“オレンジ色の桜がある”
昔、弦一郎がそう言った。
オレンジ色の桜など見た事がないし、そんなのないだろう。
そう思っていた。
オレンジ色の桜
部活が終わった帰り道。
さっきまで明るかった筈の空がもう暗く、街には街灯が点々とついていた。
柳蓮ニはその薄くらい道を真田弦一郎と一緒に歩いていた。
「遅くなったな。蓮ニ、親御さんは大丈夫か?」
「あぁ問題はない」
今日は大会について監督と話をしていた。その為、いつもよりも帰りが遅くなってしまったのだ。
別に柳はそんな事気にしてなかったが、真田は気にしている様だった。
――――まぁそこが弦一郎らしいんだがな
柳はフッと笑みを浮かべる。
「弦一郎は気を遣いすぎた」
「む?そうか?」
「まぁそこが弦一郎の良い所だがな」
誰も分かっていない。
真田をただの堅物だと思う人は多くいる。仕方ないといえばそうだが・・・。
なんせ真田の周りには仁王や赤也など堅物を極端に嫌う自由人が多くいる。その比較で堅物だと思われやすい。
まぁ確かに堅い所はあるが、その中には優しさがある。
だからこの堅い所は長所だ。否、真田に短所などないだろう。柳はそう信じて仕方なかった。
柳の視界に白いモノが見えて足を止めた。
見上げれば、道の端に桜が咲き誇っていた。
「桜か」
「うむ。見事な桜だ」
柳はフッと笑う。
桜は何本も続けて植えつけられているらしかった。
柳も真田も桜を見上げながら歩く。そうすると、最後の桜に気付く。
「柳、桜がオレンジ色だぞ」
最後の一本の桜がオレンジ色の蛍光灯で照らされていたのだ。
その為桜が薄っすらオレンジ色に染まっていた。
とても幻想的な・・・視覚が桜だと分るのに、色が違う・・・その裏切られ感が何故か愉快に感じた。
その時フッと昔の記憶が甦る。
あれはまだ小学生の頃だ。
テニスクラブの帰りで真田が柳を誘ったのだ。
『オレンジ色の桜がある』
その頃の柳は今もよりも堅物で『オレンジ色の桜はない』と言った。今思えば、真実をズバと言わずに話に乗れば良かったと思う。
真田はと言うと否定されてムッとして『あったぞ!』と言い返した。
くだらない喧嘩だ。それから真偽を調べる為に、その桜の所へ向かった。
だが当然ながらオレンジ色の桜などなかった。
『おかしい!確かにあったのだ!』
うろたえる真田を見て、勝ち誇った様に笑ったのを覚えている。
オレンジ色の桜がある訳がないんだ。
その日、柳の辞書にそう書かれた。
だがあったんだ。
柳は「くくっ」と小さく笑う。
「本当にあったんだな」
オレンジ色の桜。
こんな幻想的な桜が。当時の真田はこれを見てどう思ったのだろうか?
舞い散る桜の花びらを掴みとって見てみる。
さっきまでのオレンジ色が嘘かの様に、白に近いピンク色をしていた。
その桜を優しく吹くと花びらは少し高く舞って、静かに落ちていった。
「綺麗だな」
そう呟けば真田はその桜から目を離さないまま「あぁ」と返事をする。
柳は静かに笑みを浮かべる。
お前といると、当たり前だった辞書がいっぱい書き変わる。
頭の中の辞書を訂正しながら、柳はそう思った。
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@言い訳@
ただ、ライドアップされた桜が綺麗だったよ、の話(ド殴:おい!)
きっと真田さんは堅いお方だけど、ありえない事もすぐに信じそうですよね。
では色々とスイマセン。失礼します。平成23年5月1日
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