。
    もし叶えば、俺だけの子供でいてくれ――――


 二つの矛盾の思い。


 甘い・・甘い・・・甘い・・・


 とんとん言葉が、お前色に染まる。

 きっとこの言葉もいつかは――――お前の言葉になる。


 そうすればきっとこの言葉が愛しいモノになるだろう。


「リーバー愛している」


 きっとこの瞬間も。でも、本人以上の愛しさはない。


 永遠に。

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@言い訳@
 ハロウィンに向けて書いたけど、全ジャンル書き切れず、出すタイミングを失い、こんな季節外れに更新しましたorz
 さて、ハローウィン関係あるのでしょうか?(ド殴:知るか!)かなりハローウィン過ぎての作品です;そして密かに悲しいです!今思えば、ティキリバってマイナーですよね・・・やっぱし優しいティキ×孤独リーバーですよね!(殴:押し付けるな)
 では色々とスイマセン。失礼します平成23年3月4日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様