好きの反対は嫌いじゃない。好きの反対は無関心。


 確か四コマの可愛い子ブタがそう言っていた。


 それは酷く苦しい事だ。そう思う。



 どうせなら嫌って欲しい。そうすれば、踏ん切りがつく筈だから。



 無関心な世界の真ん中に立つ君



 好きの逆が無関心と言う。じゃぁ他の奴等は無関心なのだろうか?

 フッと柳はそう思った。登校中の事だった。

 別に思想家の本を読んだわけでも、そんなニュースを見た訳でもない。ただフッと『好きの反対は無関心』という言葉を思い出しただけだ。

 好きというのは好んでいる事だ。好んでいるという事は大切にしている事だ。つまりそこそこ付き合いがある奴等は全員好んでいるという事で、好んでいるからこそテストに出ない個人情報を聞いても苦にならない。

 普通に付き合っている奴等は恐らく『好き』だろう。今柳の後ろから追い越し際に「おはようさん!」と声をかける仁王も好きなのだろう。

 柳は「あぁ、おはよう」と言いながら脳裏にある人物を思い浮かべる。


――――じゃぁ、弦一郎は何だ?


 好き?目の前で走る仁王と同じ『好き』で片付けていいのだろうか?いや、片付けないといけないのだろう。

 だがどうしても『好き』以上の何かが柳の心の中を荒らしていた。

 弦一郎の話を聞く度に、弦一郎を見つける度に、弦一郎と会う度に、弦一郎と話す度に、弦一郎が名を呼ぶ度に―――弦一郎が恋しく思うのだ。

 きっと今日は、その愛しい思いが爆発瞬前までに膨れ上がるだろう。


 なんだって今日は6月4日なのだから。





『そう言えば後少しで蓮ニの誕生日だな』


 あれは確か部活が終って駅に向かう道を歩いている時だった。弦一郎は思い出した様にそう言った。

 まさか弦一郎が自分の誕生日を覚えているとは・・・しかもそれを話題に出すとは思っていなかった柳はつい開眼してしまった。


『っという事は蓮ニは俺と同じ15になる訳だな』

『そうだな・・・』


 しみじみに弦一郎は遠くを見つめているが、弦一郎と柳の誕生日の間はたったの二週間だ。

 柳はつい笑ってしまった。きっと弦一郎にとっては二週間は大きいのだろう。二週間は確かに大きい。その二週間でかなり強くなれる。

 弦一郎は柳の笑いにムッとして柳を見つめる。


『笑う事はなかろう』

『あぁすまない・・・ただ弦一郎がまさか俺の誕生日を覚えているとは思わなくてな』

『覚えておるぞ。俺の誕生日が来る度に、後少しで蓮ニの誕生日だなっと思うのだ』


 その言葉に柳は体を揺らす。弦一郎が思ってくれる・・・だがすぐに考えを変える。

 当たり前だ。誕生日が近いのだから。誕生日が離れていたら弦一郎は思い出すのだろうか?

 弦一郎は前を向き直ったかと思うと、空を見上げる。かと思うと俯き頭を掻く。とにかく忙しい。


『どうした弦一郎?』

『いや・・・なんだ・・・蓮ニは欲しいものはないのか?』


 弦一郎は珍しく恐る恐るに聞いてきた。まさか弦一郎からそう言われるとは・・・。

 欲しいもの・・・柳は弦一郎から前のほうへ向く。遠くに駅が見える。真正面にある大きい駅だ。とっしりと構えている。まるで此処で行き止りの様な気がする。

 柳は口を開く。


『弦一郎から貰えれば何でもいい』


 例え趣味が悪いものでも・・・弦一郎の事だから書道用品とかだろう。弦一郎は眉を寄せる。

 何か言いたそうに口を開くがすぐに止め、少し経ってから短くこう言った。


『分った』


 何が分ったのか、分らないまま柳は笑った。より愛しそうに。





 なぁ弦一郎、この世界は無関心で溢れているんだ。

 この前駅の階段で転んだ人が居たんだ。それに気付きながらも無関心を装いながら通り過ぎた。

 そう、全てが無関心なんだ。かん高く笑う少女達もいれば、必死にゴルフ雑誌を読むサラリーマンもいる。彼等を知っている様で、全く知らない。

 そう、知らないんだ。だが弦一郎の事は知っている。弦一郎も知っているだろ?

 だから無関心の反対なんだ。好き、なんだ。なのに、何で必死にそれを拒絶をしているのだろうか?





