空を見上げれば、いつもの青い空に雲が浮んでいる。

 地は今の季節ちょっと嬉しくない漆黒のアスファルト。
 そして横にはこれまた嬉しくない白い壁の家。
 熱い。日光が反射する。そのくせ、青い空に浮ぶ太陽は笑顔のまんま。

 だけど、それでも良いんだ。

 だって目の前には――――



「スパナ」


 そう呼べばスパナは口端だけを上げだ。それがいつものスパナの笑顔なのを、知っている。



【Apolimeo】



 あの日、出会った。俺とアイツ。

 いつもの様にくそ暑い季節に。アイツの汗まみれな姿に最初、なんで思ったんだろうな?覚えてないけど、当たり前の様に恋心は無かった。

 なのに今はどうだ?俺とアイツは周りが引くほど愛し合っている。まぁ、実際はそこまでじゃないが・・・。

 ただ俺はアイツの作業姿を後ろから見て、それでも中断しないアイツ。そんなお世辞にも『良い』とは言えない関係だ。

 勿論、キリが良い時に止めて俺の事を構ってくれるけどな。それだけで充分だ。

 まぁ、俺とアイツは付き合っている。ただそれだけだ。



 そんな関係から1年が経った。1年経っても、ジャポーネの空気は相変わらずじめじめとした耐え難い熱さだ。

 どんだけセンブウキをやっても涼しくなる気配がない。否、センブウキを利用している事がそもそもの間違いか?

 まぁしかし・・・俺の部屋はまだ良いかもしれないな。アイツの方は、と言うと・・・完璧に一言で言える。



「お前の部屋はサウナーか?」



 メチャクチャ熱い。本当に熱い。否、熱いとかそう言うレベルじゃない気がする。これだったらアスファルトの地面と直射日光の外の方が完璧涼しいぜ。

 アイツ、スパナの部屋はモスカを創る場所だ。モスカから発する熱や水蒸気で元から熱い部屋が尚熱くなる。

 それを冷やすにも、生憎此処には『エアコン』と言う気が効いたハイテク機械は無い。

 此処はさり気無くケチだったりする。エアコンが無い。あってもスパナ曰く『下手に凍らせたら困る』との事だ。エアコンで凍りつくか?と思い反論するが、無駄らしい。

 スパナにとって エアコン=凍り付いてしまうハイテク機械らしい。じゃぁモスカに備え付けられている冷房は何だよ、と思うがあえて口にしない。

 スパナなら『モスカが熱がっているからだよ!』とか言いそうだしな;だったら冷房を付けていない今の部屋は何なんだよ、って言う感じに永遠にこの問題は解決しない。だから俺はあえて折れのだ。

 それからあっと言う間に1年が過ぎ、相変わらずくそ熱い部屋で一人、スパナはモスカ創りをしていた。

 一瞬蒸し暑い部屋の中にスパナの姿が見当たらなかった。だけど、居た。しゃがむモスカの下でモスカの足の整備をしているらしい。

 俺はいつもの様に扉のすぐ隣、白い壁に寄り掛かった。そしてスパナをジッと見つめる。

 どうせ近づいても『邪魔』と言われるだけだからな。俺はボーとスパナを見つめる。いつもの様に。否、いつも本当にスパナの事を考えているのだろうか?

 違う気がした。多分スパナの事を見てないだろうな。ましてやスパナの事を考えているか?と問われたら・・・・2割は考えているかもしれないが、後8割は違う。

 俺の頭の中でジッリョネロファミリーの事が離れない。ボス。姫。皆・・・。

 必ずいつかファミリーを復興させたい。させる。そういう考えが、同じ考えが、俺の頭の中でくるくると回る。



 俺は最低だ。スパナは俺がファミリーの事を考えるのを良い様に思っていない。スパナ自身そんなにファミリーと深く関わってない。勿論ジッリョネロファミリーだった訳だが・・・そこんどこが凄い複雑だが・・・。

 でもスパナはこう思っている。


『ファミリーが復興したら捨てられる』って。


捨てない。スパナを好きになった・・・否、愛している事は変わらないんだから。

それでも、こんな風に『待って』いられるだろうか?こんな風に『構って』いられるだろうか?

