意味もなく心の中で呟いてみる。


『好きだよ』


 そうすれば感じ取ったのか、君は振り向いた。


 それにバツの悪い笑みを返した。



 何も知らない君。届けばいいのにな。



Period



「そーいえば、今日は6月13日らしいスね」


 書類の塔を机の上に置いてから、リーバーはどーでもいい感じに言った。それを聞いて元気が出たのだろう、コムイは顔をあげ満面の笑みをリーバーに向ける。


「そうだよ!今日は僕の誕生日なんだよねー」

「別に『アンタの誕生日スね』とか言ってないんスけど・・・まぁいいけど」

「だからさ、リーバー君・・・」

「駄目です」


 コムイの猫を撫でた様な声で言っている途中でリーバーはキッパリと遮る。それに面白くないのかコムイは口を尖らせ「まだ言ってないよー」と言う。

 それにリーバーが眉間にしわを寄せて「分ります」と答える。

 確かに机の上に書類の塔を作っている時に誕生日の話をしている時に出る話題は一つだ。しかもコムイからだと確率がさらに上がる。


 仕事を休ませて、だろう。


 さすがはリーバーである。コムイはムムッとしながらも心の中ではリーバーに感心していた。

 コムイは手を組み、その組まれた指の上に顎を置き、リーバーを改めて見上げる。


「でもさ、誕生日なんだから何かして欲しいよね」

「アンタは子供ですか。いい年して」

「うっ・・・リーバー君って酷い事をズバって言うよね・・・」


 相変わらずの辛口なコメントで・・・コムイは冷や汗を掻く。昔みたく常にツンツンはなくなったけど、たまに来るツンの一言は間違い無くコムイの心に響くものだった。

 リーバーは大げさなくらいに溜息を吐く。


「何をして欲しいんスか?」

「え?聞いてくれるの?」

「無理なものは無理って言いますからね」


 コムイは「わーい」と万歳をした。したのはいいが、いざ言われると何をして欲しいのか分らなかった。

 考え込むコムイにリーバーは首を傾げる。


「別に物でもいいスよ。ただ物だと後日になりますが」

「欲しい物かー、それも思いつかないんだよねー」


 この頃町に出る事は少ない。今世間で何が流行っているのか、面白い本は何か検討がつかなかった。


―――――欲しいものか・・・


 コムイはフッと視線だけ上に向ける。リーバーは壁際の本棚を見ていた。

 明るい茶色髪に、色素の薄い青い瞳。そして白い肌。どれもアンパランスなのに、芸術の様な感じがした。

 綺麗、かっこいい、かわいい・・・どの言葉が似合うか分らないが、見ていて飽きなかった。

 フッとこの何年も欲しかったものが脳裏を巡る。だが、それは無理だ。決して口にしてはイケナイ・・・イケナイ。


「まぁすぐにとは言いませんよ」

「逆にリーバー君なら何が欲しい?」

「俺ですか?」


 リーバーは虚をつかれ、んーと考え込む。


「そうスねー・・・仕事をしてくれる上司スかね」

「・・・それってもしかしなくても、嫌味?」

「嫌味以外何があるのです?」

「仕事をしてくれるって、仕事休みたいって事?」

「いえ、仕事をスムーズにしたいんスよ」


 本当に仕事熱心だねーコムイはつい苦笑いをしてしまう。悲しい事だが、今リーバー君が仕事をしなかったら、仕事に大きな穴が空く。

 本人は仕事をする事が嫌ではないらしい。寧ろ好きでやってる為、長期の休日を嫌がるタイプだ。

 心配するが、今のところ徹夜で倒れる事以外なにもないから大丈夫だろう。けど・・・


「なんか悲しい人生だねー」

「アンタには言われたくないスね」


 コムイは「ははっ」と笑った。


「駄目だよー恋とかしないと」

「一応してますよ」


「そうかして・・・え?」


 予想外の言葉にコムイは目を見開く。

 リーバーはコムイの反応に首を傾げる。やっぱし恥かしいのか、耳が赤かった。


「まぁ片想いですが」

「ふ、ふーん・・・そう」


 自分からフっておきながらコムイは気のない返事をした。それにリーバーはフッと笑った。とても切なそうに。


「ほんと、ありきたりな話です。両思いなのに」

「それって・・・」


 淡い思いが巡ったが、リーバーの痛々しい程の表情に考えが引っ込む。

 リーバーは一旦目を閉じ、数秒経ってコムイを見つめる。


「誕生日おめでとうございます、コムイ室長」


 そう言うとリーバーはコムイの方に顔を近づけ、触れるだけのキスをする。

 離れたリーバーの顔にはしてやったりの顔があった。


「まぁ、両思いだと分かってるんで、俺は気ままに待ってるんスけどね」


 リーバーはそう言うとコムイに背を向けて出入り口へと向かう。コムイはただ呆然とリーバーの背を見つめていた。

 廊下を出た所でリーバーは振り向いた。頬や耳が紅く染まっていた。


「プレゼント要求は今日中で、仕事が終った後からじゃないと受け付けませんからね」


 そう言うとリーバーは足早に出て行く。

それから数十秒間コムイは固まっていた。ようやく思考が回復していき、コムイは片手で己の紅く染まった顔を覆い隠す。


「これが世にいう誘い受けって事なの?」


 しかもちゃっかり仕事の要求しているし・・・コムイはフッと笑いペンを握り締める。


「さて、仕事をしますか」


 そして仕事が終ったらプレゼントを要求しますか。

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@言い訳@
 コムイさん誕生日おめでとう!!!そして、初めて誕生日ssを誕生日前に書き終わりました(ド殴)この小説をコムリバと言っておきます。あれです、誘い受けなんですよきっと・・・多分(殴)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成23年6月12日


背景画像提供者:Abundant Shine 裕様