「愛しているよ」


 その声が遠い。遠いんだ。


 此処までおいで。


 愛しているから。


 そう言ってずっと手を伸ばすだけ。


 卑怯だって知っている。


 でも、震える足が動かない。


 必死に笑顔を作るのでいっぱいなんだ。


 だからおいで。



 此処までおいで。



 おいで 。



「やっぱし卑怯だよね」


 ボソッと呟いた言葉にリーバー君は僕の方を見た。でもそれも一瞬で、すぐに書類の山に手を伸ばす。

 相変わらずの仕事三昧の人生だ。それに溜息を吐く。そうすると、目の前に書類の束が置かれる。

 それを見て僕は青ざめた。手を伸ばした書類は僕用だったのか!


「仕事してください」

「もーリーバー君だら、そんな仕事仕事言うとハゲるよ」

「仮にハゲるとしたら、それは室長が仕事をしないからですよ」


 いや、ハゲて欲しくないんだけど!

 僕は溜息を吐き、書類の束から一枚取る。

 本当に人の話を聞いているのか、聞いてないのか・・・。


「僕って卑怯だと思う?」

「急にそんな質問されても、答えかねますよ」


 まぁ確かにそうかもしれないけどさー。少しは『どうしたんスか?!』とか『大丈夫ですか?疲れます?』とか言ってくれないのかな?

 その一言で救われる人がいる、っていうじゃない。まぁ僕がその一人かは分らないけど。

 僕は椅子の背もたれに背を預ける。ギシッと軋む音が聞こえたが、無視。リーバー君の痛い視線も無視の方向で!


「僕さ、あんまり進んで人の心に入ろうとしない所があるからさ。それって卑怯かなーと思ってね」


 いつもいつも、他の人の奥深くに入ろうとしない。それなのに、愛して愛してって強請って(ねだって)いる。


 それって、卑怯だよね。


 リーバー君はそれを聞くと眉間に皺をよせ、僕を見つめる。でもそれは数秒で、溜息を吐きながら頭を掻いた。


「充分に人の心の中に入っているじゃないスか?」

「・・・入っているかな?」

「えぇ。無遠慮に」


 その言い方って喜んでいいのかな?

 リーバー君は眉間に皺を寄せたまま言葉を続ける。


「大体、そんなしょっちゅう人の心に踏み入れていたら、うざいスよ」

「うっ、そう言われるとなんたかショックが・・・」


「それに、アンタはそれくらいで充分だと俺は思いますよ」


 リーバー君に視線を合わす。そうすればすぐに目線が合う。少しの間目を合わせたけど、僕からその視線をずらした。


 僕は君を愛している。


 なのに、全力で愛する素振りを見せないんだ。


 僕はフッと笑みを浮かべ、書類に視線を移す。視点が合わず、小さい文字達が固まりに見えた。


「ねぇリーバー君、僕の事愛している?」

「っ!そんなの・・・決まってるじゃないスか・・・」

「ちゃんとく言葉にして、さ」

「そんな、今仕事中スよ?」

「僕は卑怯な人だからさ」


 僕はもう一度リーバー君に視線を移す。リーバー君は顔や耳が真っ赤に染まっていた。

 本当に可愛らしい。


 ねぇ、これって卑怯だよね。

 知ってるよ。

 知ってるんだよ。


 それを知って、君に聞く僕はもっとも卑怯だ。


「愛していますよ」


 その罰なのか、僕にはその声が遠い。

 だから


「うん。僕もリーバー君の事を愛しているよ」


 こんな重要な言葉が軽く口に出てしまう。


 ごめんね。


 でも、愛している。


 愛しているから、おいで。


 その耳元で、大切に呟くから。


 卑怯なこの僕の所へおいで。


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@言い訳@
・ ・・暗い?本当にスイマセン!楽しそうな話を書いたつもりがorz(ド殴:何処が!)でも、両思いですからね!あれ?言い訳になってません?(殴)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年4月4日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様