 一時間目の国語二時間目の数学に続き、現代社会、理科が終っての昼休み。

 昼休みが始まって5分も経たない内に弦一郎がやってきた。今日初めて会う。


「おはよう弦一郎」

「うむ、おはよう・・・という時間代ではなかろう」


 確かに、今は昼だ。つい柳はクスッと笑ってしまった。

 だが弦一郎は真面目な顔つきで柳を見やる。


「ちょっと今から付き合ってくれないか?」


 付き合う、という言葉に少し反応をしたが、すぐに意味に気付き柳は「あぁ」と答えて立ち上がった。

 それから弦一郎は一言も喋らず歩き続けた。ときおり数歩後ろでついていく柳の方を振り向くが、それだけだった。

 着いたのはテニスコートだった。弦一郎はラケットを手に持ち柳に向ける。その状況が分からず柳は珍しくうろたえる。

 まさかこんな展開になるとは・・・いや、誰も思いつかないだろう。

 弦一郎はそんな柳の戸惑いを気にせずに言葉を続ける。


「一球だけ勝負だ」

「・・・分った」


 そんな真っ直ぐな目で見られて、しかも他の人と違う特別な相手に言われてなんで断れるだろうか?

 柳は部室に行き、己のラケットを取るとコートに戻った。

 弦一郎からのサーブだった。最初は軽く長く続いた。薄っすらと汗が浮び始めた頃に弦一郎の構え方が変わった。

 それに素早く反応して柳は身を構えた。今までとは違う早い球を柳は打ち返す。弦一郎はその球を何の躊躇いもなくコートギリギリの所へ打ち返す。

 走るが、制服の事もあってなかなかスピードが上がらず打ち返せなかった。

 汗が地に落ちる。それを柳は袖で拭おうとした時に、目の前にタオルを握った弦一郎の手が現れた。

 柳はそのタオルを受け取ると、それで汗を拭う。


「いい勝負だった」

「・・・そうだな」


 確実に弦一郎は強くなっている。もう追いつけない程に。柳は口元を緩めながら球を拾う弦一郎の後ろ姿を見つめた。

 弦一郎は手の中の球を見つめている。そんななんとも言えない哀愁漂う背に先ほどから思っていた事を口にする。


「まさかだとは思うけど、勝ったらプレゼントをあげるという計画じゃないだろうな?」

「ッ!!」


 弦一郎の体が大きく震えた。

 やっぱし・・・柳は溜息を吐く。なんとなく分かってしまった。柳が勝ったら『あ、あくまで賞品だからな!』とか言って渡しそうだ。


「別に気にせずに普通に渡せばいいだろ?」

「そう、だな・・・」


 弦一郎はそう呟くと柳に近づく。そしてズボンのポケットから一枚の細長い紙を取り出す。白い紙に赤紫色の花があった。きっと押し花の栞と言う事だろう。

 柳はそれを受け取る。


「蓮ニは本を多く読むからな」

「有難う、弦一郎」

「うむ」


 赤紫色の花の栞。柳は折れない様に優しく握りしめた。

 そんな柳を見て弦一郎は握り締めるテニスボールを見つめる。


「それと蓮ニ」

「なんだ?弦一郎」


「蓮ニ―――――」





 なぁ弦一郎、この世界は『無関心』と『好き』で作られていると思う。

 きっともっと調べれば『嫌い』も『尊敬』もあるかもしれない。

 でもどんだけこの狭い世界を探しても弦一郎は見つからなかった。


 好き? 嫌い? 尊敬? 嫉妬? 違う。 違うんだ。 


弦一郎はそんな狭い世界の中にいる訳がない。


ない筈なんだ。





「――――これからも宜しくなのだ」



 一層の事、目の前で照れる弦一郎を、無関心な世界の真ん中に立たせたい。

 きっとそうすれば俺は無関心な世界を全て好きに変えられるだろう。

 お前をどうやって無関心に追いやれと?無理な事を願う自分に自嘲しながら真田へ手を伸ばす。


「あぁ、これからも宜しく」


 6月4日。柳は弦一郎と握手をする。

 どうせなら嫌って欲しいと思いながら。


「最後に蓮ニ、俺はお前の事が―――――」



 無関心な世界の真ん中に立つ君。

 それでもその輝きは消えず俺の全てを埋め尽くす。


 お前にとって俺は無関心なのだろうか?

 
弦一郎は顔を赤くしながら、いつもとは想像的ない程小さな声で呟く。



「――――ずっと前から、」


 その先の言葉は言われなかった。

 気恥ずかしくなったのだろう。だから続きの言葉をこっちから言ってやった。


「弦一郎、愛している」




 6月4日、俺達は好きじゃない無関心じゃない、何かになった。




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@言い訳@
 一日遅れましたが・・・柳さん誕生日おめでとうございます!そしてこんな話でスイマセン!(殴:本当だ!)一瞬悲しい話になりましたが、無理矢理上に向かせましたよ!(殴:おい!)
 なんか難しい(?)意味不明な話で・・・とりあえず色々と考えているけど、くっついっちゃったよの話です。
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年6月5日



背景画像提供者:Abundant Shine 裕様