そう考えると、否定は出来ない。それでもファミリーを復興させたい。スパナを離さない様にしたい。

俺は壁に寄りかかりながら腰を降ろし、座り込んだ。いつもなら立ち続けるんだけどな。どうしても立って居られなかった。

汗が重力の関係で下へと流れる。くそっ。俺は額に浮かぶ汗を手の甲で拭った。

それでも汗は流れ続ける。最悪だ。



 俺はゆっくりと目を瞑る。額に違和感がある。それは俺が手の甲を当ててるからだ。俺は手を下ろした。そうすれば少し額に違和感が残るが、次第に消える。

 違和感は消えるんだ。いつか、スパナの関係も消える?多分その真実を恐れているのは寧ろ俺の方だ。

 スパナは20代。俺はもう少しで30代。女にはモテる。だけど、こんな嫌な関係だからこそ、手を解けないし、手を離して欲しくなかった。

 ましてや俺もスパナも、倫理を批判してる。

 倫理をとうにか保とうとしてる気がする。それを俺の中で必死に無くそうとしている。

世間の目なんでどうでも良いんだよ。俺は俺だ。俺が選んだ。スパナも俺の事を認めてくれた。だから、この関係になっている。

ファミリーが復興しようが、変わらない。

でも分かっていた。これは結局束縛だ。束縛なのだ。倫理を犯したからこそ、人肌が恋しい。だから俺はスパナに触れている。そのくせ俺は世間が怖い。

俺は何になりたいんだ?



 その時、違和感が消えた俺の額に違和感が生まれた。とても温かい。俺よりも汗ばんでいる。

 それでも心地良い。その汗ばんだ温かさは離れた。それに俺は内心ショックを受けずつ、目を開けようとした。

 その時、汗ばむと違う、柔らかい感触がした。

その感触は呆気なく離れた。俺は改めて目をゆっくりと開け、顔を上げる。そうすればスパナが手の甲で口を拭っていた。


「・・・あ、起きた」


 そう言うとスパナは俺の隣に座った。スパナの視線先には整備していたモスカにあった。俺もモスカを見る。黒い生地に『スペア』と白く書かれたモスカ。スパナのお気に入りだったりするらしい。

 俺から見たらどれも同じだけどな。


「・・・目、閉じていたから死んでるかと思った」


 スパナは飴をモゴッと動かしながら残酷な言葉を漏らす。俺はそれに苦笑いを浮かべた。


「俺は暑さでノックダウンしても、死なねぇよ」


 ノックダウンはしても、な。正直今も汗を出し過ぎて頭がくらくらする。ジャポーネの夏は本当に苦手、ていうか嫌いだ。

 スパナはようやく無表情から口端を上げる、スパナ特有の笑みを浮かべた。



「γは生きるだろ?・・・ウチを置いて行かない」



 俺はスパナの言葉に目を見開き、スパナの方を向く。スパナの口端は上がっている。しかし、鼻より先は微かに泣きそうだ。

 相変わらずスパナは、笑わないし、かと言って人前で決して泣かない。そんな強がり。

 だからスパナを『悲しませない』と心の中で誓った、筈なのに・・・。


 俺は最低だ。


 結局俺中心なんだな。


 俺はスパナのカナリヤ色の髪に触れ、スパナのこめかみにキスを一つ零した。そして顔を離す代わりにスパナを横から抱きしめた。


「俺を勝手に殺すんじゃねぇーよ」


 生きる。生きるさ。

 もう、悲しませないからな。

 そう思うと自然に抱きしめる手が強くなる。


「一生、スパナを守って、生きて、スパナを独りぽっちにしねぇよ」


 俺はそう言うとまた目を閉じた。

 そうすれば、温かいスパナを感じた。



 青い空の下を流れる雲を目で追う。

 俺はスパナに手を伸ばした。だけど、スパナに届かない。

 スパナは次第に不安な顔へとなる。


「大丈夫だ」


 俺はそう言うとフッと笑みを浮かべ、手を下ろした。


「死なない」


 目の前にもうスパナは居ない。

 白い壁が熱い。黒いアスファルトが熱い。目頭が熱い。


「お前を置いて、死ねない」


 口端から紅い液体が流れるのを感じた。でも、俺は死なない。俺は虚ろな目で青い空を見上げた。


 相変わらず太陽に笑っていた。元気に。


 雲、今だけ許してやる。だから、この笑顔を消してくれ。


 俺はそう言ってゆっくりと目を閉じた。



 次、目を開けた時にスパナが居る様に、と。(※死ネタじゃないです)

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@言い訳@
 なんか死ネタみたいな感じですが、途中でメチャクチャ内容変えました(ド殴)最初から内容など無かった訳ですが・・・一応『10年後の雲雀さんにやられた後』です。だから死んでません!!
 正直その時の単本持ってませんorz後で・・・その後を書きます・・・じゃないと死ネタで終りそう(ド殴)
 では色々とスイマセン。失礼します。平成21年6月23日

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背景画像提供者:短生種の戯言 マスタァ様